夫は、私の夢には殆ど登場しないのだが、

彼が逝ってから10年目を過ぎた頃、
とても不思議な感覚に見舞われる
夢を見た。
それが私の今現在を勇気付けてくれたり、
未来を歩いていく糧に
なっているように思う。

その夢では、

場所は、どこだかわからないけど、
山奥の大きなコテージ。
実際、行った事はない場所。
そこには、彼の両親や親しい親戚がいた。
私は、コテージから
少しだけ離れた場所に
娘と夫を乗せた車の運転席にいた。
助手席に座る夫は、
逝ってしまった時の30歳の姿。
ただ娘と私は、歳を重ねた姿で、
娘はしっかり成長した姿で、
パパとお別れした幼児ではなかった。
私も運転免許を取ったのが、
夫がいなくなってからなので、
夫はその事を知らない。

そしてしばらくすると、
夫の実父が彼を大きな声で呼んで、
探し始めた。
そのコテージの暖炉に入れる薪を
運ぶのを手伝わせるために
ずっと彼を怒鳴るような声で
呼び続けている。
他の親戚たちは、
そんな元義父を横目に世間話をしていた。
この様子は、私がよく知る昔の光景だった。

私がその様子を夫に伝え、

“行かなくてもいいの?
また怒られるよ”

というと

“いかなくていい、
だって僕はもう死んじゃったから”

と言った。
そしてその様子をを横目に笑っていた。
私も

”そうだよね、
なんでアナタのお父さんは
わかってないのだろうね”

と彼に言った。

娘は、何も言わずに車の後部座席で、
本だか携帯だかわからないけど、
何かを見ていてこちらの状況に
全く興味なしな感じだった。
とにかく夫は、笑顔だった。
そこで夢から醒めた。

この時、
私が彼から受け取った
メッセージなんじゃないかと
とっさに思ったのは、

“もういいよ、十分だよ”

という事。

そして彼の父親は、
今だに彼の死を受け入れられていない、
その事を彼は、遠いところから
見ていてわかっているという事。
ただ悲しんでいるのではなく、
微笑ましくも
ちょっと困った感じで見ている事。

ちょうどその頃、
私の生活が一変しそうな時期だった。
今までとは違った環境に
新しい世界に歩み出してみようと
思った頃だったし、
これが彼から受け取った
メッセージだと思った。

なんだかその後は、
すごく気分がスッキリしたのと同時に、
元義両親と私が住む世界、未来は
別物である事を認識した。
この人達から離れる時が来たと。

私が経験した彼の死という事実は、
忘れる事はない。

ただそれを理由に自分が
その事実に乗っかって、
自分の人生を蔑ろにしては
ならないと彼が教えてくれたような気がした。

私自身、そんな風に考えて
生きていたわけじゃないけど、
どっかでその事実を口実にして、
前進する事にひるんでいたように思う。
昔の私だったら、
自分なりに色々調べるなりして、
行動を起こして前に進んでいた。
そんな私を取り戻す
きっかけになった夢だった。

その後、不思議な事に夫は、
私が覚えている範囲内では、
夢に現れなくなった。
もし現れていたとしても
私が覚えていないのだから
彼から
“もう大丈夫!だよ、
それでいい“
のスタンプでも
もらったのかもしれない。

そしてもうすぐ17年の時が
経とうとしているが、
今年に入って、
私はやっと(遅すぎる!?)
自分自身と向き合う決心と時間を
持つ事ができた。
それを一番喜んでいるのは、
紛れもなく、夫だろうなと思う。