100年に一度永い眠りにつくことによって
その若さと美しさを保っている「おろち」という謎の美少女。
彼女は手首に包帯の巻かれた右手から人の心を読み取ったり念動力を使ったりできるのだ。
ある時は屋敷のお手伝い・またある時は看護婦……。
行く先々で起こる不思議な現象や人間の業からなる悲劇を、
おろちは時に見守り、時に妨害してゆく……。
彼女がどこから来てどこへ行くのか、誰も知らない
◇おろち「骨」
貧しい家に生まれた千恵は、まま母や酒飲みの父親に
虐げられながらも美しい女性に成長した。
酒代のため売り飛ばされそうになった千恵に
前から目をかけていたと言う青年がプロポーズしてくれた。
二人で始めた新生活。
千恵は初めて幸せを実感した。
そんなある日、夫が信号無視の車にひき逃げされ、
おろちが看護婦として勤める病院へ運び込まれた。
完全に回復するまで3年はかかるという。
千恵はかいがいしく夫の看病をした。
退院し自宅療養中の夫の世話をしながら働きに出る千恵。
予想より早く歩けるようになった夫は散歩に出かけ、
崖から落ちて死んでしまった…。
「あなた……生きて帰ってきてください!!」
葬式からもう1ヶ月は過ぎたというのに毎日泣き暮らす千恵。
そんな千恵のもとにおろちがやってきた。
「ご主人を生き返らすことができます」
「嘘の慰めを言わないでください!
あなたは私のような不幸な女をからかって
さらに不幸にさせようとしてやってきたのですね…」
あまりにも悲しそうなのでつい口走ってしまったと詫びるおろち。
千恵はあんまりだと言ってさらに泣き続けた――。
「嘘ではない…生き返らすことは無理でも再びご主人に会わせることはできる。
準備はすでに整えていたのだ!」病院へと走るおろち。
深夜の実験室。おろちはそこにご主人に似せた人形を作っておいたのだ。
「死んだ人間を生き返らすことは無理でも命のないものを動かすことはできる」
人形の胸に穴をあけ、そこに右手を切って流れた血をかけてゆく…。
「命のないものよ動け!生きて動け!」ぼとぼとと流れ落ちてゆく血。
全神経を費やしたのに人形は動かず、砕け散ってしまった!
失敗のショックと出血で倒れるおろち。
その頃、千恵の夫三郎が土葬された墓地からうめき声がする。
暗闇の中目覚める三郎。
「崖から落ちるまでの一部始終をはっきり思い出したぞ!」
千恵のもとへと戻るために必死に棺おけを抜け出し、地中から這い出る三郎。
舌が腐って零れ落ち、声が出せない……。
喉に穴があき、あばら骨がむき出している。
「腐ったままで生き返ったのだ!!」
翌朝、血まみれの床の上で目覚めるおろち。
「私は命をとりとめたけれど、千恵さんとの約束は果たせなかった!!」
そこに運び込まれてきた身体中が腐った男。
医師はしきりに不思議がるが、おろちは自分の術が
死体の方に効いたのだと気付く。
日々が過ぎ、だんだんと肉がついてきた患者。
うなされる横顔はまさしく三郎だった!
「千恵さんを呼んでいるのですね!?あなたは千恵さんのご主人ですね?」
目覚めた男は千恵の元へ行こうと包帯を外すが、
自分の身体を見てショックで倒れてしまう。
やっぱりそうだ!よみがえったのだ!
人形にかけた力が墓場のご主人の方に…!」
墓場へ行くと、やはり三郎が抜け出た形跡があった。
千恵の元へ報告に走るおろち。
「ご主人が生き返ったことを知ったらどんなに喜ぶだろう!」
ところが千恵のいたアパート部屋は空室だった。
千恵を見初めた男と再婚して出て行ったという。
三郎の位牌と写真を持参して。
ショックを受け、とぼとぼと病院へ戻るおろち。
ある夜、三郎も病院を抜け出していなくなってしまう…。
おろちは「2人がいつかまた会えるように」とまじないをかける――。
2年後、おろちは千恵の再婚先をやっと見つける。
中に入ると仏壇の前に千恵がいた。
「あなた……私をお許しください。
こうして再婚してまいりましたけれど、
今もあなたのことは忘れてはいないのですよ。
今の主人の間には子どもも生まれましたけれど…」
その腕に小さな男の子を抱きながら三郎の写真に話しかけている。
「千恵さん、あなたのご主人は生き返りましたよ」
「えっ!?」
「自分の力でお墓を抜け出し倒れているのを病院に運ばれたのです、
ご主人もあなたを探しているはずです…さあ、あなたも探しに行きましょう」
「いやです!!そんな恐ろしい冗談はやめてください!!」
やめてと叫び泣いて拒む千恵。
おろちは仕方なく去って行った……。
それからしばらくして、三郎の姿を町で見かけるようになり千恵は怯える。
町中で三郎らしき男に襲われ、息子のジュンのために買った人形にナイフを刺される。
仕事に行く今の夫に必死に訴えるが、信じてもらえない。
お手伝いさんも買い物に出かけ、自宅に残った千恵の元に三郎がやってきた!
