100年に一度永い眠りにつくことによって
その若さと美しさを保っている「おろち」という謎の美少女。
彼女は手首に包帯の巻かれた右手から人の心を読み取ったり念動力を使ったりできるのだ。
ある時は屋敷のお手伝い・またある時は看護婦……。
行く先々で起こる不思議な現象や人間の業からなる悲劇を、
おろちは時に見守り、時に妨害してゆく……。
彼女がどこから来てどこへ行くのか、誰も知らない
◇おろち「秀才」
おろちは神社で見かけたとても可愛い赤ちゃんに興味を惹かれ、
その子の人生を追って観察することにした。
立花家の赤ちゃん、優。
K大を出ている父親と優しい母の元で幸せに暮らしていた。
「この子に勉強の無理強いはさせませんわ。心の優しい子に育って欲しいわ」
母が眠った優を抱いて寝室に行くと、そこに強盗が侵入していた!
ナイフを突きつけられ、夫の元へ行く母。
夫はお金を出そうとするが、優が起きて泣き出してしまった。
強盗は焦って優の首にナイフを突き刺し、逃げてしまう。
強盗はすぐに捕まり監獄に入れられた。
女房子どもにうまい物を食べさせたかったと言う
犯人の自供通りに彼の家には病気の妻と子どもが1人いた。
その出来事の後、立花一家は東京へ引っ越したが、すべては一変した――。
首の傷を怖がられて遊んでもらえない優。
まだ幼い優に母は勉強を無理強いする。
めったに家から出してもらえず勉強とピアノを習わされる優。
「あなたはママの子だもの、ピアノぐらい弾けるはずよ!!」
強引に鍵盤に手を乗せ、弾かせる姿を見て父親が声を荒げる。
「優を虐げるのはよしなさい!!」
「またお酒を飲んでいるのですね!!」
「やめて!!ママ!!」
「ママと呼ばないでちょうだいっ!!」
すがりつく優を平手打ちにする母。
お前は変わったと嘆く父に優の首の傷を見せ、
「これでも何も思い出せないというのですか!?悔しくはないのですかっ!!」
と叫ぶ…。
幼稚園に通うようになった優。
勉強はよくできたが遊びは全然だった。
傷をからかわれ、自分でも首の傷について考えるようになってきた。
「なぜ僕はこんな傷があるの?パパは木から落ちて怪我をしたって言うけど…なぜなの!?」
優に問い詰められ、強盗に優が刺されたのだと嘆く母。
そのせいでパパもママもすっかり変わってしまったのだと優の名を呼んで泣き出した。
「もう傷のこと聞いたりしないから泣かないで!」とすがる優を突き飛ばし、
「お前なんかに私の気持ちはわからない」と優を締め出してしまう。
ドアを叩きながら母を呼んで泣く優。その声を聞いてますます泣き喚く母。
「優!優!お前さえあんなことにならなければ!!」
ひとしきり泣き終えて優を家に入れ、勉強をさせる母。
「お前は刺されたあと酷い熱が出た、助かったがそのせいでお前はバカになってしまったのだ。
パパは諦めてしまったがママは諦めない、お前をなんとしてもパパが出たK大に入れてみせる!!」
優は小学生になった。成績はよかったが社交性がなくなり仲間はずれになってゆく。
5年生になった頃、宿題で10年前の新聞を調べていて、自分の家の事件の記事を発見する。
「立花浩氏の長男優ちゃん(1歳)が…賊に首を刺され………」大きく衝撃を受ける優。
帰宅して部屋に閉じこもり、翌朝ノートに自分を刺した賊の名「夏江岩男」と書き残して
家を抜け出してしまう。
おろちはその後をこっそりつける。
優は夏江という長家に行く。
岩男は刑務所に入っている。
咳き込みながら出てくるやつれた妻シズ。
優が名乗ると、突然泣き出して家に入ってしまった。
「帰ってくださいっ!!」
「僕の首に傷をつけたのは誰です!?おばさんなら知ってるでしょう?」
「知りません、帰ってくださいっ!!」
「おばさんっ!!」
引き戸を挟んで泣き叫ぶ2人。
それを見ておろちは何十年ぶりかの涙を流す。
だがその理由は他の誰にもわかるまい…。
それから優は変わった。自分からどんどん勉強をするようになったのだ。
母は父に優のことを相談する。
何もかも知ってしまったのかと不安がる母に、
あの子がすべてを知って破滅が来た方が楽だと言う父…。
母が予想以上に勉強を進めている優。
「あの子にはできるわけない!」とショックを受ける。
中学に進み校内2位となった優。1位は平井という男だった。
生徒達はK大志望なら付属校に入れた方が楽なのにと親を不思議がる。
