【真夏の怖い話】危険な好奇心-2(第三夜) | Let's easily go!気楽に☆行こう!

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映画、写真、B級グルメ、格闘技、そして少しばかり日常を語る雑記帳です。

295 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M 2006/04/24(月) 03:21:39 ID:5CaStqefO

続き



その日から慎と帰ることになった。

その日は学校で噂の『トレンチコート女』(推定・中年女)には会わなかった。

次の日も、その次の日も会わなかった。

しかし、学校では相変わらず【トレンチコートの女】の噂は囁かれていた。

慎と一緒に下校することになり五日目、俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。

お土産に給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。

淳の家に着き、チャイムを押した。

いつもの様に叔母さんが明るく出て来て俺達を中に入れてくれた。



淳は相変わらず元気が無かった。ジンマシンは大分消えていたが、淳本人は

『横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている。』

と言っていたが、俺と慎には全く解らなかった。むしろ、前回見たときよりは

マシになっているように見えた。

精神的に淳はショックを受けているのだろう。

俺達は学校で流れている『トレンチコートの女』の噂は淳には言わなかった。

帰り間際に淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、『淳、クラスでイジメにでも

会っているの?』と不安げな顔で聞いて来た。

俺達は否定したが、本当の理由を言えないことに少し罪悪感を感じた。





301 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M 2006/04/24(月) 03:40:18 ID:5CaStqefO

それから三日後、その日は珍しく内藤と佐々木と俺と慎の四人で一緒に下校した。

内藤は体がデカく、佐々木はチビ。実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。

もう俺と慎の中で『中年女』の事は風化しつつあった。

学校で噂の『トレンチコート女』も実在したとしても、全くの別人と思えて来ていた。

その日は四人で駅前にガチャガチャをしに行こうと言う話になり、いつもと違う道を歩いていた。

これが間違いだった。


楽しく四人で話しながら歩いていると、佐々木が『あ、あれトレンチコート女ぢゃね?』

内藤『うわっ!ホンマや!きもっ!』と言い出した。

俺はトレンチコート女を見てみた。心の中で《別人であってくれ!》と願った。

トレンチコート女はスーパーの袋を片手に持ち、まだ残暑の残るアスファルトの道で、

ただ、突っ立っていた。うつむいて表情は全く解らない。

慎は警戒しているのか、小声で俺達に『目、合わせるなよ!』と言ってきた。

少しずつ、女との距離が縮まっていく。緊張が走った。女は微動たりせず、

ただ、うつむいていた。

女との距離が5㍍程になったとき、女は突然顔を上げ、俺達四人の顔を見つめてきた。

そして、その次に俺達の胸元に目線を送って来ているのが解った。

!名札を確認している。





306 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M 2006/04/24(月) 03:56:07 ID:5CaStqefO

俺は焦った。平常心を保つのに必死だった。

一瞬見た顔であの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。

間違いない。『中年女』だ!

俺はうつむきながら歩き過ぎた。

俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。

どれくらい時が過ぎただろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。

内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。

佐々木も『この糞暑いのにあの格好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。

俺と慎は笑えなかった。

佐々木が続けて言った

『やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!』

俺はとっさに振り返った。

『中年女』と目が合った・・・

まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔がニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。

背筋が凍るとはこの事か。。。

俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便が出た。

バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか?

俺の頭はひたすらその事だけがグルグル巡っていた。

内藤が『うわーっ、まだこっち見てるぜ!佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!

俺知らねーっ!』っとおどけていた。





311 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M 2006/04/24(月) 04:13:03 ID:5CaStqefO

もうガチャガチャどころではない。曲がり角を曲がり、女が見えなくなった所で俺は

慎の腕を掴み『帰ろう!』と言った。

慎は俺の目をしばらく見つめて『あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!』と俺に合わせ、

俺達は走った。


家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に『アイツや!あの目、間違いない!

