『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?
身近な疑問からはじめる会計学』
(山田真哉・著、光文社 735円)
という本が話題になりました。
なるほど、この本のタイトルを見ただけでも
「そういえば?」と不思議に思う人も多いでしょう。
疑問に感じたら、読んでみてください。
へえ~となると思いますよ。
さて今回は、そんな、さおだけ屋さんに
興味を持った男性が経験した
ちょっと 怖い お話です。
その男性のことを仮に『彼』と呼ぶことにして
話をすすめまてまいります。
さて、話を始める前に、皆さんは『さおだけ屋』を知っていますか?
「たーけやーあ、さおだけーぇ」
の名調子で、軽トラかなんかでゆっくり走っているアレです。
「2本で千円。20年前のお値段です」なんて言う、さおだけ屋もいるようですね。
では皆さんは、ここから竿竹を買ったことがありますか?
あるいは買っている人を見たことがありますか?
これが「石焼きいーもー」だったら、
買ったこともあるし買っている人も見たことはあるでしょう。
なのに竿竹に限っては、思い当たらないですよね。
ここで、オカシイと思ってしまったのが彼の運の尽きでした。
二本で千円という破格値。
人ひとりが車を運転して巡回する人件費、
車の管理費、ガソリン代・・・などなど。
どう考えても商売として成り立たないのです。
なのにナゼ、さおだけ屋は日夜、町中を巡回しているのでしょうか。
ここでまで書くともうお気づきの方もいらっしゃるでしょう。
そうです。さおだけ屋には竿を売る以外に 『目的』 があるのです。
実は数日前、彼の住んでいる家から200mほどのところで殺人事件があったのです。
アパートに一人暮らしの女性が部屋で刺殺されたとのことでした。
ここで、彼は奇妙な一致に気づいてしまったのです。
いつもはあまり来なかった、さおだけ屋が、
その事件があった日以後、頻繁に近所周辺を回っている、と。
これはどう考えてもおかしいと考え、彼は気になってしまい、
とうとう様子を見に外へ出てしまいました。
そこで、彼は試しに、さおだけ屋から竿竹を購入してみたらどうだろう?
と思い、実行に移してみました。
正直なところ、竿竹なんていらないんですが。
そして天気のいい昼下がり、さおだけ屋はやって来ました。
「たーけやーあ、さおだけーぇ」
・・・来た。
急いで外へ飛び出し、軽トラの横へ。
運転手はキャップ帽を目深にかぶった40代くらいの男性でした。
「すいませーん!一本ください」・・・・すると、
運転手は何ごとか?といった表情を見せ、
一瞬辺りをきょろきょろとし始め、やがて思いついたように
「あ?ああ、竿竹ね?買うの?は~い」
と、車を止めました。
荷台から竿竹をほどく。やたらと手際が悪い。
見てるこっちがイライラします。
そして、むき身の竿竹一本購入。
そして彼は運転手とのコミュニケーションを試みました。
「売れ行きはどうですか?」
「いやー、ぼちぼちかな」
「失礼ですけど、これで商売になります?」
「ん?いやー。まぁねぇ・・・、ぼちぼちかな。」
「一日にどのくらい売れるんですか?」
「いやー。ははは。いや、俺は臨時でやってるからねー。
俺はよくわかんないんだよ」
「そーですか。がんばってください」
話をしている最中も、さおだけ屋は常に周りを気にして、
とにかくさっさと切り上げようとしている。
無理に引き留めるわけにもいかず、その日はそれで引きました。
「なんか怪しい・・・」
インスピレーションで彼は感じました。
およそ商売をしている風には思えませんでした。
そして、その日以降も、さおだけ屋は巡回に来ました。
毎日、です・・・。
どうしても気になるので、さりげなく外を歩いてる風を装って、
車の近くへ行くと、一瞬、運転手と視線が合ってしまいました。
運転手は先日と同じ男性でした。
向こうも気が付いたようでした。
(誰も買わない竿竹を買った人ですから、
向こうも彼の顔を覚えていたようです)
この時彼は、その男性が
「ちっ」
と、あからさまにイヤな顔をしたのを見逃しませんでした。
ここで、彼はなんかマズイな・・・と思いました。
なにか触れてはいけない部分に触れてしまったような・・・。
しかし、それでも、さおだけ屋は来ました・・・
気になる・・・彼はジレンマを感じ、そしてまたある日。
ついに耐えかねて、彼はまた外に出てしまいました。
今度は相手に気づかれないよう、物陰に隠れて様子をうかがいましたが、
車の後ろからではさっぱり見えません。
しかたなく、気づかれないようぐるっと迂回して車の先回りしてみました。
建物の間にある隠れた場所、フェンスの横からそっと顔を出す彼。
さしたる変化も見受けられなかったものの、
一瞬よそ見をした瞬間に彼は向こうに気づかれてしまったのです。
彼はさっと隠れましたが、ブォォン!とエンジン音。
隠れた場所に横付けされる車。
あわてて降りてくる運転手。
さっさと逃げればいいのに、この時は失態を見つけられてしまった小学生のごとく
体が硬直してしまいました。
「見つかった!」
彼は恐怖のため身動きがとれませんでした。
「おまえか・・・」
息を切らした運転手の第一声でした。
彼は得体の知れない恐怖のために体は震え、
声を出すことができませんでした。
運転手はさらに詰め寄りました。そして小声でこう言いました。
「何を知ってる!?」
彼はこの時、全身の血がさぁっと音を立てて引いていくのを感じました。
黙っている彼を見て、はぁー、と長いため息をつく運転手。
「しょうがない。ちょっと車にのんな」
なに、車に乗れ!?
