さて今回は、楳図かずおの漫画から、
男の子が死に別れたお母さんへの
強い思いが巻き起こす不思議な話をお届けいたします。
いったい、男の子にどのような事が待ち受けているのでしょうか・・・。
主人公の少年はお母さんを早く亡くしてしまい、
大変なショックを受けましたが、それも立ち直ったことで
父親も安心し、月日が過ぎて行きます。
しかし、少年はお母さんのことを一日だって
忘れたことはありません。
少年の机の上には、自分で書いたお母さんの似顔絵と、
「会いたい」という文字。

そんなある時、少年が「ひとめみるだけでいい」というと、
「あわせてやろう」という声が聞こえます。
後ろを振り向くと、妖怪みたいなのが立ってて、
「お前があんまりにもかわいそうだから、
お母さんにひとめだけあわせてやろう」と言いました。
そしてその妖怪は少年を迷路のように複雑な道を通り、
ある家に連れて行きました。
少年は、「こんなところにいるの?」とたずねると、妖怪は 、
「ああ・・・。だが、必ずひとめ見るだけだぞ。
そうしたらもうお母さんのことは忘れろ」と言うのでした。
さらに妖怪は「階段の上の蓋を少し開けて、大きな声でお母さんと呼べ!」
と言うと、意を決した少年は一人で、その家の中に入って行きます。

少年は階段をのぼっていき、天井のふたを少しあけ、
「お母さん!」
と呼ぶと、あけた蓋の隙間からお母さんの顔が見えました。
少年はお母さんと少し話をしていると
あの妖怪から「すぐ戻ってこい!」と言われ、
お母さんにさよならを告げると家を出て行きます。
そしてその妖怪から、「もうお母さんのことは忘れるんだ」
と言われるのでした。
だが、少年のお母さんに会いたいという思いは募ってゆきます。
少年はまた妖怪を呼び、
「もう一度だけあわせて。こんどこそ本当に忘れるから」
と言いました。
またあの複雑な道を進んで行く二人。
そのとき少年は、妖怪に気づかれないように
こっそりと道しるべとなる『しるし』をつけていたのです。
そして少年は、もう一度お母さんと会うことができたのです。
「ぼく、おかあさんといっしょにいたい!」
なかなか降りてこない少年を不信に思い、
妖怪は階段を上って行きます。
するとそこでは、少年がお母さんの所へ行こうと、
天井の蓋を全開にして天井へ入る所でした。
妖怪は急いでそれを引き離し、
「もう二度とお前を連れてこない」と言いました。
やがて少年の体から、死人のような匂いがしてくるようになりました。
だが、少年は何も感じません。
その夜に、妖怪は少年のことが気になり、
家に行ってみるのですが、少年はいませんでした。
どうやら、あの家に一人で行ったようです。
案の定、少年はあの家の階段をのぼり、
二階へと続く天井の蓋を開け、その天井の中に入って行きます。
二階の上は原っぱになっていて、そこでお母さんを見つけました。
「おかあさん!」
「ここはあなたの来る所じゃないのよ!
もう二度とあなたと離れることができなくなるわ!」
「ぼく、ずっとここにいてお母さんといる!」
「それはいけないわ。お父さんが悲しむもの」
「じゃあ、お母さんがぼくといっしょにくればいいんだよ」
「それはできないわ・・・」
「どうして!おかあさんはぼくのことが好きなんでしょう」
「お母さんは死んだ人なのよ」
「どうでもいいよ。マッチを持ってきたから、
ぼくたちが外に出たら、この家に火をつけて燃やして
二度と戻れなくすればいいんだ!」
そして、少年はお母さんを連れて階段をおりて行きます。
そして少年は本当にマッチで家に火をつけ、二人で逃げて行きます。
しかし、家から出ると、お母さんの体はボロボロになり、
体中の肉が腐り、ところどころ骨が見えてきました。
少年は驚き、お母さんを振り払おうとしますが、
もはや恐ろしい姿になったお母さんは
意味不明な言葉を発しながら少年に抱きついてきます。
「助けて!」
少年が叫ぶと、あの妖怪が現れ、お母さんだったものを
棒でボコボコに叩き、少年を助けました。
その死人は、ふらふらとあの家に戻っていき、
そして、家とともに燃えてしまいました。
その日から、少年の心から何かが消えました。
「みなければよかった・・・。あんなもの・・・」
猫又の子として生まれながら、
人間に近い風貌であったことから
捨てられた猫目小僧・・・。
「見せなければよかった」といいながら、
またどこかへ去って行くのでした・・・。
楳図かずお/著 『猫目小僧』の「階段」より

2010年10月22日掲載
「楳図かずおの『階段』」より再掲載。
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