冬になる前にしておきたい
家仕事をしながら
久々に聴いたオーディオブック
『夜明けのすべて』
何度も目頭が熱くなりました。
物語は
20代半ばの
藤沢さんと山添君の二人の視点で
交互に語られます。
オーディオブックでは
声優の
吉野貴大さん、松井暁波さんの
お二人が演じていました。
声を聴くせいか
それぞれの独白を聴いているような
あたかも我が身に起こったかのような
そんな心境で
どっぷりと作品世界に入り込みました。
『夜明けのすべて』
藤沢さんは辛い不調を
学生時代は
時間の融通をつけて
なんとかやり過ごしていた。
その重いPMSが理由で。
山添君は公私ともに充実していた
入社半年後、
これから本格的に働くぞ、
というときに突然発症した。
パニック障害が理由で。
それぞれに
自分が思い描いていた
社会人としての生き方を
辿れなくなります。
見えにくい辛さを抱えた人が
身近にいることは
めずらしくないと思います。
瀬尾さんならではの
やわらかな語りと
淡々とした日常は
文字で読み直すと、
物語として落ち着いて読めたけれど、
オーディオブックで
一人語りを
気持ちのこもった声で
聴いていると
暗くて、長くて
明るい朝が来る日を信じられない日々に
不安で押しつぶされそうな姿がみえて
息苦しくなりました。
聴いている最中に
タイトルを思い出そうとして
夜中のすべて
と唱える自分に気づくほど。
作者、瀬尾まいこさん自身の
実体験がもとになっただけあり
発病してからの動揺や
不安な心情などの
語りがリアルでした。
初めて聴いたとき、
文章は淡々と綴られてはいるけれど、
心情吐露の思いがけないリアルさに、
主人公達と同じような立場の人にとっては
読みたい物語になれるのか
疑問に思いました。
病状が重いときには
本を読むどころではないだろうけど。
思い出して苦しくはならないだろうか
瀬尾さんが願うように
ほっとするお話になるのだろうか。
そんなふうにも思いながら読みました。
当事者でない者の読みでは、
藤沢さん、山添君
それぞれがかかえる
生きづらさを想像しつつも、
二人がやりとりする姿に
孤独さが薄れ
会話のずれにおかしみも感じさせます。
互いの苦しさに気がついて
少しでも
助けたいと思って
自分のことで精一杯だった二人が
少しずつ
動きはじめる姿に
傷ついて
後戻りしませんように、と
祈るような気持ちで読みすすめます。
自分のためよりも
誰かのためのほうが
力が湧く不思議さに驚くことがあります。
そんな心のひだを
おだやかに描き出せるのは
瀬尾まいこさんの
真骨頂ですね。
本人の辛さを代わることはできない。
そこは独り。
ただ
一緒に働く人達が
同情するでもなく
ごく自然にそばにいて
あるがままに受けとめてくれることが
実は
生きやすさにつながること。
見返りをもとめず、
相手のことを思って動きだしたら、
それまで限界を感じていた
自分が思いがけず変わっていくこと。
後半は
できすぎ感もあったけど、
物語として清々しく読めました。
語られるささやかな日常のなかで
少しずつ前に進む姿に
ふと、ある本を思い出しました。
『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』
むかし書評を読んで心惹かれて
手にいれた本。
その書評。
暮らしの手帖 84 とと姉ちゃんの影響ですね
タイトルは
統計的に自殺者の少ない島に来た
ある若者のことばです。
書評に説明が載っています。
精神科医の森川すいめいさんが
岡檀(まゆみ)さんの
自殺希少地域の研究に衝撃をうけ、
自殺希少地域は
他の地域と人間関係に
どんな違いがあるのか
旅人としておとずれ
地域の人との語らいを通じて
気づき、考えたことをまとめられた本です。
オープンダイアローグについての本でもあります。
久々に読み直したら
森川さんの旅に重ねて
自分がかかわった人との時間をふりかえる
心の旅ができる
やっぱり好きな本でした。
昔この本を読んでから、
通りすがりに出会う困っていそうな人に
声をかけることに
躊躇いが少なくなり、気楽になりました。
もしも余計なおせっかいに思われても、
すぐに忘れてしまうような
大したことないことをしているに過ぎないでしょう、と思って。
改めて読み直して、驚くことに、
この本に登場する自殺希少地域の人々が
困っていそうな人にさしのべる行為の根拠が
『夜明けのすべて』の登場人物達と
よく似た考え方にもとづいているように思えました。
フィクションを心地よく読みながらも
地域の人々が長い時間をかけてたどり着いた
対話的な生き方の核心めいたところに
触れられる手軽さに
今はただ胸を打たれています。
生きることに、
その不確かさに寛容であることは
生きやすさと関係するのだと感じる。
世界には困難なことがたくさんある。
人生とは簡単なものではない。
たくさんある困難すべてに
全面対決することなどてきない。
しかし工夫することを知っていたら
人生の困難は乗り越えやすくなる。
いまはまだ、
読後に
たくさん語りたい気持ちも
まとまらない気持ちも
どちらもあるけれど、
どちらも読んでよかった一冊です。
おまけ
『夜明けのすべて』の表紙を見ると
水鈴社という見慣れない、
綺麗な響きの社名があります。
『夜明けのすべて』が第一作なのですね。
サイトには、瀬尾まいこさんの直筆メッセージが寄せられています。インタビュー動画も載っています。
もしもこの作品が映画化するなら
丁寧な映画づくりを考えてくれそうな気がします。
志ある出版社が
これから出す本も楽しみです。
おまけ その2
夕暮れの月。
金星が隣で光っていて
まるで
月が一人じゃないみたいでした。








