雨の花火大会 | 謎のこうのとり 


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謎の団体の事務所はSホテルの13階にある。

元々、倉庫だった部屋を少し手を加えて、事務所にしたのだ。

ここを初めて訪ねてくる謎の団体の紳士は事務所の狭さと、

もう一つのことに驚く。


それは事務所の前に広がるコンクリートのバルコニー。

バルコニーというのが、おこがましいほどタダの広場のようなもの。


もちろんここを訪れる宿泊客はほとんどなく、

たまにエレベーターの案内図に書かれたバルコニーという文字に

魅かれてやってくる人もいるが、皆一様に落胆して

お戻りになる。


そのちゃっちぃバルコニーが一年に一度、特上の場所と化する

日があるのだ。

それが花火大会の日。

ここからだと打ち上げ花火はもちろんのこと、仕掛け花火も

バッチリ臨場感溢れる一等席となる。


毎年、Sホテルを会場としている3つの謎の団体がこの場所を

共同で借り切る。

場所代だけで20万円。

そして、Sホテルに飲み物や食べ物も依頼するとかなりの額となる。


Sホテルは花火大会会場に最も近いホテルとして、

一年の何分の一の収入をこの日に賭けているのだ。


しかし、今年その日は集中豪雨のような一日だった。

そして、木曜日に順延された。

週間天気予報では、この日だけ雨マーク。


Sホテルの一職員の声

 「行いが悪いとこうなるのだ」

ひょっとしたら、引っ越し先の事務所を探さねばならない状況に

なるかもしれない。

引っ越しの労力を考えると大変なので、私はひたすら

Sホテルのために木曜日がせめて曇りになることを祈るのだ。