私より半年前に入った頼れる同僚もついに辞めてしまった。
根性があって頑張り屋で気が利いて
一緒に働ける人がこの人で本当に良かったと思える人だった。

「もう限界だった」って。
「『辞めないで』って言えなかったよ」と彼女に伝えた。

私と同じ日に入った人は1年経つ前にもう辞めていた。
その人が言ってた。

ある社員の声を聞くのもだめ。
私か当時はまだいた同僚か別の社員でもいいから
打ち合わせ時には誰か同席して欲しい。
その社員が何を言ってるか全然わからないから
通訳して欲しいって。

そう言われた時は
なんで私達がそんな面倒みなくちゃいけないんだって思った。

そのうち
「もうあの人からのメール見るのも無理」と言い出した。
じゃあもうダメだなと思った。
100歩譲って声は聞かなくてもなんとか仕事はできるかもしれない。
でもメールも見れないんじゃ、仕事を進めることはできない。

その人が辞めるとき
「力になれなくてごめんね」と言ったら
「ごめんねはこっちだよ。自分が辞めたら残る人の負担が増えるのはわかってるけど
 もう限界だった。対価も見合わないと思う」って。

そして、今度は彼女が同じことを言って。
「電話がかかってくると名前が出るまでの数秒の間びくびくしてた」って。
全然そんな風には見えない
さっぱりとした人だったのに。

「あれだけガーガー言われたら
 もう自分らしくいられないから」って。


ああ、これも前述の人も言ってたな
「すごい勢いでガーガー言ってるけど何言ってるかわからない」って。

まさに「ガーガー」としか言いようのない人を追い詰める

急き立てる話し方。

支離滅裂でいう事がコロコロ変わると同僚が言ってた通りだと

今はわかっているので、いちいち真に受けないようにはしているが

確かに最初の頃は面食らった。

それでこの人も同じ社員の名前が表示されたらもう電話には出れなかったって。
で電話に出ないと「なんで出ないんですか」と言われるって。
そして「もうメールもだめ」って。
前の人と全く同じ事を言って辞めていった。

その人が辞める2週間位前に新しい人が入った。
その人が辞める前に全部新しい人に引き継いでから辞めるように言われて
休みも取らせてもらえず、ずっとすごい勢いで引き継ぎしているのに
状況を聞かれて社員が思うほど進んでいないとなると
「何やってたんですか」と言われたんだそう。

そしてその新しく入った人も入って2週間目でここではやっていけないとわかり
退職を申し出た。

最低賃金でやらされる仕事ではないって。


この体制が変わらない限り
誰が来ても続きませんよと部長に言ったそうだけど
案の定全然話にならなかったそうだ。
旦那さんとも相談して辞めることにしたって。

例の社員の旦那さんは
「お前がそんなだからみんな辞めちゃうんじゃないの」と言ったそうだ。
「そうなのかな」って本人は言ってたって。

この前辞めた同僚の旦那さんが言ってたという

「お前みたいなやつが会社にとっては一番使いやすいんだよ。
 やっすい給料で言われたことなんでもほいほいやって。
 俺はもうお前の愚痴を聞きたくはないんだ。
 辞めるならさっさと辞めろ」って。

その言葉を聞いた時も本当にその通りだなと思った。
悔しいとかじゃなく。
本当にそうだなって。
いいように利用されてるだけなんだよなって。

 

新しく来た人がすぐに退職を決めたのを

「もう気付いたんだよ。頭の良い人だよ」って辞めた同僚は言ってた。

でも私も入ったその日にこういう職場だということはすぐに気付いたけど

それでもまた就活するのが嫌だから

そして初めて同僚に恵まれたから

こういう所だと受け入れてやってきた。


離職率がとても高い会社だというのは聞いていた。
私と同じ日に入った人はもう辞めたし
私より半年前に入った人は3人いたけどもう全員辞めている。
こないだ別の部署に入った人は
入って1週間位でもう辞めた。

私はこないだ辞めた同僚がいたからここまでやってこれた。
その子が辞める日に花束を渡す係を急遽頼まれ

「本当にありがとうございました。
 あなたのお陰でここまでやってこれました」って
まるで自分が辞めるような挨拶をしてしまった。

会社員生活は30年位してきた。
たくさんの人を見送ってきたけど
辞められてうらやましいとは思ったけど
この人がいなくなって寂しいと思ったことはなかった。

辞めていく同僚を見送って泣いている人を見て

そんな風に思えることは自分にはないだろうとずっと思っていた。
そんな私が同僚を見送って初めて泣いた。

この人がいなくなって
「心にぽっかり穴が開く」っていうのはこういうことかと
初めてわかった。

「新しい職場はどう?」
とその人が転職して最初の週の週末に連絡した。

「気持ちも体力も余裕ができて
家事がちゃんとできるようになった」って返事がきた。

「覚える事が多くて大変なんだけど
追い詰められる事もないし
気持ちが全然違う」って。

そう、入ってすぐ
この人の働いてる姿を見て
本当に「追い詰められてる」っていうのがぴったりくる感じが
全身から表れてた。

「こんな必死に働いてたら長くは働けないんじゃないかな」というのが
第一印象だった。
でもこの人は私より10歳位若そうに見えるから大丈夫なのかなと思った。

私が今の会社で働き始めてちょうど1年。
長くても1年半でみんな辞めていくんだなと思った。
根性で頑張って、でもどんなに頑張っても1年半で誰しも限界を迎えるんだなと思った。

毎日求人情報を見るのは本当に気がめいるし
就活したくないから、働き続けているんだけど
でもそれでも就活するほど彼女も限界だったんだなと思う。
その子も求人はずっと見てたって。

最後は泣きながら仕事してたという彼女が
「仕事はいくらでもあるよ」と言う。

追い詰められずに働けるところへ私も行きたい。