俺らを探しに来たんや!』

慎は意外と冷静に『マジマジと名札見てたもんな。。

学年とクラス、淳の巾着でバレてるし。。』

俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち『どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!

家とかそのうちバレっぞ!!』

慎『やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお。』

俺『・・・』俺はしばらく黙っていた。

たしかに他に助かる手は無いかもしれないと思った。

『でも、警察に何て言う?』と俺が問うと慎は
『山だよ。あの山に打ち付けられた写真とかハッピー、タッチの死体、あれを写真に撮って、

あの女が変質者って言う証拠を見せれば警察があの女を捕まえてくれるはずや!』

俺は納得したが、もうあの山に行くのは嫌だったが、仕方が無かった。

さっそく、明日の放課後、浦山に二人で行く事になった。





315 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M 2006/04/24(月) 04:27:46 ID:5CaStqefO

明日の放課後、裏山に行く。その話がまとまり、俺達は家に帰ろうとしたが、

『中年女』が何処に潜伏しているか解らない為、俺達は恐ろしく遠回りした。

通常なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った。

家に着いて俺はすぐに慎に電話した

『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』などなど。

俺は自分で自分がこれほどチキンとは思わなかった。

名前がバれ、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が精神的に病んでいるのが理解できた。

慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。

この時俺は思った。普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで

俺の兄のような存在だと。

もちろんその日の夜は眠れなかった。

わずかな物音に脅え、目を閉じれば、あのニヤッと笑う中年女の顔がまぶたの裏に

焼き付いていた。



朝が来て、学校に行き、授業を受け、放課後、

午後3時半。。

俺と慎は裏山の入口まで来た。





156 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 04:50:46 ID:2G2sPLliO

俺は山に入るのを躊躇した。『中年女』『変わり果てたハッピーとタッチ』『無数の釘』

頭の中をグルグルと鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。

俺は慎の様子を伺った。慎は黙って山を見つめていた。慎も恐いのだろう。

『やっぱ、入るの恐いな・・・』と言ってくれ!と俺は内心願っていた。

慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、俺の期待を裏切り、

『よし。』

と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。

俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。


慎は振り返らずに走り続ける。

俺は必死に慎を追った。一人になるのが恐かったから必死で追った。

今思えば慎も恐かったのだろう。恐いからこそ周りを見ずに走ったのだろう。

『あの場所』が 徐々に近づいてくる。

思い出したくもないのに『あの夜』の出来事を鮮明に思いだし、心に『恐怖』が広がりだした。

恐怖で足がすくみだした時、『あの場所』に着いた。

そう、『中年女が釘を打っていた場所』

『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』

『中年女に引きずり倒された場所』

【中年女と出会ってしまった場所】





160 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 05:19:27 ID:2G2sPLliO

俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。

いや、『誰かに』では無い、中年女に見られているような気がした。

山特有の『静寂』と自分自身の心に広がった『恐怖』がシンクロし、足が震えだす。

立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。

何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。

『ハッピー・・・』

その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。

ハッピーは既に土の一部になりつつあった。頭蓋骨をあらわにし、その中心に

少し錆びた釘が刺さったままだった。

俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。

慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。

頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、

多数の虫がザザッと一斉に出てきた。

『うわっ!』俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。

ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。

それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。

慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。

俺はあの夜、ハッピーを見殺しにし、又、ハッピーを見殺しにした。

俺は最高に弱く、最低な人間だ。





161 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO

慎はカメラを再び構え、『あの木』を撮ろうとしていた。

『ん?!おい!ちょっと来てーや!』

何かを発見し、俺を呼ぶ慎。俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。

慎が『これ、この前無かったよな?』と何かを指差す。

その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・

ん?たしか前もあったはずじゃ・・・

いや!

写真が違う!

厳密に言うと、この前見た『4・5歳ぐらいの女の子』の写真はその横にある。

つまり、写真が増えている!

