時間が経ってしまいましたが、赤坂ACTシアターで『サンセット大通り』を観劇した時の感想です。

無事に大千秋楽も終わったようなので、そろそろ感想をアップしておきます。


Going my way ~どこまでも続く道~-サンセット大通り♪

★ストーリー

ジョー(田代万里生さん)は売れない貧乏脚本家。映画プロデューサー・ジェルドレイク(戸井勝海さん)に売り込みをかけるが、相手にしてもらえない。借金のお願いも、にべもなく断られる始末・・・。


借金取りから追いかけられて、迷い込んだのはサンセット大通りのある荒れ果てた屋敷。そこには世間からすっかり忘れ去られた無声映画の大スター、ノーマ・デズモンド(安蘭けいさん)と執事のマックス(鈴木綜馬さん)が暮らしていた。映画界への復帰を夢見るノーマは、ジョーが脚本家と知り、自らが書いた『サロメ』の脚本に手直しを依頼する。躊躇しつつもお金のためにと引き受けたジョーは、ノーマの屋敷で暮らすはめに・・・。


ある日、ジョーは脚本家を志望するシナリオ閲覧係のベティ(彩吹真央さん)に、お蔵入りになったジョーの脚本を一緒に書きなおしたいと頼まれる。彼女は助監督で親友でもあるアーティ(矢崎広さん)の婚約者。愛らしく賢いベティに、気持ちは揺れる。


ノーマの束縛は日増しに激しくなっていく。脚本が仕上がった後も、ジョーを屋敷に留め、高級な服を買い与えて着飾らせる。新年パーティでノーマの気持ちを知ったジョーは、耐えきれず屋敷を飛び出し、昔の仲間の元へ。屋敷を出る決意を伝えるため、ジョーはマックスに電話をかける。しかしノーマの状態を聞き、再び屋敷に戻ることになる。


脚本を届けたパラマウントからの連絡を受けて、ノーマは旧友のデミル監督(浜畑賢吉さん)に会うために、撮影所を訪れた。懐かしい現場。顔見知りのスタッフ。栄光に満ちた大女優としての日々が甦る。デミル監督やスタッフたちにあたたかく迎えられたノーマは、長らく夢見ていた映画界への復活を確信する。だが、そこには厳しい現実が待ち構えていた・・・。

(『サンセット大通り』プログラムより)


以前から上演して欲しかったミュージカルということで、とても楽しみにしていました♪

ブロードウェイ・ミュージカルとして、トニー賞最優秀ミュージカル作品賞も獲得している作品です。


期待して以上に素晴らしいミュージカルで、観終わった後、しばし放心状態になったほど・・・。

一番素晴らしいと思ったのが、登場人物、それぞれの心理描写が手に取るようにわかったことです。

いつも私は舞台やミュージカルを観劇に行くと、登場人物のそれぞれの気持ちを考えながら観劇するのですが・・・。キャストのみなさんの演技、音楽、セット、照明・・・全てが素晴らしくて、目に見えないものまで見えてくるような作品でした。


音楽は、『Cats』、『オペラ座の怪人』、 『ジーザス・クライスト・スーパースター』、『エビータ』で有名なアンドリュー・ロイド=ウェバー♪


セットも素敵でした♪

『サンセット大通り』というと、大豪邸のプール!なんといってもプール♪このセットがどんな風になるのか?気になっていたんです。

ウエストエンド&ブロードウェイ版でも、超ド派手なセットだったらしいし・・・。ポスターの背景も、煌びやかな豪邸の写真と合成してあったし・・・。

それが、実際はとってもシンプルなセットだったんです。

階段が盆の真ん中にセットされていて、場面によって、ノーマ邸の階段になったり、撮影所の階段となったり・・・。

プールにこだわっていた私が恥ずかしい!

美術を担当されたのが、二村周作さんでした。(以前、『ガイズ&ドールズ』を観劇した時、シアタークリエの狭い空間に、どこまでも続くマンホールを再現していて、素晴らしい美術だったんです♪遠近法をうま~く使われていました。)

二村さんのシンプルだけど、場面によって不思議と豪華にも観える・・・素晴らしい舞台美術があったからこそ、キャストの方達の心理描写まで見えてきていたと思います。


そして、主人公のノーマの豪華な衣装が次々と替わるのですが、衣装を担当されていたのが、『エリザベート』も担当された有村淳さんでした。


最初に、安蘭ノーマが現れた時、あまりの存在感に驚きました!ノーマは無声映画の元大女優なので、まばたきもせず、まなざしで語る演技をする安蘭さんに圧倒させられました!

