かなり昔ですが、僕(hiko)が仕事で新宿を訪れたとき、
場末でボロ毛布に包まって暖をとっていたホームレスがいました。
時期は真冬・・・。ちらっと見ると毛布の間から猫が顔を出していました。
猫も温かいのか目を閉じて気持ちよさそう。
通りすがりの人は「可愛いね」とか
「ペットかしら」と小声で言っていましたが
僕は、それが湯タンポの代用品として
猫を抱いて温まっているのは、
何となく気づいていました。
しばらくして用事が済み、またそのホームレスの前まで来ると
そのホームレスは毛布に包まり、そして猫を抱いたまま
あぐらを組んで座っていました。
そして、そのホームレスの目の前に二十代ぐらいの
小奇麗な格好の男がしゃがみこんで何やら話をしてます。
話が終わると、ホームレスは軽く、「(こくり)」とうなずくと
男性はホームレスに千円札を渡しました。
すると男性は自分の肩にかけていた一眼レフ・カメラで
猫を抱いたホームレスをバシャバシャ!撮り始めたのです。
こうやって「作品」が出来上がるのか・・・
僕(hiko)は、そう考えながら駅に向かって
歩いて行きました。
(以上、hikoさんの完全実話でした)
さて、それでは今回のお話です、どうぞ。
176 :未来予知スレから転載 1/3:2010/07/31(土) 22:24:42 ID:EHe8ix6E0
これから話す内容はムラさん(仮名)から聞いた話。
その日、僕はムラさんの部屋で男二人飲んでいた。
ムラさんの仕事はフリーの社会派ライター。
当時、部落や公園を回っては浮浪者からなぜ今の生活に落ち着いたのかなど
過去を聞いて回り、いずれ本にまとめて発表する予定だった。
「でもそんな簡単に浮浪者が話してくれるんスか?」と僕が聞くと、
「ウラワザがあるんだよ」とニッと笑って、部屋にある一升瓶にアゴをやった。
手土産として酒と簡単なツマミでも持っていくと、連中の口も軽くなるという寸法らしい。
そうしてムラさんが集めた体験談によると、昔は小さな町工場を経営していたという者、
田舎の農村から冬場の稼ぎのために上京しそのまま浮浪者になったという者など。
様々な過去話が聞けたそうだ。「面白い経歴の浮浪者はいなかったんスか?」
僕がそう尋ねると、ムラさんはちょっと考えたような顔つきになり、
黙ってタバコを吹かす。
「使えない話ってのがあってな。明らかな大ボラとか、
頭がおかしくなってる奴の話なんだが」
そこで言葉を切り、タバコを消すムラさん。
「聞かせてくださいよ!」
妙にもったいぶるその仕草に僕は急かす。
「自分はテンショウ24年の未来から気たって男がいてな」
「ぷっ、未来人スか?バックトゥザフャーチャーじゃあるまいし、
どうやって未来から来たって言ってたんスか?
それにテンショウって、昭和の次の元号のつもりですかね?」
突然のトンデモ設定に僕も思わずニヤニヤしてしまう。
堅物のムラさんが語るにしては面白そうな話だ。
「まあ待て、あったあった、これだ。天咲(てんしょう)24年」
ムラさんが手帳を取り出し僕に元号の字を見せてくれた。
ここで突然僕の記憶は霞がかかったように途絶えている。
177 :未来予知スレから転載 2/3:2010/07/31(土) 22:25:29 ID:EHe8ix6E0
そして次の記憶は、手帳を見ながらムラさんが色々と
その浮浪者(姓名も恐らく聞いたはずだが思い出せない)について語っていた。
「こいつ(浮浪者)のいた時代の首相は、森ナニガシ(名前不肖)という
歴代初の女の首相らしい」
「おー、女性首相、遂にきちゃいましたか!」
僕が相槌を打つ。
「こいつは学校には通ってなかったらしい。
コンピューターで特別な授業を受けて育ったそうな」
「という事は未来では学校が無いって事スかね?」
「メモには書いてないな。聞いたような、聞かなかったような。
俺も冗談半分聞いてたからな」
ムラさんがメモをめくる。
「未来では大きなアーケード状の建物の中に
車が走る道路や公園、店や団地が全部あるそうだ」
「屋外って概念が無いって事スか?核戦争で汚染されてるとか」
「いや、これは主に人が多い都心部だけで、
地方ではそこまでは整備されてないらしいな」
ムラさんがまたメモをたどる。
「あったこれだ、こいつは15歳のある日、
気が付いたらこの時代の代々木の辺りにいたらしい」
「そりゃまた随分と唐突なタイムスリップっスね」
「激しいパニックに陥ったところを警察に見つかり保護されたが、
身元も分からない上に話は要領を得ない」
「隙を見て逃走した彼は、途方に暮れたまましばらくの間、
隠れるように町の片隅で生活していたが、
○○公園(失念)の浮浪者の顔役に声を掛けられて、
以来18年ずっとそこで暮らしてきたらしい」
「つー事はそいつは今33歳スか。まだ若いですね」
「戸籍が存在しないから働きようがない、と本人は言ってたが」
「未来人を騙る、働きたくない今時のグータラな若者ってやつですかねー」
こんな感じでムラさんの話は終わった。
178 :未来予知スレから転載 3/3:2010/07/31(土) 22:26:13 ID:EHe8ix6E0
この時から5年後、血相を変えたムラさんから、その浮浪者に再び会いに行ったが、
なんでも不良による浮浪者狩りにあって亡くなったとの事を聞いた。
今になってそいつに何か用事でもあったのかとムラさんに聞くと、
そいつが言っていたとある事が本当に起きたとの事だった。
「大スクープをモノにできるかもしれん」
ムラさんの目は血走っていた。
ムラさんの雰囲気に圧倒されて詳しく聞けなかったのが今でも悔やまれる。
ムラさんはその後、とある事件を追っていて死んでしまったから。
遺体からも部屋からもついにそのメモは見つからなかった。

※画像の「未来から来た男性」と先ほどのムラさんの話は、まったく関係がありません。
出版社: 文芸社
著者: 青空かりん
青空かりんさんの「未来から来た男性」の
ストーリーをちょっとだけ・・・。
叶わぬ恋に悩む歌川美優の前に、
150年後の地球からやってきたという正体不明の男が現れた。
しかし、彼こそ、地球滅亡の危機を救うカギを握っている藤原陽太だった。
陽太は、美優の学生時代からの恋人である坂巻大介と力を合わせ、
窃盗団の壊滅と拉致された美優の救出に全力を挙げるのだが…。
若く、美しく、聡明な画廊経営者の恋と葛藤を軸に、
時空を超えた窃盗団を追って未来から派遣された捜査官らの活躍を描く、
SFラブストーリー。
※2011年5月28日の記事の再掲載です。
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