写真の状態からして、ここニ・三日ぐらいに打ち込まれているであろう。
この前に見た写真は既に女の子かどうかもわからないぐらいに雨風で表面が

ボロボロになっている。

新しい写真も『4、5歳ぐらいの女の子』のようだ。

この時、慎には言わなかったが、俺は一瞬『新しい写真が俺だったらどうしよう!!』

とドキドキしていた。

慎はカメラにその打ち込まれた写真を撮った。

そして、

『後は秘密基地の彫り込みを撮ろう。』と言い、又走りだした。

俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。





163 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO

秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ、

『慎!』と呼び止めた。

違和感

いつもなら秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。

慎もすぐに気付いたようだ。

このとき脳裏に『中年女』がよぎった。

胸騒ぎがする。

鼓動が激しくなる。

慎が『裏道から行こう。』と言った。俺は無言で頷いた。

裏道とは獣道を通って秘密基地に行く従来のルートとは別に、茂みの中をくぐりながら

秘密基地の裏側に到達するルートの事である。

この道は万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。

もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・

この道なら万が一、基地に『中年女』がいても見つかる可能性は極めて低い。

俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。

そして秘密基地の裏側約5㍍程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が解った。

バラバラに壊されている。

俺達が造り上げた秘密基地はただの材木になっていた。

しばらく様子を伺ったが、中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、

秘密基地『跡地』に到達した。





181 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO

俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見、少し泣きそうになった。

『秘密基地』言わば俺達三人と2匹のもう一つの家。

バラバラになった材木の片隅に大きな石が落ちていた。恐らく誰かがこれを

ぶつけて壊したのだろう。

『誰かが』?・・いや、多分『中年女』が。。

慎が無言で写真を撮りだした。

そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。

その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。

ハッピーとタッチ。

秘密基地よりもかけがえの無い2匹を俺達は失った事を痛感した。

慎は立ち上がり

『よし、このカメラを早く現像して警察に持って行こう。』

と言った。

俺達は山を駆け降りた。

山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。

『このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。』

その一心だけで走った。

途中でカメラ屋に寄り現像を依頼。

出来上がりは30分後と言われたので俺達は店内で待たせてもらった。

その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。

そして30分が過ぎた。





190 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO

『お待たせしましたー。』

バイトらしき女店員に声をかけられた。

俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。

女店員は少し不可解な顔をしながら

『現像出来ましたので中の確認をよろしくお願いします。』といいながら

写真の入った封筒を差し出した。

まぁ現像後の写真が犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、

不可解な顔をするのも当然だが・・・

慎はその場で封筒から写真を取り出し、すべての写真を確認し、

『大丈夫です。ありがとうございました。』と言い、代金を支払った。
店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる

駅前の交番へ二人して飛び込んだ。

『ん?!どうしたの?』

中にいた若い警官が笑顔で俺達を迎えてくれた。

俺達はその警官の元に歩み寄り、『助けてください!』と言った。

俺と慎は『あの夜』の出来事を話した。裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。

そして、今も『中年女』に狙われている事を。


一通り話し終わるとその警官は穏やかな表情で『お父さんやお母さんに言ったの?』

俺たちは親には伝えてないと言うと、

『ん~、んぢゃ家の電話番号教えてくれるかな?』と警官は言い出した。





286 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M sage 2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO

慎が『なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!』とキレ気味に言い放った。

ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。

俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。

『あの夜』親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれた、などバレれば、

俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。

『助けてよ!警察官でしょ!!』と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、『君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと

親に言わなきゃダメだよ。』と、しばらくイタチゴッコが続いた。

あげくに警官は『じゃあ君達の担任の先生は何て名前?』

など、俺達にとっては《脅し》に取れる言葉を投げ掛けてきた。

まぁ、警官にとっては俺達の『保護者及び責任者』から話を聞かないと・・・って

感じだったのだろうが、俺達にとって、こういう時の『親・先生』は怒られる対象にしか

考えられなかった。

そうこうしているうちに俺達の心の中に、目の前にいる 警官に対して

《不信感》が芽生えてきた。

[このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!]と。






<続く>

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