ジョーを演じる田代さんがあまりにも普通の青年に観えてしまって・・・。

それが、1幕最後でノーマと結ばれて、2幕の冒頭でSunset Boulevard♪を歌うあたりから、ギラギラと野心に溢れて、これまた普通の青年ではなくなり、ジョーも少しずつ狂ってきているのがわかりました。


ジョーが死んでしまうことがわかっていたからなのか・・・。

ストーリーが進めば進むほど、どんどん死へのカウントダウンのような恐怖を感じました。音楽やセットや照明から、ゾクゾクする怖さを感じながら観ていたんです。

それは、ジョーが死んでしまう恐怖だけでなく、ノーマがどんどん狂気に満ちていく様子が怖かったから・・・。(安蘭さんが声高らかに笑うシーンが何回かあるんですけど・・・。心の叫びのように哀しい笑い声にも聴こえました。ノーマは夢と現実の区別がつかなくなっていったのかも・・・。)

ノーマは、最初からお金をあげるからと言ってジョーに近づき、ジョーも借金返済のため、自分の夢を叶えるため、野心のためにノーマを利用しようと企むわけですけど・・・。

ノーマがジョーに恋心を抱き・・・その関係の中に、徐々に男女の複雑な愛憎関係が見えてくるんです。

ジョーは、魅力的な取引やノーマの甘い誘惑にどっぷりと嵌り、後に引けない状況に陥っていくわけですよ・・・。

そこに、若くてかわいいベティ(彩吹真央さん)が現れて、ジョーがベティに惹かれることで、ノーマの嫉妬心がさらに高まっていくという・・・。三角関係になって、ドロドロとしていくわけです。


女の怖さ、醜さも見せながら、ノーマが酷い人間に見えなかったのは、ノーマを演じたのが安蘭さんだったからだと思います。ジョーに恋心を抱いたノーマは、まるで少女のようなはしゃぎっぷりでした♪その後の行動は、ちょっと大女優でないと・・・と疑問に思う行動が多々ありましたが!(笑)私に振り向かない男はいない!ってくらいの勢いでジョーにアタックしますから♪

ノーマは過去の栄光にすがり、周りは全く見えていませんから・・・。周りの人間の気持ちはおかまいなしで、自分の気持ちを優先させて突っ走ってしまいます。

本当は、どんどん時が過ぎて、周りも変わってしまっているのに、時代に乗り遅れてしまっていることに気がつかないノーマ・・・。

夢を掴むために、ノーマに合わせて媚びていたジョーですが、あまりにもノーマの束縛が強くなりすぎて、自由の無くなったジョーは、ノーマの気持ちとは裏腹に、どんどん離れていってしまいます。(自分の気持ちを優先したくても、その考え方で人の気持ちを繋ぎとめておくことなんてできないもの。)

追い込まれたジョーも酷いことを・・・。ジョーがノーマのプライドを傷つける言葉を投げつけた行動は、人として許されないと思いました。


そして、最後に悲劇が起きてしまいます。

ジョーをピストルで撃ち放すノーマ!

この瞬間、ノーマとジョーの未来も夢も・・・全てが消えます。そして、執事のマックスの夢も・・・。

その後、プールに浮かぶジョーの遺体が見えたような気がしました。プールのセットは全く関係なかったのでした。


これは舞台を観劇していない方には、感動が伝わりにくいと思いますが・・・。

最後のノーマ・・・安蘭さんの姿に驚きました!最後、ノーマ邸の階段を下りてくる大女優ノーマ。ノーマのベールが取れた時の姿に、涙、涙・・・となりました。


この舞台、実は冒頭から、遺体となったジョーの亡霊が現れて語り始めたんです。これが面白かった!ジョーが死んでしまうのがわかっているからこそ、ミステリアスなんですよね!(ジョー!夢と自分の命とどっちが大事なの!早くこの屋敷から出て行った方がいいよ・・・逃げて~!と思いながら観劇していました。(笑))


印象的なシーンがたくさんありました。

1幕の終わりに、ジョーがノーマ邸から逃げ出して(笑)、ハリウッドの映画関係の人たちとパーティーをしているシーンがあったんですけど・・・。そのバックで、ノーマ邸の様子も伺えて、ジョーがいなくなったことでノーマが狂乱するシーンがありました。映画だと簡単に表現できそうなシーンですけど、舞台で、場所は違うのに、同じ時間に起きている出来事を表現できるって凄いと思いました。


ノーマが過去に出演した無声映画を、ノーマとジョーそして執事のマックスの3人で観るシーンも好きでした♪(夜な夜な、ノーマ邸では無声映画上映会というものが開かれるわけですよ!)


このシーンで、マックス(鈴木綜馬さん)が映写機に映し出されている映像を観て微笑んでいました。(劇中、綜馬さんが笑顔になったのは、多分このシーンだけだったのではないか?と思います。)

このマックスの表情で、観えていないはずの無声映画の映像が、私の心の中にはっきりと観えた気がしました♪同時に、マックスのノーマに対する深い想いも伝わってきました。

綜馬さんが、素晴らしい演技を見せていました。

随分と御無沙汰してしまった綜馬さんでしたけど・・・。私から助演男優賞を差し上げたいくらい♪


マックスは、実は元映画監督。それも、ノーマを過去に撮ったことがある監督で、しかもノーマの元夫。

ノーマの才能を一番理解していて、ノーマを深く愛し・・・。ノーマがプライド高く強がって見せていても、実はとっても繊細な心の持ち主であることまでちゃんと理解していた人物だったんです。ノーマにファンレターを書き続けていたのもマックスだったし・・・。ノーマを世界中の誰よりも愛するファンでもあったんですよね。ノーマ命!(笑)素敵なマックスでした♪

ノーマ・・・側にこんな素敵な人が居たのに、どうして気がつかずにジョーに走ってしまったの!って言ってあげたいくらいでした♪


観劇できて本当に良かったと思ったミュージカルでした♪