あの「ありがとう神様」と書いた舌の根も乾かぬうちに
金曜の夜9時頃、今度は母から留守電が入っていた。
私はお風呂に入っていて気付かなかった。

両親からの着信履歴を見ると心の底からうんざりした気持ちになる。

「1階で動けなくなっちゃった。
 ゆうちゃんに言ってもしょうがないんだけど
 何か良い案はないかなと思って」

「1Fに介護ベッドを置かないということは
 また痛くなって、動けなくなっても、
 誰もどうすることもできないんだよ。」

何度言い聞かせても

母「もう放っておけば?」

そうやって開き直るくせに
いざ困ったことがあればすぐに電話してくる。

妹にも連絡したが、特に心配している様子はない。

翌日は土曜日だ。
土曜日なら行ってあげられないこともない。
月曜は病院に同行するから、またすぐ行かなくてはいけないのだが
もし本当に動けないなら、
一応様子を見た方がいいかもしれない。

父が薬を運んであげるということもないだろう。

夫と「今日はフリーデーだね、本当に久しぶりだね」と言っていたのに。

私「今日、また実家行ってもいい?」
明らかに驚いた顔で
夫「なんで今日行かなきゃいけないの?」
私「行かなきゃいけないということはないんだけど
   お母さんが動けないなら、こないだも病院で洗濯物の心配してたし
   やっぱり乾燥までできる洗濯機に変えた方がいいと思うし
   月曜の病院の日はそこまで手が回らないと思うし、
   一緒に確認してもらえるとありがたいっていうのもあって」
夫「いいよ」

夫には本当に申し訳ないと思う。
いつも私の両親に振り回されて、
本人たちは何を言ったか覚えてないし
もちろんこっちの説明も覚えてない

実家についたら母は起きていた。
私「動けたんだね」
母「どうしたの?」
私「昨日の夜、1階で動けなくなったって電話してきたから見に来たんだよ」
母「私、そんな電話してない」
私「したんだよ。聞く?」
留守電を聞かせる
母「これ、私の声かな?」
  「それ私に送って」
私「留守電なんだから送れないよ」
「洗濯機、乾燥までついてるのに替えるから、その手配して、
 薬飲ませたら帰るから」
母「洗濯機、いいよ。お父さんが2階に運んでくれるから、それ干してるんだよ」
私「動けなくなったら、洗濯物出来ないでしょ?乾燥まで済めば楽でしょ?」
母「確かに乾燥までできるの私も考えてた」
  「でもここに置けるかな?」
私「(同じ会話前もしたんだよ)だから今日寸法測っていくから」

夫が今日手配すれば、クーラーの時と同じく
設置日がわかるから、ここで注文しちゃいなと言うので
そこまでやっていくことにする。

それが父に気に入らなかったらしい。
自分が無視されてどんどん決まっていくのが。

父に話しても
父「俺はわからない。勝手にやってくれ」とか
私「こないだお母さんが入院したらお父さんは洗濯どうするのか聞いたら
 洗濯板でやるって言ってたよ」
父「俺はそんなこと言ってない。洗濯くらいできる」
私「洗濯なんてできない。老人ホームに入ると言ってたよ」
父「俺がそんなこと言うわけないだろ!」

私は本当に心底、父が何もしない、役に立たないだけならいいけど
こないだ病院に同行した日も朝の10:30~13:00までずっと母に絡んでいたし
この人は本当に相手にしてはいけないと思っていて
うっかり向こうのペースに乗ってしまうと
こないだみたいに作り話を信用して騙されてしまうから
特に用心して存在をなきもののように扱っていることは確かだ。

で。そうだった。
認知症の人はこういうのには特に敏感なんだった。
「お前とはずっと話もしていない。
 なんなんだ。」
最初から喧嘩腰だった。

「お母さんが泣いてるじゃないか」

(それはお前が延々絡んで泣かせてるんだろう)

「この家は俺の家だ!
 お前は何をしようとしてるんだ!
 なんだその顔は!
 その態度が本当に気に入らない!
 この家を乗っ取ろうとしてるのか!」

父「俺が全部やる」
私「できないでしょ?」
父「何言ってるんだ、洗濯機くらい買える」
私「買ったって設置とかできないでしょ?」
父「俺が全部やる」

実家のクーラーが壊れて
自分たちで知り合いに頼んだら
「動いてますよ」と言われてそのまま帰ったと言ってた。

そのことは覚えていた。。。

動いてたって熱風が出てるんだから壊れてるんだと
何度説明しても
「こないだ見てもらって、動いてるって言われたのに、新しいのと替えるなんて。
「ずっと長い間お世話になったのに
 壊れたからお払い箱なんてかわいそう」
「あと何年も住まないのにもったいない」
まあありとあらゆる反対をされ
それでもここで熱中症で二人が死んだとかなったら
きっと後悔するだろう、
やっぱりあの時強硬的に設置すればよかったと思うだろう、
そうだ、これは自分のためにやったんだと思おう。

両親の中では
まだ壊れていなかったのに
私が無理やり新しいのに交換したと思っているんだろう。

感謝なんて1mmもされない
文句言われて、憎まれて、恨まれて、
こっちは休日を全部つぶして
1時間もかけて実家まできて、色々手配して、考えて、
そんなことはこの人たちには一切伝わらない。

でもそれでいいんだ。
もうこの二人は正常ではないんだ。
まともに相手にするから腹が立つんだ。
この人たちは認知症なんだから
まともに相手にしてはいけないんだ。

そしてこんな二人の心配をしたり、世話をやいたりするのは
私と夫しかいないんだ。

私はいつも損な役回りで
本当に疲れて、嫌な思いして
何のメリットもないどころか
損しかないのに親に尽くして
本当につまらない人生だと思う。

ずっと我慢してきた。

もう耐えられなかった。

ほんの一話前で
「ありがとう神様」なんて言ってたくせに。

「こんな家いらねーよ」と言って出て来た。

「月曜の通院と洗濯機の設置まではやるけど
 それを最後にもう両親のことには関わりません」と
妹に連絡した。