【漫画】 楳図かずおの「血」 (注意。ネタばれ有り) | Let's easily go!気楽に☆行こう!

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おろちが忍び込んだ門前家という大きな屋敷。

そこには一草(かずさ)と理沙という姉妹がいた。

頭もよく美しく心優しい姉の一草。ことあるごとに姉と比べられ萎縮する妹の理沙。

自分が病気になった時に優しく看病してくれた姉のように自分も一草の看病をしたい。

そう思って理沙は姉のデザートに腐った物を入れる。

一草は苦しみ吐き出した弾みで窓から転落してしまう。地面に流れる血。

幸い怪我はたいしたことがなかったが、真意をわかってもらえず理沙は酷く怒られる。

ナイフで指を切り、姉と同じ血の色なのにどうして違うのかと悩む理沙。

学校へ通うようになっても優秀な姉と比較され続け、理沙は心を閉ざしてしまう…。

一草は夫を迎えて門前家の跡を継いだ。

陰気でひねくれた女性に成長した理沙は、本人の希望で遠くへ嫁入りした。


ところが一草の夫は病死してしまう。門前家の血が途絶えることを嘆く母親。

ホテルの経営者の元へ嫁いでいた理沙は、夫とケンカをして飛び出した。

酒を飲んで車を飛ばす理沙は、乗用車にぶつかってしまう。

おろちが咄嗟にかばったので理沙は無事だったが、相手の運転手は即死だった。

事故現場からよろよろと立ち去るおろち。ところが彼女の身体に異変が起きた。

百年に一度の永い眠りが、事故のショックで10年も早く来てしまったのだ。

「こんなところで眠っては、行き倒れの死人と間違われて処理されてしまう!」

人目に付かないところへと走るおろちは、崖から足を滑らせ転落してしまう……。


おろちは妙な目覚めを迎えた。自分の意志で身体が動かない。

そのくせ勝手に身繕いを始めたのだ。化粧をする自分を鏡で見て驚くおろち。

「違う!私の顔はこんな悲しそうな顔つきではなかった!」

自分を佳子(よしこ)と呼ぶ男女が自分を呼びに来た。

男女とともに親子ながしとして酒場を歌ってまわる佳子。

おろちはそれをただ佳子の中で見ているしかできなかった……。

仕事を終えた彼らの前に現れた裕福そうなふくよかな女性。

血縁だと言う彼女は佳子を引き取ると言って男女に大金を渡し、車に乗せた。

車の中でおばさまに詳しいことを訊ねる佳子。門前家に連れて行かれると聞いて

佳子の中のおろちは驚きを隠せなかった。この婦人はどこか見覚えがある…。


門前家の娘として迎えられ、立派な部屋を与えられ、ドレスに身を包む佳子。

大おばさま、つまりおばさまの姉という夫人は心臓が弱く、ずっと寝たままだという。

大おばさまの看病をして欲しいのだと言われ、一生懸命看病すると約束する佳子。

寝室には白髪の婦人が静かに横たわっていた。心臓が悪く動くと苦しくなるのだと言う。

そして、もう助かる見込みはないのだと…。

大おばさまの名は一草。そしておばさまの名前は理沙…!

