ウディの天才さがあらゆる所に滲み出ちゃった奇跡の映画

Hannah and Her Sisters
『ハンナとその姉妹』
(1986/アメリカ製作)
監督&脚本 ウディ・アレン
出演 ウディ・アレン、ミア・ファロー、ダイアン・ウィースト、マイケル・ケイン、バーバラ・ハーシー、キャリー・フィッシャー

「…God, she is beautiful」のキャプションから始まるこの映画。
Harry Jamesが奏でるトランペットの『I've heard that song before』そして、その次に映し出されるバーバラ・ハーシーの表情。
脳裏に焼き付いて離れません。
長女ハンナ(ミア・ファロー)と次女ホリー(ダイアン・ウィースト)、三女リー(バーバラ・ハーシー)を取り巻く人々がグランドホテル形式で描かれる群衆劇。舞台はニューヨーク。

ウディは時々、グランドホテル形式で映画を撮るのですが、この作品もそのひとつ。ウディのグランドホテル映画の特徴として同じ人物を描く時は、同じ曲がBGMとして流れるという、人柄やイメージがはっきり伝わってくる分かりやすい設定になっています。
一人一人にテーマソングがちゃんとあるので、
あれ?この人誰だっけ?!とならないのが天才のなす技。

冒頭の『I've heard that song before』はエリオット(マイケル・ケイン)のテーマソング。
エリオットはハンナの夫なのだけど、ハンナの妹であるリーに恋してしまう所から物語が始まります。
このエリオット、映画史上最もロマンチストだと思うぐらい、ほんとにベタな男性で、
寒空の下、リーが外出するのを待ってストーキングしたり、「この詩を読むと君のことを思い出すんだ」とポエムを紹介したり…。

もぅ私、エリオットが大好きでたまりません。
そもそも妻の妹と不倫しようとしたり、ストーカーになったり、行動はめちゃくちゃ気持ち悪いんだけど、
こんなにも愛されるリーって、いったいぜんたいなんなの?と思ってしまう程。
なんか、リーってすっごい美人というわけでもなく、すっごく性格が良いというわけでもなく、なんだか自然体で、甘え上手で、
何となくモテる女性ってこのことなのねというのがピンと来ます。(嫉妬!嫉妬!笑)
「Nobody, not even the rain, has such small hands(雨よりも優しい君の手よ」、
E・E・カミングスの詩集からのこんな引用をリーに送るのですが、
こんな素敵な告白ってあるかしら。
ベッタベタなのだけど、恋してることがストレートに伝わる表現。うぅ、憧れてしまいます。

エリオットを演じているマイケル・ケインは、この作品でアカデミー賞助演男優賞を受賞しています。

ダイアン・ウィーストも破天荒な次女ホリーの役でオスカーを受賞。
しっかりしている長女、甘え上手な三女に挟まれて、自由奔放に、自分に正直に生きるホリーを好演。
ウディって、女性を描かせたら世界一だと思うのです。
三姉妹ってこうだよなっていうイメージにぴったりな女性達。

そして、長女のハンナ。演じるのはおなじみ、当時のウディの妻、ミア・ファロー。
長女って大変なのです。
しっかり者で、いつも妹たちの心配をして、みんなのためにみんなのためにって、走り回って…ほんとに良くできたまさに「the 長女」キャラクター。
そしてそして、もちろんウディも演じています!
病気フェチのミッキー。ハンナの元夫です。

この映画の1番の見どころはエリオットのストーキングシーンだと思うのですが、その次に見どころだと思うのが、
ミッキーの人生の乱高下シーンの数々。
おっさんテレビプロデューサーなのだけど、
いつもいつも自分は病気だと大騒ぎ。
ある日、ひょんなことから聴力に異常があることが分かり、大病を疑ったウディは検査を受けまくります。
この人、おっちょこちょいで、あわてんぼうで、本当に面白くって、だけど人にはとっても優しいの、人生への考察が深くってね。まぁ、またまた、ウディそのものなのだけど…。

大病は逃れられたものの、「人は生まれて死ぬだけなのでは?」「いつか死ぬのが怖い」と、今度は生きることへの疑問、死の恐怖を感じ始めることになります。挙句、神様を信じたいとユダヤ教を捨ててクリスチャンに改宗しようとしたり、輪廻転生が怖いからと言ってクリシュナ教に話を聞きに行ったり…。またしてもハチャメチャな奮闘をします。
(ウディの映画にはユダヤ教を捨てる描写よく出てくるのです。参考:『地球は女で回ってる』『カフェソサエティ』など)

人生に絶望し、いろんな宗教に挑戦してはピンとこず、途方に暮れ、挙句自殺を謀ります…。

と、まぁ色々な苦悩が彼を襲うのですが、
そのあとの再起の仕方がもぅ最高で、ウディらしさ全開なのです。
確かに人はいつか天命を全うして死んでしまうけれど、
そんなことを考えていても仕方が無い。
与えられた時間、楽しめばいい。
折れず弛まず、楽しく生きよう。というメッセージ。

辛いことがあっても前を向いてまた歩き出せる、彼の論理。

本当にその通りだなぁって。
心が元気になれるのです。
また、ミッキーの再起のきっかけがマルクス兄弟の映画を映画館で見たことなのですが、
ウディのマルクス兄弟への愛、映画への愛に溢れていています。これもこの作品が好きな理由の一つ。

ちなみに、ウディ、この作品でもオスカー脚本賞を受賞しています。
そりゃそうだわ!!素晴らしい素晴らしすぎる脚本なのであります。
ウディ51歳の時の作品なのですが、
なんだろう、この、1度人生最後までやりきってもう1回人生やってます、みたいな人生に対する悟りの深さは…。
もう一つ、見どころとしては、珍しくもレイア姫では無い、キャリー・フィッシャーが見れます。
エイプリルという、ホリーの親友役での出演。
ホリーと男を取り合うシーンが面白すぎるのです。
キャリー・フィッシャー、非常に残念なことに一昨年亡くなってしまったけれど、レイアでなくても、多少歳をとっていてもやはり美しくて魅力的で、なんだか好感度の高い演技です。
カメラを回すのはカルロ・ディ・パルマという映画撮影監督なのですが、
この作品で初めてウディとタッグを組んで以降『地球は女で回ってる(1997)』まで、なんと10作品もウディと組んでいる強者です。
ウディの一時代を築いた、素晴らしい撮影監督です。
人生楽しんだもの勝ち。
そして、
前を向く答えは愛そして映画
って、ウディがぎゅっと詰まった作品です。