ジュンを奪う三郎を止めようとしてあばら骨を見てしまいショックで気絶する千恵。
そのままジュンは連れ去られてしまう……。
それから3日。夫や警察に死んだ夫が連れて行ったと説明するが信じてもらえない。
自宅待機する皆の元に小包が。中には子どもの手が……。ショックで倒れる千恵。
呼ばれた医者とともにおろちもやって来た。
「私はあなたの味方です」
『私の呪文どおりご主人と千恵さんは会ったのだわ。
でもご主人がよみがえらなかった方がよかったのではないだろうか』
海岸沿いの空き家で鏡を見つめる三郎。
骨の露出が酷くなっている。
記憶も途切れるようになっていた。
千恵への恨みを復唱する三郎。
『千恵、お前を苦しめて地獄へ道連れにしてやるのだ!
その訳はお前が一番よく知っているはずだ!
なぜならお前が私を殺したからだっ!!』
その夜、千恵が部屋からいなくなった。
夫の部屋にあったアフリカ土産の毒矢を持って。
矢を手に車を走らす千恵。
「殺してやる!!こんどこそ!!」
その後をタクシーで追うおろち。
「やっぱり千恵さんは前のご主人の死に繋がる心の秘密を持っている。
もうそろそろ警察ではあの手の手が誰の物かわかる頃だろう。
なぜならあの手は……」
海沿いの空き家の地下室にジュンを閉じ込め、海岸に佇む三郎。
そこに千恵がやって来た。
ジュンをさらった時に、ここに来るように手紙を置いていったのだ。
「あなたがジュンを殺したのね……ジュンを返して!!」
毒矢で三郎を貫くが、貫通してしまって効き目がない。
逆に首を絞められて意識を失う…。
その頃、寝ていたジュンにたくさんの虫が迫ってきた。
ジュンは怯えてただ泣いている…。
縛り上げた千恵を自分のいた墓地に連れてゆく三郎。
千恵の墓まで隣に用意されている。
棺おけに入れられそうになる千恵を、おろちが助けた。
「あなたは貧しく育ちやっとご主人と一緒になって幸せだったはず、
ご主人が死んでからというものあんなに泣き暮らしていたのに、
ご主人が生き返ったと聞いてから突然恐れるようになりましたね。
悲しんでいるのは嘘だったのですね!」
「なぜみんなそんなに私を苛めるの!?
どうして私の幸せはすぐに消えてしまうの!?」
三郎の死んだ崖へと走る千恵。
記憶をほとんど失った三郎も後を追って走る。
「わからない……人の心だけはなぞだ」
おろちも後を追いかける。
「来ないで!寄るとこのまま飛び降りるわ!!」
三郎にしがみついて千恵が叫ぶ。
「あなたはケガをした足でここに来たのよ。
私は心配で後をつけてきたのよ…
でも崖から落ちてしまえばいいとも思ったわ。
あなたの事故のケガは本当は酷かったのよ!
私は再び苦労を背負って生きなければならなかった!!
私はみじめな生活が一番嫌なの、
私は幸せになりたかった!!
だからあなたを殺したのよ!!」
三郎を崖から落とす千恵。
三郎がつかまる手を必死に解こうとする。
「あの時もあなたはこうやってつかまった!
あの時もこうやってつかまる手を無理やりはがした!
だが今は違う!あなたはジュンを殺したの!!
だから殺すのよ!!」
「あの手は私があなたの反応を示すために病院にあったのを送ったのよ!!」
おろちが止めに入るが、間に合わずに落ちてゆく三郎。
千恵は高らかに笑っている…。
「なんということをするんです、行方がわからなくなってしまうわ、ジュンの行方が…」
風が三郎の肉を飛ばして、後には衣服と骨だけが残った。
おろちはいたたまれなくなり、ただ走る。
ジュンを探してひたすら走るおろち。
やがて海岸の地下室を見つけ、ふたを開けてみた……。
そこには朽ち果てたジュンの死体があった。
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