元々日本に土着していた焼き畑農耕(稗・粟など)やドングリクルミなどを栽培してきた定住農耕民族(縄文人)に対して、稲作農耕が入り込み普及するにともなって、大陸に浸透していた五行思想が入り込み、稲作農耕民族としての日本の農民のものの考え方の基層に連綿と伝わっています。

 「陰陽五行思想がいかに日常生活に深く入り込んでいるか」ということの例としてよく取り上げるのが、「ポケットモンスター=ぽけもん」の戦闘能力役割と「火水木金土」の五行についてです。
 火ポケモンは鋼(金)ポケモンに勝つが、水ポケモンには負ける。 草(木)ポケモンは土ポケモンを撃退する。木剋土、土剋水、水剋火、火剋金、金剋木というポケモンの戦闘能力にも、陰陽五行思想が反映されています。これは商業ベースのことですが、現代のこどもたちは、遊びながら陰陽五行の思想を取り入れているというわけです。

 もちろん、これは皮相な例にすぎませんが、無意識のなかに、陰陽五行思想は私たちのものの考え方の中に入り込んでいるのです。
 お祭りのひとつ「おこうしんさま」があります。吉野裕子の陰陽五行思想の著作を読んで、「おこうしんさま」とは、「御庚申様」であることがわかります。

 十干十二支のうち、十二支は12の動物の名とともに現代でも生まれ年を表すのに用いられています。2009年は丑(牛)年、2010年は寅(虎)年です。
 十干は、昔は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸が成績や序列を表すのに用いられましたが、現代ではこの十干が順序を表すのは法律上の二者を表すのに甲乙が使われるくらい。十干は木火水金土の五行をそれぞれ兄と弟の二つに分けたものを表しています。甲(木の兄きのえ)乙(木の弟きのと)丙(火の兄ひのえ)丁(火の弟ひのと)戊(土の兄つちのえ)己(土の弟つちのと)庚(金の兄かのえ)辛(金の弟かねのと)壬(水の兄みずのえ)癸(水の弟みずのと)

 この十干十二支で年を表します。2008年は戊子(つちのえね)年。2009年は己丑(つちのとうし)年。1950年生まれの人は庚寅(かのえとら)年でした。来年2010年に暦が一巡りして再び庚寅が回ってくるので還暦です。

 丙午(ひのえうま)に生まれた女性は気性が激しすぎて夫の死を早めるとという迷信がありました。丙午に生まれた女性は嫁のもらい手がないだろうからかわいそうと親世代は考え、1965年(昭和40)の出生率は25%も低くなりました。
 しかし、1965年生まれの子世代が結婚適齢期を迎えた1980年代、すでにこのような迷信によって破談になるということもなくなっていました。結婚に不利もなく、結局1965年生まれは前後の年齢の人に比べ、受験や就職が楽でバブル真っ盛りのお気楽な時代に青春をすごし人生お得なことばかりだったのではと思います。しかし熟年期に入り、リストラの対象になっている年齢でもあるのかもしれませんからお気楽世代とばかりはいえません。

 「壬申の乱」とか「戊辰戦争」など、十干十二支の呼び方で歴史上の事件を表す方法も残っています。

 知らず知らずのうちに日本人は、中国の文明と文化を自分たちの生活の仲に取り入れて今に至っています。日本独自の文明論を唱える人たちもいますが、古代日本にあってそんなことはありえないことは、考古学上、また歴史学上証明されています。

 近くて遠い国中国や朝鮮半島など大陸からの影響をたくさん受けて、今の日本が成り立っています。