629 名前:1/3 投稿日:2007/07/28(土) 21:20:50
取り敢えず私も楳図氏ネタで一本。
『サンタクロースがやってくる』
新聞部のゆみ子は仲間と一緒に担任教師の自宅で行われる
クリスマスパーティーに参加する。
妻を失い、幼い一人息子と二人で暮らす教師は、その場で
自らの生い立ちを語る。
彼は生まれてすぐに両親を失い、祖父の手一つで育てられてきた。
祖父はハト笛を作ってはそれを売り、貧しいながらも生活を支えていたのだった。
しかしついに病床に就いてしまい、彼らを世話するために遠縁の叔母がやってくる。
叔母は厳しく、甘やかすからと祖父との交流も断たれ、幼い彼は
涙に暮れる日々を過ごしていた。
そんなある日、祖父は死期を悟ったのか叔母に大きな皮袋を用意させる。
その夜、祖父は朽ちそうな手で袋に玩具を詰めていた。
その風景を垣間見た彼は、見てはいけないものを見たかの様な
バツの悪さを感じるのだった。
12月25日。傍らに彼を呼び出した祖父は
「これはじいちゃんが一番熱心にこしらえたハト笛じゃ」とハト笛を手渡す。
「誰にも見せてはならんぞ。誰にも内緒じゃ。
どうしても辛い事があったらこれを吹くのじゃぞ・・・」
その言葉を最後に祖父は息を引き取った。
例の皮袋を一緒に墓へ埋める事が、叔母へのただ一つの遺言だった。
彼は叔母に引き取られる事になった。
叔母は確かに容赦なく厳しかったが、それはあくまで彼への教育であり、
叔母の涙もろい一面や情に厚い人柄を知るにつれ、自分がいかに
甘やかされて育ったかを痛感する。
次第に活発な少年に育つにつれ、祖父の事も忘れるともなく忘れてゆき、
あのハト笛の行方も分からなくなってしまったのだった。
幼い息子を自室に帰すと、教師は話を締めくくった。
その時、どこからか『ホー』という音が聞こえる。
「この音は・・・?」
「ハト笛・・・? いや、まさかな」
謎の音は気のせいという事で、パーティーはお開きとなった。
その頃、自室でハト笛を吹いた教師の息子のもとに皮袋を携えた老人が現れる。
「おお、可哀想に一坊。誰かにいじめられたんじゃな」
「僕、一坊じゃないよ。それにいじめられてもいない」
「何を言うんじゃ一坊。きっと辛いのじゃろうな」
老人は皮袋から玩具を取り出し、息子に与えるのだった。
幼い息子は老人をサンタクロースと思い込み、「誰にも内緒」という
約束を受け入れる。
数日後、教師は息子の部屋から買った憶えのない玩具を見つける。
どこか見覚えのある古びた玩具・・・。
息子を問い詰めるも「知らない!」と一点張りの息子。
それから毎晩の様にハト笛の音が聞こえ、
部屋へ駆けつける度に新たな玩具が現れているのだった。
悩みがあるなら相談に乗る、というゆみ子の言葉に甘え、
教師はゆみ子の仲間共々息子を見張る事にする。
631
名前:最終 投稿日:2007/07/28(土) 21:23:15
皆に問い詰められ、どこからか見つけ出したのであろう『ハト笛』を
手に息子は家を飛び出す。
「助けて! サンタのおじいちゃん助けて!」
ハト笛を吹き鳴らすが連れ戻され、人心地ついたのか
眠る息子の髪を撫でながら教師はハト笛を見つめる。
「やはりこれはあの時のハト笛・・・」
やがて12時を回る頃、全員の身体が金縛りにあったかの様に動かなくなる。
そして扉をすり抜けて現れる老人の姿。
「一坊・・・可哀想に。またいじめられたのじゃな」
それを祖父と看破した彼は叫ぶ。
「違う! 一坊は私だ! これは息子の佳司だっ!!」
「一緒に行こう、一坊」
息子以外目にも映らぬ様子で進んでくる祖父。
動かぬ身体を懸命に動かして息子を抱きかかえる教師。
ガッ と音を立てて老人の手が息子の頭に食い込んだ。
目を覚まし、驚いた表情の息子の首を異音と共に捻じ切り、
最早空になっていた皮袋に落とし込む祖父の霊。
「もう寂しくないよ、一坊。ずっと、ずっと一緒じゃよ・・・」
愛しげに皮袋を抱え、老人は消えるのだった。
吹雪だけが吹きすさぶ・・・。
これも楳図センセ。
WHAM! ラスト・クリスマス