これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し

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15

食堂の隅でクマオ君を待つ相葉の耳に、ギシギシと空調ダクトが軋む音が聞こえて来る。怖くないと言ったら嘘になるが、それよりも遺伝子融合でこの世に産み出された、人に近い獣と会って話をすると言う初体験の方が興味深く、相葉は自ら進んでクマオ君とのコンタクトを取る役割を申し出たのだった。

やがて天井にある空調ダクトへの通気口が開き、そこから黒く大きな影が思いの外身軽にストンと床に飛び下りる。「は、初めまして」少し緊張しながら笑顔を向ける相葉に、黒い影はゆっくりと近づいて来てニッと微笑った。

「あんたがあの手紙の主が?想像していたよりずっと若いな」『FIVE STORM』のメンバー内でも1番背の高い相葉が見上げる程の大きなバイオアバターである。身長は2m近くあるだろうか、それでも他のベアーマンに比べるとかなり小柄だろうと思われた。

髪の毛と揉み上げと髭が全部繋がっているみたいな毛だらけの顔はかなり精悍な雰囲気で、太い眉毛と黒目がちの大きな双眸には、何とも言えない愛嬌があった。だが、顔立ち自体は特に動物的な要素はあまり感じられず、外国の映画にでも登場する様な、毛深くてワイルドな山男と言った様子である。

相葉を驚かさない配慮なのだろう。上半身には研究所の何処からか調達したらしいボーダー柄のポロシャツを着ていたが、肩も胸周りも、はち切れそうな程にパツパツで、丸太の様な腕や、大きく張り出した大胸筋にもフサフサした茶色の体毛がビッシリと生えていた。

腰は良く締まり、絵に描いた様な逆三角形の体格は、カーゴパンツに覆われた下半身にもしっかりとした筋肉が備わっている事が良く分かる。相葉に笑顔を向ける口元から見える歯は真っ白で、両端には鋭い犬歯が覗いていた。

相葉は一瞬唖然としたが、直ぐに興奮して瞳を輝かせると、満面の笑みを浮かべてクマオ君に近づいて行く。「うわぁ〜♪カッコいいねぇ〜クマオ君♪クマオ君って呼んでもいい?♪俺会いたかったよ〜♪」相葉は両手でクマオ君の右手を取ると、ギュッと握ってから「おっきな手だねぇ〜♪すごい爪だ♪俺なんかきっと1発でふっ飛ばされちゃうね♪」と嬉しそうに眺め回した。

「お前、オレを見ても全然ビビらねぇんだな?魂串だって餌を配りに来る時は滅茶苦茶ビビってんのによ」「クマオ君に会う前は俺なりにビビってたけどさ、でも君を一目見た途端、危険は無いって直ぐに分かったよっ♪君の目に敵意は全く感じなかったからさ♪」

相葉は改めて自己紹介すると、JMIと言う秘密機関について丁寧に説明した。クマオ君は頷きながらたまに「へぇー」とか「ほぉー」とか相槌を打ち、すっかり理解した様子である。「それじゃあ今もこの研究所のセキュリティーシステムはお前の仲間がハッキングしてるって訳か?この研究所のシステムを乗っ取れるなんざハンパねぇな♪」

クマオ君は相葉の腰にぶら下がるオートマチックに視線を落とし、「それでいいぜアイバ。どうやらあんたらは信用出来そうだ」と満足気に目を細めた。

「オレを含め、バイオアバター達は本来生物兵器として魂串に仕立て上げられた害獣よ。どう言う訳だかオレだけは他の連中よりもちょっとばかし頭の出来が良かったみてぇだが、オレ自身このままずっとマトモでいられるかどうかは分からねぇ。

今ん所血の匂いは嫌いだし、生肉も美味いたぁ思わねぇが、だからって今後凶暴にならないかどうかなんざ保証出来ゃしねぇし、何かやらかしちまってからじゃ遅ぇからな、あんたがそうやって銃を携帯してくれてりゃオレも安心だぜ」

まるで死ぬ覚悟はいつでも出来ているとでも言いた気なクマオ君の言葉に、相葉は少し切なくなった。人の身勝手な欲望で意図せずこの世に産み出され、脳の萎縮した獣そのものの仲間と共に檻に入れられて、家畜の如く飼育される理不尽をクマオ君はどう感じていたのだろう。

獣である事に何の疑いもなく、唯唯諾々と獣たる姿で生かされている他の連中と比べると、下手に知能が高いだけにクマオ君の苦悩や葛藤は計り知れない物がある。だが、そんな理不尽な扱いに対しても決して荒ぶらず、知識を増やして至極冷静に自分や周囲を客観視してマトモであろうとしていたこの人間らしいバイオアバターを、相葉はどうにか生かせる方法はないものかと考えていた。

「…きっと人知れぬ苦労があったんだねぇ…」「まあ、魂串の前でケモノっぽく振る舞うのは面倒だったけどな。朝と夜には飯も出るし、魂串が寝静まってからは割と自由に歩き回っていたからそれなりに楽しくやっていたぜ。

貰った肉を料理して食ったり、研究所のシャワー室を勝手に使ってシャワーを浴びたりな。肉ばっか食ってると体が臭くなっちまうから2日に1度はこっそりシャワー室に行ってたよ。シャワー室には予備の歯ブラシとかきっちり揃ってたしな、なるだけ身綺麗にする様にはしていたぜ。

