朝の電車は混んでいる。
私は向かい側に車いすの人用の場所がある
座席がない場所の近くによくいる。
座席がない分、人がたくさん入れるからだ。
その向かいの優先席はたった3席しかない。
一つは杖をついた女の人がほぼ毎日座っている。
もう一つ、私と同じ駅から乗る妊婦さんが
そこを狙っていく。
これだけ混んでいたらおなかが潰されてしまう。
座れなくてもおなかを押されない場所、
つかまるところがある場所に行かないと。
いつも優先席に座っているおじさんがいる。
私が乗るのは始発の次の駅だから
始発駅から座ってくるのだろう。
そして妊婦さんに必ず席を譲る。
なんで1駅しか座れないのに
座ってくるのかなと思っていた。
自分だったら優先席の前に立てたら
座らないで空けておく。
今日もホームの先頭に妊婦さんが並んでいる。
座るためにいつも早く来ているのだろう。
たった3席を狙って。
お菓子のようなものをたくさん詰めた
紙袋をホーム上に置いている。
「ああ、きっと今日で最後で産休に入るんだな。
会社の人に配るんだろう」と思った。
そしたら電車に乗った瞬間に
その紙袋の中からなのか何かプレゼントのようなものを
入口近くに立っていた人に渡している。
いつものあのおじさんだ。
今日は座れなかったようだ。
「今日までありがとうございました。
産休に入ります」と言っている。
そして一駅が過ぎ、
そのおじさんが降りるとき、
初めて見た優しい笑顔で
妊婦さんに何か話して何度もお辞儀をして
降りて行った。
それで思った。
きっとこのおじさんは
この妊婦さんの座席を確保するために
自分が座って場所を取ってあげてたんだろうって。
妊婦さんは別の人に席を譲ってもらって
ここから座れたようだ。
楽し気に話す声が聞こえてくる。
きっとこれまで何度も隣同士に座っていた
あの杖をついた女性と話しているんだろう。
なんだか朝からじーんとしてしまった。
お互いどこに住んでるとか、
どこに勤めてるとか
名前も知らないだろうに
なんて素敵な関係だろう。
会社で誰とも関わらず
皆私以外の人にはとても親切なのに
私のことだけは無視する人達に囲まれて
心を凍らせて
気配を消して
ただ時間が過ぎ去るのを待って
やり過ごして
人となんて関わりたくないって強く思って。
そうかと思えばこんな関係に心を震わせて。
やっぱり人と人とのつながりって
素晴らしいなと思う。
私にはなかなか縁のないことだけど
会社ではそういう関係が築けなくても
私もどこかでこういう風に人と関わっていける
人になりたいと思った。