おろちが崖から落ちてから十数年もの年月が過ぎていたのだ。

生活してゆくうちに佳子と佳子の中のおろちの感情と動作が一致してきた。

皆が佳子に優しく、幸せな日々を送っていた。3日に一度主治医が一草を診察に来る。

医師の薬の調合具合で一草の容体がわかるようになってきた佳子。

少しずつ悪いほうに向かっている一草…それを理解し死を覚悟した崇高な姿が悲しかった。

佳子と一草はお互いの存在を幸せに思い、親子のように過ごすことを約束する。


幸せな気分で自室に戻ると、部屋中が滅茶苦茶に荒らされていた。

ショックを受ける佳子の前に高笑いをしながら理沙が現れる……。

前からお前が気にくわなかった、出て行け!と暴行を加える理沙。

自分の声や顔が門前家の者に似ていると喜びここに連れてきたのは理沙なのに。

「おかあさまっ!!」助けを求める佳子。だが声は届かない。

このために遠く離れたこの部屋を与えたのだと理沙は言う……。



翌朝、佳子は床の上で目覚める。気絶していたらしい。

理沙がなぜあんなに怒っていたのかわからないが、おかあさまとの約束のためにも

ここを出てゆくわけにはいかないと決意を固める佳子。

呼び鈴が鳴る。ぼろぼろの服のまま一草の部屋へかけて行く佳子。

顔を見たら涙が止まらなくなり、理沙のことをつい話してしまう。

一草は妹の苦労を語る。交通事故で相手が死んだため重すぎる負担を抱えて出戻ってきた理沙。

やがて姉の自分が病気で寝込み、全責任が被さってきてしまった……。

「妹は自由奔放な性格に生まれついたため時折ヒステリーを起こすのです。

でも本当は心の優しい子です。あなたをここに呼んだのも皆が明るくなるだろうと…」

けれど妹の不幸とあなたへの仕打ちは関係ない、理沙にはきつく言っておきますと一草は言う。

朝の挨拶に来た理沙に、一草はおこごとをする。理沙は別人のようにおどおどしていた。

ところが理沙は影で佳子を苛めるのだ。そのことを話すたびに一草の容体も悪化してゆく…。


「あなたと同じ血液型で体質の似た人がいれば、心臓移植の手術で助かります」

主治医の言葉に、けれどこのままでいいと運命に身を委ねる一草。

「私もおかあさまと同じ血液型です!だって私、門前家の血を引いている者ですもの!」

自分が死んだら心臓を一草にあげてくれと医者に頼む佳子。



その日を境にして、理沙の苛めはエスカレートしていった。

「自分の指輪がなくなった、盗ったのはお前だ!」

なぜか佳子のバッグに入っていたダイヤの指輪をはめた手で良子の顔を何度も殴る。

さらには理沙に似せて作られた人形が廊下に釘で打たれていた。

激怒した理沙に釘で刺されそうになり必死で一草の元へ逃げる佳子。

部屋に入ると、一草が発作を起こして苦しんでいる!医者を呼ぼうと階段を駆けおり、

足を滑らせ転落する佳子。『死ぬ!私の身体はいま死ぬ!いま何かが壊れた!!』

慌しく走る足音を聞きながら、おろちは意識を失っていった――。


突然目覚めるおろち。崖から洞穴に転がり落ちたらしい。

今までのことは夢だったのかとぼんやり考えるおろち。

気付くと衣服がぼろぼろになっている。

「眠ってる間に十数年が過ぎたのだ!もしやあれは…門前家に行ってみよう!!」

力の限り走り、その日のうちに門前家に到着するおろち。夢で見たのとまったく同じ情景だ。

「容体が悪くなって苦しむ一草は?悪鬼となった理沙は?私自身だった佳子は?」

階段には血の跡がある。一草の部屋へ飛び込むおろち。

手前のベッドに佳子が横たわっている。佳子そっくりのおろちに怯える使用人たち。

奥のベッドでは一草の周りに皆集まっている……。

「あまりに門前家のことが気がかりだったことと佳子が私にそっくりだったために

私の精神はこの少女に入り込んで……一草の容体は悪いようだが、神のように神々しい」

心臓の移植をすれば助かると理沙は言う。「もちろん姉は拒むでしょうが……」

医師が佳子の血液を調べる。が、佳子の血液はまったく違う!手術は不可能だ!

「そんなはずはない!!うそだっ!!」取り乱す一草を見て高笑いする理沙。

「私はこの時を待っていたのです!もうあなたの前で何を言っても怖くない!

佳子の心臓はあなたに合いません、佳子が門前家の者だというのは嘘だったからです!!」

佳子ははじめから門前家の者でないと知っていた。おろちは佳子の額にそっと触れる。

まだ意識だけは残っていた『おかあさま許して……おかあさまのそばにいたかったから

嘘をつきました……本当の娘みたいになりたかったから血液型も嘘をついたのです』

佳子の身体の中に入り込んでいたのにおろちは気付かなかった。

「もともとあなたは心臓の移植をしても助からなかったのですよ!

医者に頼んで慰めの言葉をかけてもらっただけです!」

「うそだ!!心臓をおくれ、佳子の心臓をおくれ!!」

佳子の心臓に何度も包丁を突き刺し笑う理沙。半狂乱の一草。

佳子の残っていた意識も途絶えてしまった……。

「みんなは私を鬼だと思っているわ団をめくると、そこには金槌や裁縫道具が……!

「おねえさまの容体が急に悪化したのは細工をするために動き回ったからだわ!!

心臓移植をすれば助かると聞いてからあなたの理性は狂ったのです!!」

一草は最後まで口汚くわめきながら苦しみぬいて、でももう平気よ!!鬼はあの人よ!!

佳子を死ぬように仕向けたのはあの人よ!私の指輪を佳子のバッグに入れたのも

私の人形を壁に打ちつけたのも!佳子の死を一番願っていたのはおねえさまよ!

見るがいいわ!!」一草は死んだ。横たわった姉に理沙は言う。

「あなたを神のような人として死なせたくなかったのです。

死ぬ一瞬に神のようなあなたが卑しい女と言われ死ぬことが私の目的だったのです」

小さい頃から姉に比べられ惨めな思いをしてきた理沙。やっと家を抜け出たのに

事故を起こし戻って来てしまった。賠償金を払ってくれた姉の前では手も足も出なくなった。

一草に面影の似ている佳子を連れてきて姉の代わりに苛めて鬱憤を晴らした。

一草も佳子の死を願うようになった……理沙もそれを願った。一草の卑しい姿を見るために。

一草にも理沙にも、佳子は道具に過ぎなかった。でも佳子はそれを知らずに死んだ……。



「一体誰が悪かったのだろう?でももう二度とあのような悲惨な出来事は起きない」

門前家を後にするおろち。行きずりの人が少女の去り行く姿を見たという。

だがあなたはあなたの側で見守るおろちを知らない…

そしておろちが去っていったことも知らない。