Turning point(1) のつづきです。
夫(=タカ)宛てに送られて来た、彼の父親が経営する会社からの手紙。
一体何が書かれているのかが気になったのですが・・・夫は翌日の朝になってもそのことについては一切口を開きませんでした。
手紙が来ていたことははっきりと伝えていましたし、夫も返事をしていますから「知らない」はずはありません。
読んでいないというのも・・・考え難いことです。
それでも夫は一切手紙の事に触れずにいました。
次の日の朝も、普段どおりの・・・出勤前の朝。
朝食を食べる夫を見ながら
‘ねえ、あの手紙・・・何が書いてあったの?’
と何度言おうとしたことでしょうか?
「喉まで出かかる」とはまさにこのこと。
しかしあたしはそこをグッと堪えました。
夫は敢えて黙っているのだと感じたからです。
あの手紙がポストに入っているのを最初に見つけたあたしが差出人に気づいていることを、タカが気づいていないわけがない・・・(←すみません書き方がおかしい文章で。)
あたしが気にしていることも、おそらく夫は解っているのです。
でも何も言わないというのは・・・「言わないこと」に対する彼なりの考えがあるのだとあたしは解釈しました。
書かれていたことに対して、彼の考えがまとまっていないのかもしれない・・・でも。
この人は・・・いつか絶対あたしに話してくれる。
だから、あたしがギャーギャー言って夫の気持ちを煽るのではなく、彼から話してくるのを待とうと思ったんです。
いえ。
待たなくてはならない
そう思いました。
それが・・・信頼していることだと思うから。
夫の父親が最も大事にしている「信頼」・・・あたしが今一番信頼すべき人は、目の前の夫・・・タカなのです。
待とう。
彼があたしに向き合って・・・全てを話してくれる時まで待とう。
そう思った・・・思えた時
あたしの心の奥が心地良い温かさに包まれたように感じました。
もうこのことを変に勘繰るのは辞めよう。
そう決めたら、フッと力が抜けて・・・普段どおりに夫と向かい合えるようになっていました。
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そして話は過去記事に出した「義務感より気持ちで」へと繋がっていきます。
例の手紙が来た週の週末・・・息子のユキに向けるあたしの表情が良いと、妬いてしまうと・・・らしくもないことを夫が口にしたのです。
・・・「らしくもない」という発言は勝手なのかもしれませんが、少なくともそういった思いを夫が口にするのは珍しいと思いました。
‘今でもこんなに・・・おまえに対する独占欲があると認めた’
夫はあたしへそう言い、あたしを強く求めてくれました・・・。
熱く火照った身体を重ねている最中に、あたしへ
‘みゅ、二人目・・・作ろう’
と、子作りのことを言い出した夫。
ユキを「ひとりっこ」にはしたくないからという言葉の後、彼はこう続けたんです。
俺が・・・今より・・・もっと強くなりたかけん・・・
(俺が・・・今より・・・もっと強くなりたいから・・・)
二人目の子を持つことによって、もっと強くなりたい
夫の言葉に込められた気持ち・・・それは、自分のこれからを思い、人生の道を歩いていくにあたって強くいるための「糧」を求めているように感じました。
夫の心の中に渦巻いているもの・・・その言葉を言わせたのは・・・
もしかして・・・あの手紙なのでは?
あたしの胸の中に、チクリと微かな痛みが走りました。
救いだったのは、夫の言葉が前向きな言葉であったこと。
今よりもっと強くなりたい
夫が・・・タカが何かしらの決断を下そうとしているのを直感で感じました。
それと同時に
やっぱり、あの手紙に書かれていたのは・・・!
と、自分の予想が少なからず当たっていることをも感じたのです。
更に夫はあたしにこう言いました。
「・・・これから先・・・俺が・・・どんな道ば歩くにしても・・・ついてきてくれ・・・頼む・・・」
この夫の言葉で、あたしは更に確信しました。
そしてタカの心の中に・・・そう、こんなにも強い心を持って何事にもポジティブなこの人の心の中に・・・
不安な思いがあるのだと知りました。
あたしが彼の真に支えになれるか?・・・自信はありません。
でも、こうやってあたしを求めてくれる夫に・・・タカに
あたしが出来ることは全て・・・精一杯にしてあげたい。
そう強く思いました。
お互いの体温(ぬくもり)を感じながら・・・夫が放った言葉。
それはあたしには彼の‘せつない告白’にも聞こえたのです―
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それから数日経った6月22日。
問題の手紙が来てちょうど一週間となるその日の朝、夫はあたしへこう言いました。
「みゅ・・・俺さ。」
「・・・ん?」
「今日・・・昼から半日有休ば貰うた(もろうた)さね。」
夫の言葉にドクン!と心臓が高鳴りました。
滅多な事で有給休暇を使わない夫。
あ、それってひょっとして・・・?
とピンとくるものがありました。
でも、出来る限り冷静に・・・普通にあたしは返しました。
「あ、そうなん?・・・なんか用事?」
軽い感じでそう問いかけたあたしに、夫は
「うん・・・」
と言いながら、足元に置いていたブリーフケースから取り出したものをあたしへと掲げて見せました。
「あ・・・。」
思わず声を漏らしてしまったあたし。
夫が掲げて見せたのは、あの茶色の封筒でした。
「このことで・・・出かけてくる。」
初めて、夫が手紙のことをあたしに話してくれました。
でも・・・まだ真の中身までは教えてくれない、曖昧な言い方です。
「・・・そう・・・。」
あたしはただそう返しただけでした。
そんなあたしに夫は言いました。
「みゅ・・・ごめん。この手紙のこと・・・おまえも気にしとるやろう?」
低く、静かな声・・・彼の言葉があたしの中に優しく入ってきます。
やはり、タカは解ってくれていました。
返事が出来なくて、無言のままでゆっくりと頷いてみせると、夫は言いました。
「おまえには、半端なままで話しとぅなくってさ・・・ちゃんと・・・話せる形にしてからって思うて・・・言わんでおった・・・。待たせてしもうてごめん・・・」
(おまえには、(この手紙のことを)半端なままで話したくなくてさ・・・ちゃんと・・・話せる形にしてから(おまえに話そう)って思って・・・言わないでいた・・・。待たせてしまってごめん・・・。)
夫の言葉を聞いて、ホッとしている自分がいました。
あたしが思っていた・・・信じていた通りだったからです。
「そんな・・・謝らんで・・・。」
やっと思いを口にしたあたし。
少しの沈黙の間。
黙ったままでお互いの目を見つめ合って・・・夫が口を開きました。
「・・・もう少しだけ待っといて・・・今夜には報告・・・出来るって思うけん・・・。」
夫の言葉に
「うん。・・・わかった。」
あたしはそう返事をして、精一杯の笑顔になってみせました。
その笑顔は、
あなたのことを信じているよ
という、あたしの言葉にしない・・・言葉にならないメッセージです。
夫はそんなあたしの表情(かお)を見て穏やかな笑顔を見せてくれました。
どうなるんだろう・・・?
あたし達のこれから・・・。
つづきます。
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