【怪奇】ゆきおくん | Let's easily go!気楽に☆行こう!

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映画、写真、B級グルメ、格闘技、そして少しばかり日常を語る雑記帳です。

小学校の頃、俺のクラスに”ゆきお”という奴が転校してきた。

小柄でハーフっぽい顔で、どことなくオドオドした感じの奴だった。

ゆきおには両親がいなくて、爺ちゃん婆ちゃんと一緒に暮らしていた。

その辺の事情を、先生は教えてくれなかったが、ゆきお本人から聞いた。

俺たちは、最初ゆきおをイジメた。

イジメたと言っても、大した事はしていない。どういう奴かを知るために

転校生に軽い嫌がらせをするのは、小学生の頃ならよくある話だ。

それでも、本人は辛かったのかも知れない。

だけど、ゆきおは普段オドオドしてるくせに、そんな時は妙に根性を見せて、

泣いたりムキになったりすることが無かったし、先生に告げ口もしなかった。

だから、あまり面白くなくて、そのうち俺らもイジメたりしなくなった。

ただ、ゆきおは良く学校を休んだ。

月にどれくらい休んだのかは忘れたが、しょっちゅう休んでたっていう印象は残ってる。



うちの学校では、休んだ奴の所へ、同じクラスで一番近所の奴が、

給食のパンを届けるというルールがあった。

ゆきおの家にパンを届けるのは俺の役目だった。

ゆきおの家は木造の文化住宅で、いかにも爺ちゃん婆ちゃんが住んでそうな家だった。

中に入ったことは無かった。

何となく暗い感じで、俺的に嫌な雰囲気の家だった。

パンを届ける時は、いつも婆ちゃんにパンを渡してそそくさと帰った。



ある日、またゆきおが休んだので、俺はパンを届けに行った。

玄関で呼ぶと、珍しくゆきお本人が出てきた。

風邪でもひいているのか、顔色が悪い。

ゆきおは俺に「○○があるから、一緒にやろうよ」と言って家の中に入るように誘った。。

そのオモチャは俺の欲しかったヤツだったので、家の中に入って一緒に遊ぶ事にした。


ゆきおの部屋に入って、ちょっと驚いた。

そこら中にシールやステッカーがベタベタと貼ってあって、その中には

神社のお札みたいなのも混ざっていた。

俺らが入ってきた襖にも隙間がないくらい貼ってある。

「…なんだ、これ?」

「おじいちゃんとおばあちゃんがお札を貼るんだけど、それだけだと

何となく怖いからシールも貼るんだ」

ゆきおが自分で書いたようなお札もあった。

「お札破ったらいいじゃん。」

「そんなことしたら、おじいちゃんに怒られるし…」

ゆきおは口籠もってしまった。

その日は、ゆきおの部屋で1時間ぐらい遊んで帰った。

次の日も、ゆきおは学校を休んだ。

先生が俺にゆきおの様子を聞いてきた。

なんか調子悪そうだった、と言うと

「そうか・・・休むっていう電話も掛かってこないから、どんな様子なのかと思ってな」

「電話したら?」

「いや、したんだけど誰も出ないんだ。おじいさんかおばあさんは、居たか?」

「昨日は見なかった」

「うーん、休むんだったら電話してくれって、ゆきおにでもいいから言っといてくれ」




その日もゆきおの部屋で遊んだ。

ゆきおはオモチャを沢山持っていた。

少しうらやましくなって聞くと、お父さんとお母さんが買ってくれた、と答えた。

「お前のお父さんとお母さんってドコにいるんだよ?」と聞くと



「死んだ」

ゆきおはあっさりとそう言った。



「なんで?」



「交通事故」



オモチャをいじりながら俯いて答えるゆきおを見て、さすがに、

これ以上は悪い気がして、話を変えた。

「明日は学校行く?」

「わかんない」

「お前、大丈夫かよ」

「………」

「休む時は電話しろって先生言ってたぞ」

「…ゴメン」

「俺に言ってもしょーがないよ。おじいちゃんとおばあちゃんは?」

「奥の部屋にいるよ」

「じゃあ、そう言っとけよな」

「…眠れないんだ」

「はぁ?」

「お父さんとお母さんが夢に出てきて、僕のことを呼ぶんだ」

「…」

「ゆきお、ゆきおって僕のことを何度も呼ぶんだ。それが怖くて、だから眠れないんだ」

「…」

「昨日は、腕をつかまれた、僕を連れて行くつもりなんだ」

俺はだんだん怖くなってきて、もう帰る、と言うと、ゆきおはやけにしつこく引き留めた。

「お前が怖いのはわかるけど、俺がここに泊まるわけにいかねーだろ?」

「なんで?」

「お母さんが心配するから…」

そこまで言って、ヤバい!と思った。

ゆきおは俯いて何も言わなくなってしまった。

俺は、居たたまれなくなって、ゆきおの家を半ば飛び出すように出ていった。

次の日もゆきおは学校を休んだ。

先生は、一緒に行くと言って、帰りに俺を車に乗せてゆきおの家に向かった。

先生が玄関で呼んでも、何の返事もなかった。

玄関を開けると先生が顔をしかめた。

靴を脱いで家に上がった。

台所やゆきおの部屋には誰もいなかった。

ゆきおの部屋を出ると右手に部屋があった。

ゆきおが昨日言っていた奥の部屋というのはそこなんだろう、と俺は思った。

先生がそこの襖を開けた。




そのとたん、先生は立ちすくんで、すぐに襖を閉めてしまった。

その一瞬の間に、先生の体ごしに部屋の中が見えた。

ゆきおの血塗れの顔が見えた。

それから、先生が警察を呼んだんだと思う。

その日の、そこから先のことはほとんど憶えていないけれど、警察は来ていた。

次の日、先生がゆきおと爺ちゃんと婆ちゃんが死んだことをクラスの皆に伝えた。

けれど血塗れだったとは言わなかった。

ただ、死んだと言った。

あとで、俺は先生にゆきおの夢の話をした。

先生はしばらく黙って聞いていた。

そして、誰にも言うな、と言って、俺にゆきおの両親のことを教えてくれた。

ゆきおの親の死因は自殺だった。

一家心中を図っていた。

ゆきおはその時、運良く生き延びて、爺ちゃん婆ちゃんのところへ引き取られた。

俺はそれを聞いても、そんなに驚かなかった。

なんとなく、そんな気がしていた。

何日かして、俺は警察に呼ばれて、ゆきおの家へ行った時のことを話した。

ゆきおの夢のことも話した。

警官は、俺に、その話がウソでないかをしつこく聞いた。

俺はウソじゃないと何度も言った。

「本当に、君はあの家で、ゆきお君からその話を聞いたのかい?」

「うん」

一緒に来ていた先生が困った顔をしていた。

警官が先生に向かって、ヒョイヒョイと手を振った。

それが合図だったのか、先生はしばらく考えてから俺に言った。

「あのなぁ、俺とお前がゆきおの家に行っただろ。あの時な…」

先生は言いにくそうだった。俺は嫌な予感がした。




「…あの時、ゆきお達は、間違いなく、死んで3日は経っていたんだよ」








あの日泊まる事になっていたらどうなっていたか、今から想像しただけでも、怖い。














Let's easily go!気楽に☆行こう!





<終わり>

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