都会の街の夜はあんまり好きじゃなかった。空が狭いし、月も小さく見えるし、星なんて何も見えないから。

田舎育ちの私には、夜の静寂と暗闇が当たり前のものだったから、地元にいた時は、夜の散歩は空を見上げるだけで満足だった。冬はオリオン座を指でなぞり、夏はばらまかれたラメみたいにキラキラ輝く星の散らばりをずっと見ていた。天気がいい夜は、本当に小さな小さな星の瞬きも見ることができた。だから、大学一年生の私は都会の夜を好きになれなかった。見上げればそこにあったはずの月は高いビルの合間を探さないと見つけられないし、あんなにたくさん散らばって見えていた星はせいぜい金星くらいしか見えなくなった。でも、二年も暮せば変わるものなのか、私はそんな、空が狭い夜の街が嫌いじゃなくなっていた。都会の街は夜に息を吹き返すってことに気付いたから。昼の街は人で溢れ返っていて、建物は人を収容する物体として働いている。大学は朝から学生や教授を迎え入れ、授業をしているし、ラーメン屋はのれんを出して客を出迎える。こう言うのはなんだか変かもしれないけれど、建物もせっせと働いているように思えた。だからこそ深夜2時の街は昼に呼吸を止めて働いていたビルたちの、呼吸を感じることができる気がする。

「ふうっ、今日も働いた」

と一休みして呼吸を始めるような、ビルとビルが囁き合っているような、そんな気がする。

 

深夜2時、気温はマイナス五度を優にこえ、鼻にツンとくるような寒さの中を出歩く人はほとんどいない。つるつるに凍った雪道をなれた足取りで歩く私は、まるでその街に存在するただ一人の人間であるかのように錯覚し、うっとりとする。実際はちらほらと人もいるのだけれど、そんな最高の夜は私が独り占めしちゃってもいいでしょう。田舎と違って、都会の夜にはがらんとした暗闇はなくて、夜でもちゃんと建物の呼吸音が聞こえてくる。ふっと息をすると白い吐息が夜の街並みに溶けていった。田舎の夜も好きだけど、都会の夜も悪くないかな、そう思えた大学二年生の深夜2時のお話。