もしも一瞬の怒りから、殺したら、家族や自分はどうなるのか、お殿さまに対しても信用をなくしてしまうんじゃないのか。



ああ、怒りこそ恐ろしい地獄であったと気が付き、『わかりました』


と刀をおいて、両手をついてあやまりました。



するとお坊さんは、今度はとてもやさしい声で『そこが極楽だよ』


と言ったのです。




このサムライは、地獄という、死んでしまってから行く、遠い所にある、苦しみの世界と考えていたはずです。だからこそ詳しい様子を知りたかったのでしょう。



お坊さんは『そんな遠い世界に目をむけるよりも、もっと近くの自分の心の中に目を向けなさい。怒りの心をもったその時が、地獄の世界だよ』


とサムライに教えたのです。



怒りは地獄に落ちる原因だといいますが、もっとわかりやすく、怒りそのものがすでに地獄の姿なのだと教えたのです。



皆さまも怒った時の自分の顔を鏡で見てみましょう。



そんな顔は、二度と見たくないと、きっと思うのではないでしょうか。