将棋小説のひとつですが、めちゃくちゃ良かったです。

今年に入って完読した1冊目はこの本でした。

本の雑誌社のオリジナル文庫本大賞でもこの本が大賞受賞としています。



将棋小説は結構好きであれこれ読んでるのですが、いわゆる3月のライオンの初期のようなヒリヒリする戦いや、棋士たちの生き様にぐっとくるものは限られていました。


もちろん丁寧な取材をもとに書いたのはよく分かりつつ、これ将棋でなく麻雀でも碁でもよくないか?的なものを時折感じてました。


とはいえ作家さんたちの技量でとてもおもしろく書かれていたので、どれも楽しく読んでいました。


今回の本はそんななかでも、これまでの将棋小説における取材をもとにリアリティを出していた小説とは一線を画しています。


とことんリアルなヒリヒリした心情や周りの関わり方が描かれています。

それもそのはずで筆者がそもそもの経験者だから。

ただ経験者だからこそついつい省略したり、変なこだわりを書いたり、心情表現がつたなかったりするようなことがありがちですが、この本では全くありませんでした。

とにかくグイグイ読ませます。


3月のライオンの零くんと同じように、ただ将棋に勝つための生活をストイックに過ごしていたのに、零くんになれない自分…から物語ははじまります。

一方でライバルだったはずの旧友は気づけばもうA級クラスのバリバリの棋士です。

ずっとC級をさまよい25歳になったとき、エリート旧友は言います。他の選択肢も考えてみては?と。


残酷なのだけど、勝負という結果がなんぼの世界だからこその言い訳のできない環境です。


そして主人公はどうするのか。

ここから始まる物語。


同じように行き詰まりを感じたときにある道を選ぶ女流棋士の話が後半に出てきます。

主人公と結果に違いがあるのですが、その理由を次の天才と言われる奨励会の一人がつぶやくシーンが全てを物語っていました。


誰もが読みたいシーン、読みたい物語をその人の人生からピックアップします。

それは時に見たくないものは存在しないことでもあります。


ただ見たくないものに、自身の弱さや触れたくない痛みや苦しみがあり、そこから始める必要がある場合もあるのも事実です。

自身がその人生に何を求めるかで、そこをスルーする場合もあれば、向き合ったり折り合ったりするのだなぁと読んでて感じました。


後半というかほぼ終わりに近い部分は安心して読めます。

逆に言えばそれはあってもなくてもどっちでも良い読者サービスのようなところ。

私はそこに至るまでの生き様がとても好きでした。

ライバルである旧友も含めて。


そういう現場にいたひとが書いた小説です。

高校生くらいから読んでも良いんじゃないかな。

今年の夏の新潮100冊になってほしい一冊でした。



〈Amazonより〉

王座としてトップ棋士の一員となった旧友。
一方こちらはデビュー以来7年間、最底辺。

〝賞味期限切れの元天才〟直江大はどん底から這い上がれるのか。
奨励会でプロを目指した作家が描く1000%の将棋エンターテインメント

「お前は一流にはなれんよ」。
プロになって7年、C級2組に留まっている直江大に、奨励会同期の剛力英明・現王座は、そう言い放った。旧友との間に開いた目も眩むような格差。だが、京都の天才少年・高遠拓未との邂逅、棋界の第一人者・北神仁との対局、そして現在の師である〝孤剣〟師村柊一郎の猛特訓が、〝賞味期限が切れたはずの元天才棋士〟を覚醒させる。そして史上空前の逆襲の先には、運命の一局が待ち受けていた──。将棋を深く知る小説家がひとりの青年の成長と個性あふれる棋士群像を描く。最も鋭利で、最も熱い、将棋エンターテインメント。解説・西上心太




お勉強日記

やっと復調して、お勉強が開始できるようになりました。そのせいでブログも読書もそっちのけになってます…

来週の試験に向けてがんばるぞー


そして刺繍課題もようやく出来上がり、こちらも3作品もって今度のお教室で次の課程への進級申請をしたいと思います。…ふぅがんばった

アイロンかけてない、できたてほやほやの白糸刺繍。