彼女の一家は祖母、父、母、兄と自分、妹の六人家族でした。 突然父が亡くなり、その葬式の八日後に母も亡くなります。
近所の人々は『人形の墓をつくれ』といいます。
その地方では、同じ年に二人の葬式を出したならば、二つの墓の横に、わら人形の入ったもう一つの小さな墓石を建てなくては、また死人がでるということが信じられていたのです。
けれど、少女の家は貧乏で、その余裕がありません。 そうこうするうちに、兄が病みつき、結局亡くなってしまいました。
『そうして祖母も亡くなり、私と妹は離ればなれになりましたが、妹は父の友達にもらわれていき、幸せに暮らしています。』
と少女は話を終えました。
彼女は深々とお辞儀をして、名士の家を辞そうとします。
八雲さんが少女の座っていた場所に移ろうとすると、彼女は激しく拒絶しました。
『まず、畳を叩いて下さい。私の座ったあと、温かくなったあとへ座ると、私の不幸を全部吸い取ってしまうから』
八雲さんは畳を叩くような、おまじないはせずにそのまま座ります。
名士は少女に『旦那さまは、あなたの不幸を引き受けてくださったぞ』というのです。
利他のこころとは八雲さんが示したような行為を指すのかもしれませんね。