離陸開始です。重い機体はノロノロと滑り出し、加速すると滑走路端ぎりぎりで前車輪が地上を離れました。上空では2機のベンチュラ機と直衛のP−51編隊16機が待っていました。続いてP−38とモスキートが加わりました。モスキート機には大統領の息子で写真偵察隊の指揮官でありますエリオット・ルーズベルト大佐が、ジョーの脱出状況をカメラに収める目的で乗り込んでいました。
 ジョーのPB4Yは、計画通り離陸しますと東南→北→南へ針路を変え、150ノットの速度で18分後に自動操縦へ切り替えました。全て順調でしたので、脱出、母機の誘導へ移る手筈を終わると、電話で母機のアンダーソン大尉に「スペードフラッシュ」と通報しました。「準備完了」を意味する暗号でした。その時、アンダーソンはレーダーに映るジョーの機影を見つめていました。
 18:20、レーダー盤が一瞬白く光ると同時に、機影が消え、直ぐに2つの鈍い爆発音が聞こえました。「どうした。何が起こったんだ!」アンダーソンは隣りの操縦者の肩を掴んで怒鳴りました。そこからは肉眼で400メートル前下方を飛ぶジョーの機が見える筈でした。
 最終誘導機のデムリンは爆発の瞬間を目撃しました。稲妻の様に強烈な光が目を射ると同時に2つの巨大なオレンジ色の火焔の塊が生まれ、盛り上がる様に拡大しました。原子爆弾を除くと、それは有史以来最大規模の空中爆発でしたであろう。
 PB4Yは2人の搭乗員諸共、南イングランドのニューデライトウッド上空で粉々に四散しましたのであります。
 無数の破片が直下の村に降り注ぎましたが、何軒かの農家の屋根が穴だらけになりましただけで、人身への被害はありませんでした。