元々、倉庫だった部屋を少し手を加えて、事務所にしたのだ。
ここを初めて訪ねてくる謎の団体の紳士は事務所の狭さと、
もう一つのことに驚く。
それは事務所の前に広がるコンクリートのバルコニー。
バルコニーというのが、おこがましいほどタダの広場のようなもの。
もちろんここを訪れる宿泊客はほとんどなく、
たまにエレベーターの案内図に書かれたバルコニーという文字に
魅かれてやってくる人もいるが、皆一様に落胆して
お戻りになる。
そのちゃっちぃバルコニーが一年に一度、特上の場所と化する
日があるのだ。
それが花火大会の日。
ここからだと打ち上げ花火はもちろんのこと、仕掛け花火も
バッチリ臨場感溢れる一等席となる。
毎年、Sホテルを会場としている3つの謎の団体がこの場所を
共同で借り切る。
場所代だけで20万円。
そして、Sホテルに飲み物や食べ物も依頼するとかなりの額となる。
Sホテルは花火大会会場に最も近いホテルとして、
一年の何分の一の収入をこの日に賭けているのだ。
しかし、今年その日は集中豪雨のような一日だった。
そして、木曜日に順延された。
週間天気予報では、この日だけ雨マーク。
Sホテルの一職員の声
「行いが悪いとこうなるのだ」
ひょっとしたら、引っ越し先の事務所を探さねばならない状況に
なるかもしれない。
引っ越しの労力を考えると大変なので、私はひたすら
Sホテルのために木曜日がせめて曇りになることを祈るのだ。