最近、よく話をする若い女の子がいる。
中東の女の子で、
目鼻立ちはぱっちり、くっきり。
背も高くて、スタイルもいわゆる曲線型
「ボン・キュッ・ボン」。
人目を引く、かなり華やかな女の子である。
しかも環境に恵まれて、若いのにすでに
自国外でいろいろな経験もしている。
未来は明るそうだ。
本人も、それを なんとなく
わかっているように見える。
そして、ものすごく貪欲だ。
私はこの子と話していると、
ときどき 情報商材屋さんと
話しているような気分になる。
気になる男の子がいると、
Instagramを見せてくれる。
「この人、フェラーリに乗ってるの」
その男性からは日本に来る前に
ネックレスをもらったという。
ピンクのハート型のネックレスが
首にかかっていた。
ブランド物にも、ものすごく詳しい。
一緒にイミグレーションに行った時に、
待合室に中国人の家族がいた。
その家族3人が、
靴から服から何から何まで
ブランド物で固めているのを見つけると、
もう大喜びである。
とにかく、そういうものを発見するのが早い。
私にはちょっとダサく見えたけれどな。
そして一生懸命、私にも説明してくれる。
街で走っている高級車も見つけるのが早い。
これはどこのブランド。
この男の人はこんな車に乗っている。
こんなものをプレゼントしてくれた。
私はそれを聞きながら、
10代でこんなことに頭がいっぱいなんて、
スタートが早くて、すごいなと思う。
そして、こんなMaterial Girlは
彼女だけではないらしい。
同じ学校に、
台湾人のお金持ちの 男の子がいたという。
ある日、彼女の同級生の女の子は
間違えて自分の隣りの、
その台湾のRich Boyのロッカーを
開けてしまった。
すると、ロッカーの中に顔を近づけて、
大きく息を吸い込み、
"Smell of rich people"
と言ったのだそうだ。
私はこれを聞いて大笑いした。
お金持ちの匂い。
「それって、どんな匂いなの?」
と聞いてみた。
すると彼女は目を細め、
その匂いを一生懸命説明しようとする。
でも、
ぴったりくる言葉が見つからないらしい。
「うーん……」
と、もぞもぞしている。
その様子が、なんとも可愛かった。
私はまた笑ってしまった。
Material Girlの感覚というのは、
私が思っていたよりずっと
繊細なのかもしれない。
もちろん、
素敵なものを身につけることは楽しい。
自分をちょっと演出するのも、
とても楽しいことだと思う。
私もそう思う。
ただ、
自慢というのは不思議なもの
である。
自分の価値を上げようとして
話しているはずなのに、
「この人は、この程度のものを
価値だと思う人なんだ」
ということまで、相手に伝えてしまう。
そしてときどき、
「それ、言わないほうが
あなたは素敵に見えたのにな」
と思うことがある。
もっとも、
「私はブランド物に惑わされない
高尚な人間だった」、
などという話では全然ない。
私は昔から、どうもこの
「物によって人の価値が上がる」
という感覚が、
よくわからなかったのである。
エルメスのスカーフが不思議だった
大学1年生のとき、高校の同窓会があった。
私は、その同窓会に行って驚いた。
みんな、
エルメスのスカーフをしていたのだ。
本当に、みんな。
私はそれを眺めながら、
「なんでみんな、 首からピロンと
かけているんだろう。」
と、ものすごく不思議に思っていた。
スカーフの使い方を学ぼうと、
テキストのようなものを読んだこともあった。
でも、いまひとつよくわからない。
ちなみに今は、
スカーフは大変に便利なものだと思っている。
首にも、バッグや手首にも使えるし、
上半身にも下半身にも様々な使い方ができる。
だが、その頃の若かった私は、単純に、
「なぜみんなが同じようにピロンと
首から下げているんだろう?」
と不思議だったのである。
私がパリで買ってきたもの
その後、私はCAになった。
当時、クルーの部屋には一人ひとり、
郵便受けのような小さなボックスが
割り当てられていた。
同期の女の子たちは、
どこかへフライトで行くたびに、
その土地のちょっと素敵なもの、
おしゃれなものを買ってきて、
みんなのボックスに入れてくれた。
私もパリに行った。
パリといえば、
私には憧れていたものがあった。
マロニエである。
なぜだったのかは、もう覚えていない。
文学だったのか、歌だったのか。
以前の日本には
「巴里のマロニエ」という言葉が、
詩や文章の中にあちこちに
あったような気がする。
私の中では、いつの間にか、
「パリ=マロニエ」
になっていた。
そしてとうとう、
本物のパリのマロニエを見た。
私は感激した。
そして、道端に落ちていた
マロニエの実を拾った。
それを日本人の12人同期たちへの
お土産にした。
一人に3個ずつくらい紙に包んで、
「パリのマロニエです」
と書いて、
みんなのボックスに入れたのである。
36個、道端でマロニエを拾ったのだ。
今考えると赤面する。
みんなごめんね!