他の連中が臭ぇのが玉に瑕だが、檻自体は結構広いし、犯罪者がすし詰めになってる悪条件のムショなんかよりゃずっと快適に過ごせてたんじゃねぇか?どっちにしろこの見てくれじゃあな、外を出歩く様な真似は出来ゃしねぇだろ?」

そうだろうか?相葉はあらゆる角度からクマオ君に視線を巡らせ、「ねぇクマオ君。その髭と体毛をもうちょっと何とかしたらふつーに人間に見えるんじゃない?今度の一件が片付いたら俺クマオ君をもっと人間らしい外見にトリミングしてあげるよ。

君の身の振り方については色々考えなきゃいけないかもだけど、出来れば君を普通の人間として生かせる方法を検討したいと思ってる。もしかしたら加倉井博士がバイオアバターについてより人間らしくなれるアイデアを何か知っているかも知れないし、未だ凶暴にもなっていない内から死ぬ事ばっか考えなくてもいいんじゃない?」

相葉の言葉にクマオ君は感慨深そうに頷き、僅かに瞳を潤ませた。感動しているのだ。「人間らしい生き方か…。本当にそんな事が実現すんなら夢みてぇだけどな…。だけどよアイバ、トリミングっつーのは犬猫に使う言葉なんじゃねぇのか?」「アヒャアヒャヒャ♪ホントだ間違えた♪クマオ君の場合は脱毛&ヘアカットだねっ♪」

明るく微笑う相葉に、クマオ君は「とぼけた野郎だぜ♪」とニンマリすると、力強い声音で聞いた。「それで?オレは何をすればいい?」

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その頃、潤と智はYOKO-Bay Cityの某霊園に訪れていた。ここはJMIの活動の中で命を落とした、人知れぬ英雄達が眠っている霊園である。JMIが警視庁の特命機関として設立されてから10年。

潤や智ら『FIVE STORM』が今の本部で活動する以前にも何人もの秘密捜査官が任期満了を終え、退職したり、警視庁に戻ったりしているが、中には殉職した捜査官も少なくない。

それこそ智の父親である現警視総監の芹沢も、櫻井の父の元警視総監が班長を務めるJMIチームの捜査官だったが、芹沢の様に民間から選別された捜査官が、後に警視庁に籍を置く立場になれるのはほんのひと握りで、その殆どが任期を終えると、退職金を貰って民間の生活に戻っていく。

元々公にされていない都市伝説の様な捜査官達だから、その正体は最後まで誰にも明かされる事がなく、当然捜査中に命を落とす様な事になろうとも、正規の警察職員の様に階級が上がったり、英雄として警視庁の石碑に名前が刻まれたりする事も無い。

だから殉職した秘密捜査官の遺族達は自分の家族が警視庁の秘密機関で極秘に働いていた事を亡くなってから聞かされる事になる。勿論、遺族には本来その捜査官が受け取る筈であった退職金が支払われる決まりになっているが、それはある意味遺族に対する口止め料と同じで、JMIの存在を口外する事は決して許されないのだ。

そんな秘密捜査官達の扱いを不遇に感じたのが、櫻井の父櫻井睦郎と、智の父芹沢だった。そこで櫻井は自身の任期を終えた後、芹沢を警視庁に入れて、ゆくゆくは警視総監に推しあげるべく指導する傍ら、せめて殉職した秘密捜査官達を懇ろに弔える場所をと、この霊園を設立した。

現在この霊園には11人の秘密捜査官達の魂が眠っている。彼らそれぞれの命日には現役のJMI捜査官が必ず訪れ鎮魂の祈りを捧げる。それが亡くなった英雄達への礼節だと、いつの間にか捜査官達の間に浸透している決め事の様になっていた。

季節の草花が咲く外人墓地の様な場所である。潤と智は白い薔薇を一輪づつ捜査官達の墓に置き、それぞれの墓石に刻まれた彼らの名前と追悼の言葉を読んで静かに手を合わせた。

今日は『FIVE STORM』のメンバー達の前にYOKO-Bay City本部の捜査官として働いていた、とある捜査官の命日である。潜入捜査の途中で敵に身分がバレて殺害された男だった。彼は潤の友人で、潤がJMIの捜査官になったきっかけの人物である。先に遺族が訪れたのか、墓石には未だ真新しい花束が手向けられていた。

彼の命日にこうして2人でこの霊園に訪れる度、潤と智はまた新たな気持ちで正義を全うし、少しでも平和な世になるようにと祈るのだ。1人でも多くの人が笑顔で過ごせる世の中になる様に…。

「さぁ、行くぜ智…。あいつもきっと天国で見守ってる。俺達が下手な仕事をしねぇ様にな…」「うん、そうだね潤…」寄り添い合って霊園を去る、潤と智の背中を夕陽の光が茜色に照らしていた。

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クマオ君が心強い仲間になってくれましたニコニコ本当は『サイバードーム』に突撃する所まで書きたかったのですが、今日が東日本大震災から10年と言う事で、震災で命を落とした人々への追悼、そして被災者の皆様への祈りも込めて、急遽最後の潤智場面を導入させて頂きました。

平和への祈り、1人でも多くの人が笑顔で過ごせる世の中への願い、そんな諸々の想いを込めてこの3.11、10年目の日に私も被災地へと思いを馳せ「負けるな〜!筋肉」と、心からエールを送りたいと思っております。