長いです。書いててつい長くなってしまった・・・

 

 

 中学1年の頃だった。

 ミニコンポ(まだ存在してるのかな?)が欲しかった私は、お小遣いとお年玉を貯めていた。

 何故欲しかったかと言うと実家にはレコードプレイヤー単体とラジカセしかなく、レコードからカセットテープに録音するという事が不可能であり、そのようなのデッキ、つまりステレオというものがなかったのだ。その手のステレオがあれば私はコンポを欲する事はなかったからだ。(レコードプレイヤーが前々時代の物でとても古く、ラジカセにライン接続する事は不可能であった)

 

 私の預金額が60,000円になった頃、友人が新聞折込チラシを持ってきて週末に一緒に同じ物を買わないかと誘ってきた

54,000円だった(当時消費税は存在しなかった)

 

 母にそれを話すと家と懇意にしている電気屋さんに聞けばいい。もっと安くなるかもという話になり、その夜電気屋さんはパンフレットを持ってやってきた。

 電気屋さんの提示した額は友人の折込チラシとほぼ変わらない値段であった。200円程度高かったのが引っかかった。

 

 友人とは約束とまでは言えない約束はしていたものの、電気屋さんもせっかく来てくれた事だし両親の顔もあるのかな?と自分の意思とはあまり関係ない事が頭をよぎり、買う事にした。

 すると母は

 

 

「ほらほら。こっちの方がかっこいいじゃない?」

 

 

 と別のパンフレットを見て私に勧め始めた。

 確かに格好はいいが値段は78,000円であった。予算オーバー18,000円である。(6万円全額出しても。という意味)

 私は母に

 

「60,000円しかないから買えないよ」

 

 と言い、目的のミニコンポを買おうとするも母は

 

「でも、こっちの方が黒くてお兄さんっぽくていいじゃない!」

 

 と返す。確かに母の勧めるコンポには機能も多く音声だけテレビ受信ができ色も黒く格好も良い。

 そして私の欲しいコンポはピンク色っぽいのしか無くショボいのだが仕方がない。予算は60,000円しかない。

 まあ、母の勧めるコンポは高校生が持っているようなもので、中学1年の私には分不相応というものと思った。なので、

 

「いや、だから僕は60,000円しかないんだよ。54,000円でこれ買って、後の6,000円はカセットなりレコードを買おうと思ってるんだ」

 

 と言っても母は「こっちの黒いヤツの方が色々ついててカッコよくて良いじゃない?」と譲らない。

 見ると電気屋さんも自分の売上が上がるんだろうから悪い気はしていないようだった。

 私は考えた。小遣いが3,000円/月。半年以上飲まず食わずで貯金なんて無理。何故ならコンポ買ったら何かしらこのコンポでレコード買ったりとお金を使うからこの高い方のコンポは買えない。

 半年以上ラジオだけ聞いて過ごすのであれば、今まで家にあるラジカセだけで十分であり電気屋さんさよならバイバイ。なのだ。

 

 母はお小遣いを貯金すればいいだのと言ってくるが上記理由を言って無理と表明した。←ここ重要。よく覚えておいてください。

 そして母は、更に「ほら。ほら、ここにこんなの付いててこっちの方がかっこいいじゃない」と譲らない。

 

 

 こんなやり取りを7~8回はした。

 私は何度も「お金が60,000円しか無いから」。小遣い貯金しても半年待てないし。」と母からの「勧誘」を再三幾度も断った。無い袖は振れないのだ。

でも母は頑なに譲らなかった。18,000円くらいすぐよ!とまで言い出す始末。

 

 母はこういった時、こちらの置かれている状況が全く分からないようだった時が過去多々あった。

本来、月3,000円の小遣いでは購入できるのは半年後なのだ。私がコンポを欲しいのは今。私の小遣いが3,000円/月でどのくらいかかるのか?という事を忘れている、解っていないようだった。(なお、後年の大学生の時、父の会社で5000円/日で1日12時間、ひと月丸々バイトした時に後年軽く文句を言ったら、「お前はあの時高校生だった」と言い切られた。私の両親が如何に私を観ていないかの証左であろう。高校生が真冬に丸々ひと月バイト出来るハズないのだ)

 この母(父)への違和感は体験した人でなければ分からないかもしれない。否、ご自身の両親で体験した人もいるかもしれない。

 

 

 しかし・・・当時思ったのは何が「すぐ」なのか?今日、これを買って差額出してあげるから小遣いから毎月母にお金を払いなさいという意味なのか?と思い、且つ

 

(もしかしたら、差額出してくれるのかな?)

