この小説良かった!
著者の上田さんはSFの世界では有名な方、近年では『破滅の王』が直木賞候補になってました。
私と著者の本の出会いはまさかのスイーツ小説のこちらのシリーズでした。
むしろSF小説ファンの方が驚くのはこっちだわみたいな。でもすごく面白かったんですよね。
なので、たまたま新刊で見つけた今回の小説も、文章や作者の癖などはきっと好きなんじゃないかと思って手にしました。
これまでSF小説は私は得意不得意があってなかなか手にしずらかったので、この妖綺譚についてはついていけるかなって。
時代は室町。播磨国に兄がいわゆる陰陽師で、弟が見えないものが見える僧侶。この2人が蘆屋道満ゆかりの地で暮らしながら、人の困りごとに付き合う話です。
兄の陰陽師の方は天文道より薬師の方に関心があったので、薬草園を作り、ひとびとの疾患に処方しているところも描かれています。
このあたりの見立てやレシピの感じも結構興味深かったです。
見えちゃう弟もやっぱり苦労はするのだけど、人の困りごとの背景にはこういう怪や妖の類もあるので、そことの交渉のやりとりも丁寧にされていて、読んでいて清々しい気持ちになります。
ライトノベルにある妖系のお話のテンションの高さだったり、ホラーノベル系の恐怖感はなく、とても静かに自然と人との暮らしが描かれています。
梨木香歩さんの小説が好きな方に特にオススメな小説だと思います。
久しぶりにページを1ページ1ページと繰りながら、静かな空気感に作中の彼らの慈愛や光を感じる豊かな時間でした。
晩秋のいまよく似合う小説だと思います。
〈Amazonより〉
蘆屋道満の血を引く律秀と呂秀の兄弟は、庶民のために働く心優しい法師陰陽師。
彼らが出会ったのは新たな主を求める一匹の鬼だった。