みんなが旅先のおしゃれな小物を
入れてくれている中で、
私からのお土産は、
道端で拾った
正体不明の木の実3個。
相当変わった人だと思われていたに違いない。
「何これ、気持ち悪い」
と思った人もいたかもしれない。
いや絶対きっとそう思っただろう。
でも、当時の私は本気だった。
私にとっては、高価なお土産より
「本物のパリのマロニエ」
のほうが、
ずっと素敵だったのだ。
自分の価値観を押し付けて
恥ずかしすぎる思い出だ。
バッグ一つで、人の評価が変わる
その後、日本の会社に入ってからも
似たような驚きがあった。
女の子たちの噂話を聞いていると、
「○○さん、あのバッグ持ってるんだって」
というような話が出てくる。
そして、たったそれだけのことで、
その人に対する評価が変わったりする。
私は「そんなことで騒いでいるんだ」
と驚いた。 ちなみに、
エルメスなら「すごい」。
シャネルなら「すごい」。
でもMiu Miuだと、デザインがよくても
「それはブランドじゃない」と
当時の会社員女子は言っていた。
あんなに可愛くて素敵なのに。
そんな単純なジャッジ、
逆にセンスないんじゃないかな?
バッグ一つで、
人を見る目ってそんなに変わるんだ。
世の中には、そういう価値観があるのか。
それが私にはかなり新鮮な驚きだった。
「物質的な女の子」って何?
そういえば、もっと昔。
マドンナの「Material Girl」
という曲が流行り、クラスメイトが
英語の先生に聞いたのを覚えている。 
「Material Girlとはどういう意味ですか?」
先生は、
「物質的な女の子」と答えてから
いくつか追加説明をくれたが、
私はますますわからなくなった。
物質的な女の子?
物を求める女の子?
それっていったい、
どういう女の子なんだろう。
当時の私には、
この言葉が本当によく理解できなかった。
それから何十年も経った。
そして今、車やブランド品について
目を輝かせて話す若い女の子を眺めながら、
「ああ。Material Girlとは、
こういうことだったのか」
と、私はようやく実感している。
でも、このMaterial Girlが私は好きだ
面白いことに、私はこの子が嫌いではない。
むしろ、かなり可愛いと思っている。
なぜなら彼女の物欲というか、
上昇志向というか、
とにかくその「欲」が、
あまりにもわかりやすいからだ。
いい生活がしたい。
素敵な人と付き合いたい。
いいものを持ちたい。
ファーストクラスの世界に入りたい。
もっと上に行きたい。
ものすごく貪欲なのである。
ここまでくると、むしろ清々しい。
私は、この貪欲さそのものは
悪くないと思う。
人間を動かす力になるからだ。
ところが、GPAを見て驚いた
ある時、彼女のGPAを見て私は驚いた。
成績が悪い。期末試験はもうすぐだ。
あれだけ「ファーストクラス」の世界に
憧れているのに、これはまずい。
彼女は、お父さんのことを心の底から
「お金持ち」だと思っているように見える。
もちろん実際に恵まれた環境で育っている。
でも私は大人なので、
その環境が最初から
空から降ってきたものではないことも、
想像できる。
お父さんがどれだけ苦労して、
今の場所まで来たのか。
その割には、
娘が思い込んでいる程のお金持ちではなくて、
娘の前で精一杯頑張っているらしいことも。
私はそのすべてを知っているわけではない。
だから、それを彼女に
偉そうに説明するつもりもない。
そして私は、
「勉強したほうが女として幸せになれる」
などとも思っていない。
学歴が高ければ幸せになるとも思わない。
この子のように貪欲な女の子なら、