 

 と、よからぬ思いもしたのだが・・・・

 

 

 

 と、後年、カウンセラーさんにここまで話をしたとき、

「お母さん、そこまで言うなら買ってくれた(差額を出してくれた)んですよね??」

と言われた。多分誰が聞いてもそう思うと思う。

ここまで読んだ人はどう思っただろうか?私の母はこの後どうしたか・・・あなたの母ならどうしたろうか?

 


 とまあ、話は逸れたが、私はなぜか「母からのセールス」に根負けして、高い方のコンポを買う事にした。

 何かとレコードだのお金を使いたいから、当初の予定通りに54,000円だけ払い、24,000円は後日という事になった。

 

 この時、叔父が遊びに来ていて、「24,000円くらい、夏休みにオジちゃんの店(パチンコ屋の店長だった)で働かせてやるから払えるよ。夏休みに迎えに来るよ」と言ったのも私の背中を押した。

 電気屋さんは中学生のお兄ちゃんだから差額は今度でいいよ。再来月ね。と玄関先言って帰って行った。

 

 

(再来月・・・お金たまるかな?おじさんのところでアルバイトすれば何とか・・・)

 

 

 母は横から散々しつこくあれだけ口を挟んだが差額なんぞ出す気は更々なかったのだ。

 甘かったといえばそれまでだが、もう商談は成立してしまった。中学生とのこういう契約は民法上合法かどうかはわからないが、保護者が半ば追認したようなものである。電気屋さんに過失はあるまい。

 

 

 果たして再来月になった。電気屋さんが家にやってきて(サザエさんの三河屋さんのように、顔を出す人だった)

 「お兄ちゃん、お金出来ましたか?」と言ってくる。

 

あるはずもない。

 

 

 夏休みに叔父は待てど暮らせど迎えに来なかったのだ。

 自ら行こうにも二県を跨いだ場所。交通費で小遣いはすっ飛ぶ。在来線で4~5時間かけて行って夜に繁華街をウロチョロしてたらむしろただの家出少年扱いで補導されかねない。

 それ以前に12歳の中学生(私は早生まれ)をパチンコ屋で雇っていいのか?

 

 電気屋さんが可哀想だった。(いや、でも一連のやり取りを見ていただろう?)

私はその場を何とかごまかし来月に延ばしてもらった。

 12歳にして大人の借金取りからその場をごまかし先延ばしというテクを披露したのだ。

 翌月も催促はあったがその翌月の催促が来た時私は母に泣きついた。泣きたいのは電気屋さんも同じだろう。(いや、しつこいようだが購入時の一連のやりとりを見ていただろう)

 

 

 

 母は

「お金が無いのなら何故買ったのか!」

「何故、小遣いを貯めなかった!」

と私を叱った。

 私は「そりゃ、散々断ってもあんたがアレだけしつこかったからだ!お金が無いから買えないって何度も言っただろ!叔父さんもアルバイトさせてくれるって言ってたし」と言いたかったが我慢した。

 って言うか、月3,000円の小遣いを一切使わず(なお、ノートなどの学用品は小遣いから捻出だった)全額を貯めていたとしても、泣きついている今まさにこの時にどう考えても支払額の満額を貯めている事は不可能だった。←ここ重要。お小遣い貯めればいいと言ったのは誰?

