今月のBSプレミアム『極上美の饗宴』は、東山魁夷の特集です♪


風景画の巨匠にして国民的画家・東山魁夷。魁夷が残した作品の現場を旅しながら、そこに込めた思いや技を解き明かしていく3回シリーズの第1回、ドイツの旅が放送されました。


東山魁夷は、東京美術学校日本画科(現:東京藝術大学)で学び、卒業後、ドイツに留学し、ベルリン大学で学びました。留学から帰国して、終戦直前に召集を受け辛い経験もしています。兄を亡くしていましたが、戦中に父が亡くなり、続いて戦後に母も亡くしています。さらに、第1回日展で落選してしまい、その直後に、最後の肉親であった弟を亡くすという悲劇に見舞われます。

その2年後、「残照」でやっと評価を受けることができます。


名声を得ながらも画家として道に迷い、61歳の時、若き日に留学したドイツへ再び旅立ちます。そこで、戦争によって破壊された町並みが元通りに復元された姿や静寂の湖を目にし、魁夷はどんな想いで画を描いたのか?という内容が放送されていました。


ローテンブルクで描いた「窓」について、凹凸のある描き方の技法が紹介されていました。(魁夷は、美しい花が飾られる窓を見て、心が惹かれたようです。窓は心の通い道のように、外を通る人たちに親しい挨拶をかわしているように魁夷には見えたそうです。)

リューベックでは、トーマス・マンと自分を重ね合わせながら描いた作品が紹介されていました。


そして、私が一番印象に残った作品が、「みづうみ」


Going my way ~どこまでも続く道~-みづうみ

鏡のように静まり返った湖の水面に、みどりの木々と、その後ろにそびえ立つ岩山が映りこんでいる作品です。


それまで、日本では伝統的に画に影を描くことはなかったそうです。

水に映る倒影でさえ、画に表されることはなく、立体感を描こうとした西洋画とは違い、日本では立体感や陰影をあまり求めなかったようです。その伝統を打ち破ったのが、魁夷でした。


魁夷の代表作として知られる「緑響く」では、湖面にくっきりと倒影が表れています。(「緑響く」については、以前、ブログに書いたことがあるので、詳しくはこちら へどうぞ。)


「みづうみ」は、ベルヒテスガーデン国立公園内にあるオーバー湖を描いた作品なのだそうです。素敵な景色が映っていました。


Going my way ~どこまでも続く道~-極上美の饗宴

面白かったのが、ドイツの風景写真家のマックス・ケストラーさんという方が、魁夷が「みづうみ」を描いた同じ場所の写真(岸の線を変えた写真)を何枚も撮っていたこと!画面の3分の2を使って描かれた水に映った岩山が、一番想像力をかきたてるという結論に至りました。


Going my way ~どこまでも続く道~-極上美の饗宴

大きな倒影の画面で最も伝えたかったことを推理して、ここの静寂を表したかったのでは?色彩も静けさを象徴しているのでは?とマックスさんがおっしゃっていました。


湖の岸辺に建つ小屋で、魁夷は飾り皿に書かれた“静寂は人にとって 神聖なもの”という文字を見つけたそうです。人々が深く心に刻んでいる言葉に感銘したそうです。


日本では高度経済成長となり、自然がどんどん破壊されていき、そのことに失望していた魁夷が、ドイツの自然と出逢い、自然は人が大切にするから美しい・・・と心を打たれたそうです。


“ここにあるのは 森厳な自然の威容を前にして 人間の心に起こる 敬虔な思いである 湖は厳然と守られるのである”という魁夷の言葉が紹介されていました。



先月29日、日経新聞の「美の美」に、ちょうど東山魁夷の画が掲載されていたんです。川端康成が東山魁夷や安田靫彦といった日本画家と深い親交があったことについて書かれていた記事でした。


Going my way ~どこまでも続く道~-美の美

川端康成は魁夷の展覧会に美しい文章を寄せ、揮毫した書を贈り、魁夷も川端康成の小説の装幀を手掛けたり、自分が描いた絵を贈呈していたそうです。新聞に掲載されていた「北山初雪」は、魁夷の代表作で、川端康成がノーベル賞を受賞したお祝いに贈られた作品であったことを知りました。


また、川端康成は、少年時代に画家を志願していたことがあったそうで・・・。魁夷は戯曲や短歌を作っていたので、そういったことも関連して、2人は互いを理解し、影響しあっただけでなく、喜びも分かち合った仲だったのでは?というような内容でした。


幻想的で、独特の世界感をもつ東山魁夷の作品に秘められた思いが感じられるような・・・そんな番組でした。

テレビや新聞から、魁夷は画だけでなく、美しく情緒を感じさせる日本語を書くことのできる文才にも長けた方であったことを知りました。

画でも文章でも、内に秘めた思いを表現できる素晴らしい方であったことを改めて感じました。


今後の『極上美の饗宴』 シリーズ東山魁夷の旅の放送予定は・・・。

☆6月20日(月) 「東山魁夷日本の心を旅する 京都・千年の営みに挑む」

☆6月27日(月) 「東山魁夷日本の心を旅する 山河に見つけた“原点”」


そして、今週6月11日(土)から山種美術館で、『美しき日本の「原風景」 ~川合玉堂・奥田元宋・東山魁夷~』が開催されます。奥田元宋と東山魁夷、私の好きな画家の作品がダブルで観れる展覧会なので、とても楽しみです♪