その貪欲さのまま、
案外うまく世の中を渡っていくのかもしれない。
私はむしろ、そこが面白いと思っている。
背も高い。
華やかで、スタイルもいい。
いい学校に通っている。
若いのにいろいろな経験もしている。
未来も明るそうだ。
本人も自信満々で、
物質世界の自慢と憧れを
楽しそうに話している。
そうしているうちに、
私はちょっと意地悪をしたくなった。
その成績じゃ、ファーストクラスには行けないよ
私は彼女に言った。
「でもね、その成績じゃ、
あなたの行きたい
ファーストクラスの層には行けないよ」
どこかに入り込むことはできるかもしれない。
でも、その世界の人たちから相手にされないよ。
あなたが
本当にそういう世界に行きたいのなら、
自分にもそれなりのものがなければ
駄目なんじゃない?
そんな話をした。
すると、効いた。
ものすごく効いた。
「勉強は大切です」でもない。
「将来のために勉強しなさい」でもない。
「お父さんに感謝しなさい」でもない。
私は彼女の貪欲さを、
そのまま利用してみたのである。
図書館に連れて行ったら、
猛烈に勉強し始めた。
「復習、もう2周し終わった!」
と言う。
「今日は夜7時まで勉強する!」
と言う。
そして本当に、夜まで必死に勉強していた。
面白い。
欲というのは、使いようによっては、
とんでもないエネルギーになるらしい。
翌日、写真が送られてきた
そして期末試験の次の日。
彼女から写真が送られてきた。
グレードは、
「A」。
笑ってしまった。
さらに笑ったのは、そのあとである。
お父さんからも、
同じ写真が送られてきた。
どうやら親子そろって、
相当うれしかったらしい。
フェラーリに乗っているのは、
彼女が気になっている男の子だ。
ネックレスは、人からもらったものだ。
お父さんのお金は、
お父さんが自分で築いたものだ。
ブランド品は、お金を出せば買える。
でも、その日の「A」は、
図書館で黙って勉強して、
彼女が自分で取った。
だからといって、
「これからブランド品より
勉強を好きになれ」
とは私は全然思わない。
次に会ったら、 また
フェラーリの写真を
見せられるかもしれない。
たぶん見せられる。
それでいい。
人間は、きれいな動機だけで
頑張らなくてもいいのだと思う。
上に行きたい。
いい生活がしたい。
素敵な人たちのいる世界に入りたい。
そんな欲だって、
人を動かす立派なエンジンになる。
何十年も前、英語の先生に
「物質的な女の子」 と教えてもらっても、
さっぱり意味がわからなかった
Material Girl。
今になって、少しわかった。
でも、わかってみると、
私が昔想像していたよりずっと面白い。
フェラーリに目を輝かせ、
「お金持ちの匂い」を嗅ぎ分け、
いい階層に行けないと言われれば、
図書館で夜まで勉強して、
翌日Aを取ってくる。
物欲も、見栄も、上昇志向も、
ここまで素直なら、
なかなかのエネルギーになる。
次に会ったら、
きっとまたブランドか、男の子か、
何か「すごいもの」の話を
聞かされるのだろう。
私はたぶん、また笑ってしまう。
※感じ方や言葉の紡ぎ方には、
その人だけの色があります。
本記事の内容を引用・ご紹介いただく際は、
出典として塩見有輝の名前、 あるいは、
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https://jumpinghorse.red/material-girl/

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