大げさなようだが、今まで包まれていた魔法の羽衣がはぎとられたような気持ちだ。
魔法の羽衣は身につけていることに気付かないほど軽くて優しい、しかし、
外からの風を受け付けず跳ね返してくれるほど強靭なものだった。
その羽衣はきっと風の横暴さに疲れ果て、心もひどく傷ついているにちがいない。
謎の団体の紳士たちがその風としたら、優しい風もいるし、冬の厳しさと春の訪れを
教えてくれる師のような風もいる。
しかし、理不尽に気の向くまま吹き荒れる風のような人もいる。
そんな理不尽な風から守ってくれていた魔法の羽衣のような人が去って行ってしまった。
羽衣のない私は、理不尽な風にさらされても、果たして立っていられるのであろうかと
不安でいっぱいだ。
その不安よりも私の心の中の大半を占めるものは羽衣が果たしてくれたその労力が
正当に評価されず、むしろ自己主義の紳士からは非難の対象になっていることに
対しての失望と悔しさだ。
羽衣をまとったものにしかわからないことはないはずだ。
誰でも心あれば、その羽衣の紳士が無私無欲で行ってきたことに対して
心動かされるはずなのに、それがわからない私利私欲に走った人の存在にも
悲しみをおぼえる。
「空気のような存在になりなさい」とその人は言った。
正しき事務員として、これからその言葉をいつも心して仕事に臨む所存だが、
定年まで短い月日、はたしてそんな空気のような存在になれるのか?
羽衣を失った正しき事務員の道は険しい。