あるお年寄りが、一匹のタヌキが車にひかれているのを見つけてそれを海に流しました。
そこから100メートルほど歩きますと、兄弟でしょうか親子でしょうか、またタヌキがひかれていました。
そこで今度は川に流しました。
海水浴場まで来ると、またタヌキがひかれていました。
また葬ってあげようと近づいた所、タヌキの上にカラスが止まり、『これは俺の獲物だ』と言っているようなそぶりを見せていました。
しかしタヌキがかわいそうなので、カラスが入れない藪の中にタヌキを隠しました。
『今日は3回も良いことをしました』と上機嫌でした。
その後、仕事をしながらタヌキのことを考えていると、ふと、お釈迦さまの話が
頭の中に浮かびました。
前世のお釈迦さまの所に一羽の鳩が飛んできて、後から鷹が追ってきました。
鷹はお釈迦さまに『鳩を寄こせ』と言いましたが、お釈迦さまは出しません。
そこで鷹はお釈迦さまに『お前は鳩の命を守ろうとしているのだろうが、鳩を食べないと私が死ぬんだぞ』と言いました。
お釈迦さまは自分の身体を鷹にあげることにしました。
この話を思い出して、ふとさっきのカラスが『タヌキを食わなければ、私が死んでしまうんだぞ』と言っているような気がしてきました。
あるお年寄りが行ったことは、カラスの食べ物を取り上げただけでした。