たぶん、どの施設にも一人はいるだろう子どもを書いてみたい。
私が出会った時、その子はもう中学生だった。
女の子。
施設に入ったのは、まだ小さい保育園のころだったらしい。
長く務める職員には、まるで自分の子どものようにかわいがられ、声をかけられていた。
ごみ屋敷から救出されたらしい。
両親は離婚し、父親とも母親とも面会交流は続いている。
父の家はまだ良いらしいが、母の家はごみ屋敷になっていると聞いている。
施設の中の、その子の個室も、ごみ屋敷状態だった。
定期的に職員が掃除に入るが、それでもすごいことになる。
小学生の部屋なら毎日掃除に入るが、
中学生になるとプライバシーもあるし、自立の意味でも毎日は入らない。
私も片付けが苦手だけど、レベルがちがった。
まず、最初は職員一人で始める。奥に入れずスペースがないから。
少し奥に入れるようになったら、2人以上でやる。
1人でやると、職員の心が折れるから。
おしゃべりしながらやれば、それも笑いにできる。
制服、下着、靴下、土日の私服、すべてが床に投げられている。
クローゼットの衣装ケースからは、漫画みたいに、ズボンが半分垂れ下がってたり、服がとびでて、中はほぼ空っぽ。
教科書ノート類、漫画や本は、あっちにもこっちにも、床中に散らばっている。
髪の毛、ティッシュ、紙くず、ヘアピン、お菓子の空袋、、、あらゆるゴミも同様に散らばっている。
服はきれいそうなものは畳んでしまって、汚れ物は洗濯機へ。
勉強道具、本、漫画はそれぞれまとめて机の棚へ(机の上も片付けしてスペースを作ってから)。
ごみは捨てる。掃除機をかけて、床を磨く。
一番ひどかったときは、生ごみをため込んでいて、異臭がし、カビが生えていた。
お弁当や、食事で食べられないものを、ティッシュにつつんでこっそり部屋にかくしていた。
部屋から変な匂いがすることは、みんな、他の子どもも含め、気づいていた。
本人は「何もない」と言い張るし、ちょうどコロナの時期で、すぐに中には入れなかった。
掃除ができた日には、部屋はすごい生ごみ臭で、よくこの部屋で生活できたな、よく眠れていたなとびっくりした。
お風呂も大嫌い。一応入るけれど、もし声をかける人がいなかったら毎日は入らないだろう。
濡れた髪をドライヤーで乾かすこともめんどくさい。
洗濯機を回しても、干すのがめんどくさい。
朝から顔を洗うなんてめんどくさいから洗わないで登校する。歯磨きも。
臭くても平気なのか、匂いをそもそも感じていないのかわからない。
気にしていないのか、気になってるけどやらないのかわからない。
とにかく自分を衛生的に保つことが難しい。
できないんだよね、自分では。
教えたって、怒ったって、諭したって、できないものはできないんだ。
能力的なものもあるし、セルフネグレクトもあるかもしれない。
どちらにしても、本人にもどうしようもないんだ。
それに、お母さんの家に帰ったら、それが普通なんだもんね。
その状態に抵抗が生まれないのは、仕方がないと思う。
たぶんだけど、生きる気力が弱かったんだろうな。
もうどうでもいいって、どこかそんな風になっているように感じた。
自分は施設に入ることになって、親が離婚して、親には会えるけれど一緒には住めない。
どれだけ寂しい思いを抱えているんだろう。
とてもおしゃべり上手で社交的だし、言葉も優しいので友達が多かった。
いじめっこの対象にされやすい弱さはあったけれど、弱い子に共感できる優しさがあった。
そしてすごいのは、おしゃれのセンスが抜群で、その子が着ると、洋服がかわいく見えた。
しまむらの服がしまむらに見えなかった。
私はうらやましくて、いつもほめていた。
もしも、その子が幼児で入所したとき、入所じゃなくて、里親の元に行っていたら、どうなっていたんだろうと、ふと考える。
もっと満たされていたんだろうか。
部屋や自分を清潔にすることはできるようになっていたのだろうか。
施設だって毎日衛生的だったし、衛生観念が育つように育てている。
里親さんの愛情のほうが施設より大きかったとして、それはどれほど影響することができるのだろう。
もし愛情の問題ではなかったら・・・。どんなに愛情があっても、能力は能力だったとしたら。
その子はやっぱり里親さんの家でも衛生的にいられないだろう。
そうなったら、里親さんは、18歳まで育てられただろうか。育ててくれただろうか。
途中で里親さんが挫折しなかっただろうか。
想像でしかないけど、施設だからこそ面倒が見られる子だったのかな、なんて考えてしまう。