昨日のNHK『マネー資本主義』 は、最終回~危機を繰り返さないために~でした。
今まで放送された、4つのキーワード「投資銀行」「金融工学」「年金マネー」「アメリカの政策」を振り返りながら、世界の賢人たちから寄せられたメッセージをもとに、これからの経済のあり方について探っていく・・・という内容でした。
まず最初のキーワードは、「投資銀行」。そして、「金融工学」へ・・・。
80年代初めに登場した「モーゲージ債」から、リスクの高い仕法を取り入れ、借金をして、数十倍もの取引を行うというレバレッジへ・・・。
90年代、投資銀行の利益追求の舞台は、世界に広がっていきます。
世界各国が金融を自由化するや否や、アメリカからのマネーが世界中の株式、金利、為替、債券ありとあらゆるものが、マネーゲームの材料となっていきます。
投資銀行の暴走は、止まらなくなります。
投資銀行が様々な商品を開発する上で駆使したのが、「金融工学」でした。
金融工学は、経験と勘がたよりだった、それまでの世界に、数学理論を持ち込み、取引のリスクをコントロールする技術です。物理学や宇宙工学などを学んだ科学者たちが、ウォール街に集結しました。
次々に新しい議論で、金融商品を開発、中には、ノーベル賞を与えられた人もいました。
ひとつ、ひとつは、リスクの高いサブプライムローンの債権も、金融工学で、切り分け、組み合わせることで、安全で高利回りの商品に生まれ変わりました。
それは、まるで福袋!色んな商品が入っているのに、でも外から見てもわからないものへと変身してしまったのです。
ハーバード大学卒、金融工学の担い手、ジョン・ソー氏が、サイコロを使って金融工学のリスクの軽減方法について説明をしていました。(第4回の時のビーカーの説明も、わかりやすかったですよ!)
1つのサイコロで、“6”の目の出る確率は、6分の1!それを4つのサイコロに増やし、同時にふって、同じ目が出る確率は、ぐっと低くなります。(リスクの確率は、かなり減るという理論!)
世界は、いつの間にか、巨大なリスクを抱えることになっていきます。
マネーの暴走を引き起こした、そのメカニズムは一体何か?金融工学が悪かったのか?それとも、それを扱った人が悪かったのか?
科学者レイ・カーツワイル氏は、「金融工学は、悪くない。むしろ、それを使う、人間が悪い・・・」
東京大学の宇沢弘文名誉教授は、「本来、人間の心とか幸せだというものを数式で表すのは、とんでもない。金融工学が悪い。」
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は、「本来、金融工学というのは、際限な利益を追求する場所。倫理に反しない限り、利益を追求する行動を責めない。少ない資金で、最大の利益を生み出すのは、金融市場の自然な姿。問題となるのは、政府の規制から逸脱し、リスクを顧みない行動をとった時。この金融危機は、市場がもともともつ弱点と愚かさをさらけ出したといえる。今こそ、市場の役割を改めて考え直すチャンス!」
その後、次のキーワード「年金マネー」へ・・・。マネーゲームに飲み込まれてしまった、アメリカのカルパースと日本の全国中央市場青果卸売厚生年金基金(青果年金基金)についてが放送され・・・。
次のキーワード「アメリカの政策」へ・・・。
グリーンスパン前FRB議長が、異例の低金利を長期間放置していた為、事態が悪化していった事についての内容があり・・・。
そして、元西ドイツ首相で、欧州の共通通貨ユーロの創設にも関わった、ヘルムート・シュミット元首相が登場!
かつては、金融界の司令塔といわれていたグリーンスパン前FRB議長について、グリーンスパンのお陰で、マネー流通が拡大していった・・・。グリーンスパン、1人の責任ではない・・・。アメリカの政治全体の責任であると言っていました。
また、中国 清華大学国情研究センター主任、胡 鞍鋼氏は、今こそアメリカ主導できた金融のルールを改めるべきと言っていました。
ここで、ノーベル経済学者、コロンビア大学ジョセフ・スティグリッツ教授は、金融危機の対応策としてまとめた“通貨と金融制度の改革について”、世界を支配するドルに変わる「新たな基軸通貨の創設」、先進国主導ではなく、全ての国が参加して話し合う「世界経済理事会の常設」などを、掲げていました。
ジョセフ・スティグリッツ教授は、現在、世界の金融問題に的確に対処する組織はいない・・・。
IMFは、様々な欠点をもち、今回の危機を防ぐことが出来なかった。
IMFは、危機を引き起こした、アメリカの考えに支配されていた・・・。
そもそも、歴代の総裁が、金融市場の出身者が勤めていたことから問題があったと言っていました。
6月24日、国連総会特別会合の場で議論に参加した国は、140カ国。
ジョセフ・スティグリッツ教授の“通貨と金融制度の改革について”の考えが、この場で発表され、途上国は賛成。
しかし、先進国は、消極的な姿勢を示しました。
特に、アメリカは、そもそも、国連が経済問題に口出しする権限はないと主張しました。
最後に、ヘッジファンド投資会社代表ジム・チャノス氏と、再びハーバード大学のマイケル・サンデル教授が登場しました。
ジム・チャノス氏は、「資本主義は、富を均等に配分することはない。資本主義は、不均等をつくり出すもの。金を得ようとするのなら、傷を負うことは覚悟すべき。」と言い、自由競争を徹底することが、これからの資本主義を切り開く道という考え方を示し・・・。
マイケル・サンデル教授は、自由競争が社会を破壊し始めていると警告していました。
市場主義は、教育現場を覆い始めている。社会の目的は、経済成長だけではない・・・。
今こそ市場に支配されない、しっかりとした社会基盤が必要で、「公共」という概念を取り戻す事が重要である・・・。市場を政府に任せてはいけない、という考え方でした。
番組の途中、スタジオにゲストとしていらしていた、コピーライターの糸井重里さんの言葉が、とても印象に残りました。
昔は、戦争という形だったもの、国際紛争が、目に見えない、お金だけの紛争に代理化されているように受け取れる・・・。
この糸井さんの意見、とても納得してしまいました。
他に、アメリカの考えに支配されないために・・・。金融に限らず、人として、こうあるべきではないか?という考えを述べられていました。
“貧しくて、かっこいい人の見本を見たことがないんだよね・・・。
ちょうどいい、幸せそうな人って誰?
うまくいきました、こんなに儲けましたというヒーローばかり注目されてしまう・・・。
1番の人ばかり見てきた。
野球の選手で、ちょうどよく活躍してきていますという選手が、やっと現れてきたけど・・・。
バントだけで、世界記録をもっている選手(犠牲バントの世界最多記録をもつ、元プロ野球選手の川相昌弘さんのことだと思いますが・・・)とかいて、それを、じっと観るファンがいなかったら、あの人は、張りがなかったと思う。でも、じっと観るファンがいて、情勢されていったんで、バントすることが、すごく誇りになっていったんだと思う。
価値観て、その人だけじゃなく、みんなで作るものだから、いろんな良さを、これから探していく時代がきたと思う。”
この糸井さんの考え方が、とても印象に残りました。
全5回『マネー資本主義』を通し、金融危機に携わった大物関係者が次々と登場して、色んな考え方を聴くことができました。すごい方たちばかりが登場して、1人のインタビューが、2、3分にまとめられて、贅沢な内容(笑)でした。
『マネー資本主義』のHPは、こちらです。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/money.html
第4回の再放送は、7月22日(水)午前0時45分~1時34分 (21日深夜) 総合
最終回の再放送は、7月25日(土)午前1時35分~2時48分 (24日深夜) 総合