このあと無事に引っ越せた。
新しい家の近所に住んでいた同級生は男子だけだった。
登校班のことで必要最低限のことを話すだけ。
他の子を挟んで話すことはあっても2人、もしくは3人で雑談をすることはなかった。
中学生になって、同い年の女子が引っ越してきた。
Sちゃんと言った。
それなりに仲良くなって一緒に登下校するようになった。
もう1人私たちが住む住宅街から少し離れたところに住むkちゃんという子も途中から道が一緒だった。
入学して1週間程だった頃、部活の仮入部が始まった。
初日は私の希望でSちゃんと美術部に行った。
マーブル模様の絵を描いた。
次の日は2人の意見が一致して、美術室の隣にある音楽室へ向かった。
見たこともないような楽器がたくさん並んでいた。
Sちゃんと共に金管楽器からチャレンジしてみた。
Sちゃんは上手に音が鳴るのに、私はプスーッと空気が抜ける音か、ブッという汚い低音しか鳴らなかった。
次に木管楽器。
私は何となく憧れていたフルートのところへまっさきに向かった。
金管楽器とは比べ物にならないくらい音を鳴らすことができた。
それから毎日Sちゃんと音楽室に通って、それぞれお気に入りの楽器を練習した。
仮入部期間が終わる頃、Sちゃんと私は吹奏楽部に入部届けを出した。
部活に行くのが楽しみでならなかった。
いざ入部してみると、そこにはkちゃんの姿があった。
Sちゃんは中学に上がると同時に転校してきて、知っている子は誰もいなかったので、同じ小学校だったkちゃんを紹介した。
それからkちゃんも一緒に登下校するようになった。
入部初日、新入生は音楽室の片隅で並んで座っていた。
1人ずつ名前を呼ばれて、楽器庫へ向かう。
楽器庫の中には、顧問のk先生と外部コーチのt先生がいた。
先生方と向かい合わせに座っていくつかの質問に答えた。
仮入部で挑戦してみた楽器、その中で1番楽しかったもの、やるならどの楽器がいいか。
私はフルートゴリ押し。
フルートやりたいです。しか言わなかった。
最後にt先生にバナナだったかりんごだったか、何かしらのフルーツの名前を言われて終わった。
最後のなんやったんやろう?
みんなの所へ戻ると既に先生との面談?を終えた子たちがどのフルーツを言われたか話していた。
希望した楽器になるかな?どんな練習するかな?
みんなワクワクしていた。
その日のうちだったか次の日だったかに、担当する楽器が発表された。
私はフルート。
Sちゃんとkちゃんはトロンボーン。
小学生の時に参加したふるさと探検隊で仲良くなったMはチューバ。
Mの友だちAはユーフォニアム。
小学生の時にボンドをかけられていたMちゃんはコントラバス。
登下校はsちゃんとkちゃんと。
部活や授業での休み時間はM、A、Mちゃんと過ごすようになった。
中学は私たちが通っていたF小学校とMやAが通っていたY小学校の子たちが来ていた。
1学年5クラスに増えて、1~3組と4,5組で校舎が別れていた。
小学生の時にいじめてきた男子たちは大半が4,5組で、私たちはみんな1~3組にいたので、中学3年間ほとんど関わることがなく、その点では平和に過ごせた。
Mはお母さんのような存在で、私がしょっちゅう宿題見せてと頼むと、毎回自分でやりなさいと注意してくれていた。
Aは勉強にしても部活にしても私と同じ落ちこぼれ。
その点、MとMちゃんは常に成績上位で、部活でも先生に怒られることはほとんどなく優等生と言っていい存在だった。
Mちゃんは親が厳しくて3年生になる頃、k先生には部活優先、親には勉強優先と言われ大変そうだった。
夏休み、毎年吹奏楽部はコンクール前に合宿をする。
コンクールに出る2,3年生がk先生やt先生と練習している間、コンクールには出ない1年生の私たちは別の部屋で練習していた。
副顧問で音楽教師であるo先生のもと、「大きな古時計」をやっていた。
1年生でも何人かの選ばれた子は2,3年生に混じってコンクールに出ることになっていた。
主にパーカッションの子だった。
同じフルートのRちゃんは天然、Nちゃんはしっかり者だった。
この頃はまだみんな仲良くしようと頑張っていたと思う。
コンクールの日、私たちは舞台袖で先輩たちの演奏を聞いていた。
今までの練習をずっと見てきた。
みんな胸の前で手を合わせて祈るような気持ちでいた。
吹奏楽コンクールは出場校全てが金銀銅のどれかに振り分けられる。
金賞を取ったうちの選ばれた何校かだけが次の大会に進むことが出来るという仕組み。
口頭で発表する時、金賞と銀賞は聞き間違えやすいので、金賞の時のみ、ゴールド金賞、もしくは金賞ゴールドと言われていた。
全ての学校の演奏が終わって結果発表の時間。
会場の客席の後ろの方に固まって聞いていた。
代表者の部長と副部長が舞台に立っている。
私たちの学校が呼ばれた。
F中学校 銀賞
他校やコンクールを見に来ていたお客さんたちの拍手が鳴り響く。
私たちは誰も笑っていなかった。
会場や他の学校に迷惑をかけないように、先生や先輩の指示にしたがってバスに乗り込み学校へ戻った。
空気が重かった。
音楽室へ戻って、k先生が話し始めた。
「よく頑張った。特に3年生、最後の大会で金賞取らせてやれんくてごめん。」
しくしく泣く声があちこちから聞こえ始めた。
「1,2年生。今の3年の姿を絶対に忘れるな。来年はお前らの番やぞ。」
先生の話が終わるや否や、あんなに大人に見えていた3年の先輩たちが子どものようにわんわん泣き出した。
先生も泣いていた。