体育の時間、優はいつもさぼって本を読んでいるが、こっそり教室に忍び込む。
生徒の持ってきた高級時計を取り、平井の机に入れた。
その後平井は泥棒扱いされて成績も落ち、転校していった――。
おろちは優の変わりようにショックを受ける。
優は母に平井の事件を話し、あれは自分がやったのだと言う。
母は驚くが、やっぱりって言ってるような顔だと言われて冗談はやめろと怒る…。
優は秀才ばかりの集まる高校にも難なく合格した。
おろちは遠くから見ているだけでは耐えられず、優と同じクラスに入った。
優は学校ではいつも漫画を読んでいたが、校門を出ると顔つきが変わる。
おろちはコーラス部に入らないかと優を誘い手に触れるが、
硬く閉ざされた心は変わらず、力が通じない。
優は去って行ってしまった。
K大受験の模擬テスト前夜。母がコーヒーを差し入れるが無視して勉強している。
おろちは優の部屋の明かりを見ながら、「少し休みなさい」と力を送る。
手を休め、コーヒーを飲む優。安心しておろちは立ち去る。ところが……。
優は突然胃痛に苦しみ始めた!部屋を飛び出すとドアの外にいた母がどうしたのと叫ぶ。
優はなんでもないと部屋に戻った……。
翌朝。
「優はきっと寝ているわ…起きれるはずがない…だってあんなに………」
部屋に行くと優はいない。もう模擬テストに行っていたのだ。
テスト会場に向かう優の様子に気付きそっと手で触れるが、
優に拒まれ少ししか手当てできない。
それでも優はかなりの成績を収めた。
こうしてK大受験前夜。優の部屋に古い新聞が置いてあった。
夏江シズの自殺記事だった。
「こんな記事を読んだくらいで眠れなくなるようなぼくではない!」
ぐっすり眠って受験を受けに行った。受験後優は3日間死んだように眠り続けた。
K大の教師に優の成績を電話で聞く母。
合格を取り消してくれ、勉強人間にしたくないからだと
必死に頼むところに優がやってきた。慌てて電話を切る母。
「あんなに勉強を強制しK大に入ることを望んだあなたが今になってそんなことを言う訳は…
僕を苛めるための手段に過ぎなかった!
なぜならぼくはお母さんの子どもではないからだっ!!
ぼくは強盗の子どもなのだっ!!
この前自殺した夏江シズの子どもなのだっ!!」
優が見た新聞には「優は首を刺されて死んだ」と書いてあったのだ。
そして夏江の近所の人に尋ねたら夏江家に子どもはいないと言われたのだ。
息子を殺された憎しみで犯人の子どもを無理やり引き取った。
そうして勉強を強要することが復讐だったのだ。
強盗の息子に何ができるかと思ったのだ、
それを知って優は辛かったが必死に耐えた。
「実の母親からは手放されあなたからは苛められぼくはずっと一人ぼっちだった、
だが僕はついに勝ったのだ!きっといい成績でK大にパスしてるはずだ」
首の傷をつけたのは誰だと母に詰め寄る。
母はタンスからナイフを取り出した!
「このナイフであなたを刺したのよ!
お前なんかに子どもを殺された私の気持ちなどわかりはしない!
まだお前は勝てやしない!!」
ナイフを優に向け刺そうとする。
優はナイフの向きを逆にして避けた。
ところが母は自らナイフに身を押し当てた!!
深々と刺さるナイフ。
「おかあさん!!」
「おかあさんと呼ぶのはよしてちょうだい!!
お前が呼ぶたびにどんなに苦しかったか…
でももうお前の負けよ、今お前は私を突き刺して殺そうとしたのよ…!!
やっぱりあなたは殺人犯の血を引いているのね、これで入学は取り消されるわ!!」
母にすがる父。「あなた!!ついに破滅の日が来たのよ!!」
「優!!私の優!!」涙を流す母。
「優!!優!!」
「おかあさんっ!!」
涙を流しながら母にすがりつき、母と抱き合う優。
おろちは窓からその様子を見ている。
「これでいいのだ……どんなに憎しみあっていてもこんなに長い間一緒に生活してきたのだ…
2人は親子なのだ、そうでなければこんなに長い間暮らしてはこれない……」
その夜、立花家は静かだった。
親子3人抜け殻のように眠っていた。
おろちは右手の包帯を解くと優の首に、母の傷に、父の疲れた顔にわけて当てると去って行った。
きっとみんなの傷は癒えるだろう。
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