あまりに唐突な展開にすっかり、彼は動転してしまいましたが、
ヤバいっ!
ここでようやく正気に戻りました。
なんだか分からないけど逃げなければ!
彼は、運転手にうながされるままに、
ちょっとふらふらと演技をしながら車の方へ向かい、
運転手が車のドアを開けるために向こうを向いたその瞬間、
彼は全速力で逃げ出しました。
「あ!こらっ!待て!」
後ろから運転手が走って追いかけてきました。
彼は後ろを振り向くことなく、必死に駆けた!
2、300メートルほど走っただろうか。
彼は追いかけてこないことを確認してようやく落ち着いた。
息を整え、落ち着いたとき
彼は何とも言えぬ恐怖を感じた。
わからない・・・。
わからないけど、なにかヤバイことになってしまった。
知ってはいけないことを知ってしまった。
そんな気配を感じた。
それから自宅へ帰るのも、周りを気にしつつ隠れるようにして、
ようやく家にたどり着いた。
家に入って彼はようやく安心した。
そして彼は得体の知れない恐怖を感じたのだった。
しまった・・・俺、顔を見られてる。
あの運転手は俺の顔を覚えている。
それが、なにかマズイ気がしてなりませんでした。
次の日。それでも巡回しに来る、さおだけ屋。
今度はもう外に出ない。
いや、出られない。
あの声が聞こえるだけで恐怖するようになってしまった。
しかしそれから、さおだけ屋は来る頻度が段々下がっていきました。
ニュースで殺人事件の犯人が捕まったことが報道された。
刺殺された女性のつきあっていた元彼氏が、
刺し殺してしまったということでした。
さおだけ屋はもう来ていません。
そして、さおだけ屋の一件を忘れたある日のこと。
時間は夜も遅い午後11時頃。
スーツ姿の見知らぬ男性二人が彼のアパートへ来ました。
彼が普段、平日は、会社に行っているため
昼間はいないせいであると思われます。
しかし、彼が家に帰り着いて5分もしないうちに二人はやってきました。
どうも、家に入るのを確認してからやってきた・・・
そのようにしか考えられません。
そして、一人がこう言いました。
「警察ですが」
・・・何ごと?さっぱり分かりませんでした。
そして、刑事と思われる二人ははこう言ったのです。
「以前、竿竹屋の運転手を尾行していましたね?」
なんてこと!
「いえ、していませんっ!」
「どういう目的で、そういうことをされているのかは知りませんが、
そういった行為は非常に困るのです。
申し訳ないんですが、そういったことはやめてもらえますか?」
俺は尾行のようなことはしていないんだ!
以前に感じた、あの時と同じ得体の知れない恐怖がまた蘇った。
思わず声が上ずり、どもってしまう
「いや、あの・・・」
ここで相手は声を押さえ気味にしながら、こう言うのでした。
「これは警告です。これ以上、同じ行為をされるとなると
公務執行妨害罪もしくは業務妨害罪として告訴する場合もあります。
あなた自身のためにも、もうあのようなことはやめてきただきたい」
彼は呆然としました。
この人達は一体なにを言っているのだ!?
理解ができない。
得体の知れない恐怖となぜそんなことを言われるのかという
怒りの感情とで、思わず泣きそうになる。
一気に感情が高ぶってしまい返す言葉が出てこない。
それが、向こうの言うことを認めたことになってしまっているにも関わらず。
「くれぐれもおかしなマネはやめてくださいよ」
と言い残して、彼らは去っていきました。
◇この話は、フィクションです。
トライアングルラブレター♪ トライアングル
こ・・・小森みちこぉーッ!