②のつづき

 

父が母にあんなに致命的な暴力をふるったのは、後にも先にもあの夜が最後でした。

 

父はお酒も暴力もほとんどふるう人間ではないんですよ。

 

 

僕に体当たりされた父は、おとなしく階下の居間にもどりましたが、それっきりそんな暴力をふるっていないということは、それをやってはいけないことだという自覚があったのでしょう。

 

自覚があるぶん、そんなことをしてしまった自分を責めたかと思うと、胸が痛いです。

 

 

でも、たぶんこの時に母は、自分が殺されそうになるほどのことを言ったりやったりしてしまっていることに気づいたんだと思います。

母が常識だと思っていた「普通」や「父親として」などといった一般化されたような、偏差値50~60くらいの道義は、父には合わないんだと。

 

 

一方、そんなことがあった夫婦の子供(僕)はどうかというと、母が父の侵してはいけない部分に踏み込んでいることになんて、その時はまったく気づかず、敵となった父を排除することをのみ考えていました。

僕が父を殺すことに没頭せずにいられたのは、本と友人のお陰な気がします。

「僕は、大好きだった父を殺すことを考えるような最低な人間で、こんなことを考えるのは最低な父の最低な血が流れているからなんじゃないか」と、自分の存在も嫌になりそうでした。

 

 

でも、ふと読んだとある小説は、家庭不和な環境で育った高校生(役者は嵐のニノ)が、父を完全犯罪で殺そうとするけど、殺せたものの完全犯罪にならず捕まるという内容でした。

この高校生が自分とほとんど同じような境遇で、同じように父を殺すことを考えていることが、自分だけじゃない、血のせいじゃない、と思うきっかけになり、かなり救われた気がします。

 

友人たちも、それぞれの家庭でそれなりに問題を抱えていることを知れたことも、僕の視野が広がるきっかけでした。

 

 

 

さて、あの夜以降、僕は母を殺させないために、両親のケンカの会話に聞き耳をたて、自室じゃなくケンカが繰り広げられている真っただ中で勉強をするという、シュールな二宮金次郎のような生活を送り始めました。笑

こんなんでも一応進学塾のトップクラスにいたので、よく勉強できたなと褒めてやりたい。笑

 

 

でも、もう父が嫌いすぎたので、母には離婚するよう勧めていました。

それでも離婚の選択肢をとらなかった母に、なぜ離婚しないのか聞いてみました。

 

母の答えは

「mycelarたちにはかわいそうな思いをさせているけど、お父さんもかわいそうな人や、今お父さんを見放してしまったら、お父さんはダメになるから

でした。

 

もうね、僕は衝撃で脳みそ震えたんですよ。

いやいや、あなた殺されかけてますやん!

 

と。

ここで僕は、この件に関して母には敵わないと痛感しました。

今となっては、母自身が犯した「父の不可侵領域に踏み込んだ」という罪への償いもあったのかなとは思いますが、僕は「これが母の愛なんだ」と理解しました。

 

これが僕らの家族が離婚しなかった根っこの理由です。

 

 

これによって、僕の理解は変わりました。

母がこれまで父に放ってきた言動は、父が憎いわけでも嫌いなわけでもなく、父に「イキイキと生きてほしいから」という気持ちからなんだと分かりました。

これがわかるまでに、小学5年生から中2くらいまでの4年間かかりました。

 

 

 

母が父に対して何を言っても何をやっても、その下にある「父が心身ともに元気に生きてほしい」と願う気持ちは愛そのものだと思います。

 

その言動を父がどう受け取るかは別の話ですが、その下にある気持ちを知らずに、父が自身の過去と現在の頭だけで曲解してしまうのはあまりにも勿体ないなと、思いました。

 

 

同様に、父も母に対して放ってきた言動は、母が憎いわけでも嫌いなわけでもなく、母に「自分が生きてきた過去は他人からすれば乗り越えるべき過去で、当然のように乗り越えること強要するけど、それは自分にはできないんだ、それを理解してほしい」からで、それを何度も何度も何度も言い続けても理解してもらえないから、やむを得ずとった行動だということがわかってきました。

母は父の言葉を聞いて苛立ち、父を追い詰めました。僕も同様です。

 

この一連の家族不和の構造がわかるまでさらに2年かかりました。

父がぽつりぽつりと自分語りをする中で、ようやく、今まで祖父や祖母からどんな育てられ方をしてきたかが、家族みんなわかるようになってきました。

 

 

父は祖父の経営する会社の跡取りとして、4兄弟の中でも特に厳しく、様々なことを我慢するようにしつけられ、祖父の決めたレールの上を走るよう強要された結果、自分が何者で何をしたら幸せで、誰と何をしたいのかがわからなくなってしまっていました。

いや、何をしたいかを考えようとすると、なぜか恐怖心や「自分にはできない」という気持ちが芽生え、その先を考えられない状態なんだと思います。

 

 

人生の迷子、気持ちの迷子です。

気持ちを押し殺しながら育った結果、生きがいや愛がわからなくなって、だから愛の化身たる子供が好きなだけの父親です。

親だけどヒーローでも完全じゃない、まだまだ未完な1人の男だったわけです。

 

つづく