 小学生でも解る掛け算だ。

 

 母は渋々電気屋さんに24,000円を支払った。

 一連の出来事を見ていた兄弟は(特に兄)

「お前はいつもそうやって親に甘えている」「まんまと良いものを手に入れやがった」と揶揄し、この出来事を後年事ある毎に持ち出し私を苛め抜くネタと化したのはこの瞬間だった。

 

 今思い出したが、コンポを買った時、その兄だけは

「お前、ホントに払えるの?」

 と言っていたように思う。

 余談であるが、自分の希望と少しでも値段が違ったらきっぱりと断れるのが兄の長所であり、このステレオコンポは友人が持ってきたチラシよか200円高かったから、兄だったら間違いなく瞬間で断っていただろう。

 私は正直、兄のそういうところがとても羨ましかった。

 兄は、電気屋さんに悪いな。とか親の顔を立てるとかそういった発想が一切ない人なのだ。

 

 

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 この出来事から10年経ったとき、私が働き始めたころ車の無かった私は母に車に乗せてもらい紳士服屋にワイシャツを買いに行く事があった。

 店に着いたのは閉店まであと10分の頃だった。

 店員は店の外にあるワゴンやらを片付け始めていた。

 店員に悪いと思い、また、仕事で使うような毎日着るワイシャツだからそんな立派なものじゃなくていいと、また、母もこんな時間では帰宅してから色々忙しいだろうとの思いから、ササっと5分で3枚ほど選んでレジに行こうとすると、母が

 

「ほらほら。ここにもっといいのあるわよ!」と始まった。

 

 見ると私が選んだシャツの三倍も値が張るワイシャツである。払うのは私であり、仕事で使う物だからそんな高いものは要らないと言った。

 なんせ閉店間際。店員さんにも申し訳がない。高価なスーツを買うなら店員さんも悪くは思うまいが、ワイシャツ3枚である。

 でも母は。

 

「ほらほら。でもでもこっちの方がストライプが入っていて云々・・・」

 

 あの頃まんまである。やはりあの頃のように数度、私が選んだもの母が否定をし別の物を渡しに勧め、私が断り、母が更にしつこく勧めるというシチュエーションの繰り返し。もう閉店まで1分もない。母はそんな事おかまいなしだった。「ほら、ほら。これなんかどう?こっちは?」と次々とワイシャツを選んでゆく・・・

 そのうちコンポ事件の事を思い出した私は

 

 

「俺はもうこれに決めたんだ!!!!!いい加減にしてくれッッ!」

 

 

 と大声で怒鳴った。(多分人生で一番大きい声を出した)

 近くにいた女性店員は唖然として固まっていたが、こうでもしないと収まらないのだ。私は近くに女性定員が居たのは判っていて怒鳴った。

 が、母は負けていなかった。

 

 

 

 

「だから男の子はつまらないっっ!!!!!」

 

 

 

 

 と、更に大声で捨て台詞のように返ってきた。

 この瞬間、私は母が散々子供に女児を熱望していた事を思い出し、ああ、この人は買い物というのは母娘であーでもない、こーでもないと結局何も買わない買物でもやりとりを楽しむ事(ウィンドーショッピング)をしたかったのだろうと、あのコンポの件も、母にとってはただのやりとりを楽しみたい事が主目的だったのだろうと、買う事は主目的ではないのだな。と、分かった瞬間だった。

 

 このコンポ事件を読んで私の認識が甘いだのちゃんと断ればいいという事は簡単ではあるだろうけど、母のこういった買物のやり取りを 楽しむ事に何ら判らずに付き合わされ失敗し、それを兄が事ある毎に私を攻撃をする材料にしてしまい、私が悪者にされ苦しむという構図は、子供時代に本当に生きていて辛かった。

 兄のしつこさは舌を巻く(当時高校1年)。弟も持ち出すが私より二歳下(当時小学校5年)に言うなと言う方が無理がある)

 

 

 親による子供に現実とは違う性を求める無茶な事を心理学などで何というかは知らないが、甚だ迷惑な話であり、加藤諦三先生(日本精神衛生学会顧問)によるとそういった親に育てられた子供は相当メンタルが病むらしく、実際に教え子にいて気の毒だったとの話を読んだことがある。

 

 

 しかし・・・もし私が女だったら、よく話題になる毒母にベタベタされて縛られ続けるメンタルを病む娘になってただろうなと思うのだ。

 

 

母は娘がいたらこういうウキウキルンルンの買い物ができるという幻想を今でも抱いているが、母が可愛がっている姪(私の従妹)は、

 

 

「アタシは買い物は買いたいものをスパッとかって返ってくるタイプだわ。ウダウダと長い買い物は時間がもったいない!」

と言っていた。その母である伯母も同じスパッと買物する人であった・・・

 

 

世の女性が皆母みたいな買物をするとは思えないのだが・・・