これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し

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其の九

櫻井からの申し出を受けた南町奉行、芹沢浩之守はその日の内に本丸(江戸城)におわす元締めから、紺のふくさにくるまれた金子(きんす)を預かって来た。ふくさに染められた白抜きの七曜(しちよう)の家紋に、櫻井が思わず絶句する。

芹沢は「他言無用」と人差し指を唇に当て、「今回の始末料だ櫻井。無事完了した暁には綺麗に後片付けを済ませてやる故思う存分働くがよい。本丸の御前もお喜びになられるであろう」と言ってふくさを開き、中にある一塊二十五両の切り餅を二つ差し出した。

切り餅にはここにも紙の帯に七曜の紋が描かれており、この金子が元締めの私用金である事を物語っていた。始末料に一人十両とはいかにも高額であるが、元締めがもし櫻井の考えた通りの人物であるなら、五十両程度の金子はいかようにも用意出来るであろう。

「芹沢様、この紙帯はどうすれば宜しいのでしょうか?ごろうじ…いえ、御前様の御紋が描かれております故、私の様な若輩者が勝手に切ってしまっては…」「だが、切らねば分配出来ぬではないか。田沼様はその様な些細な事に拘る様な器の小さいお人では…おっとしまった♭」

うっかり元締めの名前を言ってしまい、芹沢が慌てて口をつぐむ。櫻井は少し微笑って「もう遅ぅごさいますよ」と俯いた。「言うなよ櫻井♭」芹沢は二、三度咳払いをして誤魔化すと、その場で紙帯を切り、火鉢の中にくべた。

田沼家の紋である七曜の紙帯があっという間に燃え上がる。老中の家紋をあっさりと灰にしてしまった芹沢の豪胆さにも驚くが、始末屋を仕切る元締めが現在江戸の政(まつりごと)の殆どを司る老中、田沼意次であったとは流石に意表を突かれる思いの櫻井だった。

だが、元締めが御老中ならこれ程頼もしい事はない。ばらばらになった五十枚の小判を、丁寧に自分のふくさに包み直した櫻井は、「ではお奉行様。行って参ります」と、芹沢に向かって深々と頭を下げた。

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そして夕暮れ。魔物が行き交い始めると言われる逢魔が刻(おうまがとき)の浄泉寺には櫻井の呼び掛けに始末屋達が顔を揃えていた。「今回の始末料は五十両だ。この顔合わせでは始めての裏仕事になるが、必ず今夜の内に終わらせてくれ」

櫻井はそう前置いてご本尊の台の上に、十両づつの山を五つ作って並べた。「始末を始めるぞ」一つ目の山を取ったのは和である。「十両が始末料たぁ悪くねぇな。俺は同心の菅井善次郎を殺るぜ」和は十両を袂に仕舞うと薄闇の中に消えて行き、続けて雅が十両の山を取った。

「俺は大和屋利兵衛を殺る。あいつの住まう奥座敷の位置は確認済みだからな」雅は小判の束をしっかりと握り締め、素早く外に駆け出して行った。次に十両の山を取ったのは潤紫郎だ。

潤紫郎は二つの山を取り、一つを智蒼に手渡すと、「さとと俺は黒帯組だ。『清流亭』で俺が邪魔をしてから奴ら四人で行動するようになったみたいだしな。俺達で手分けして始末する」そう言って傍らの智蒼を抱き寄せると、智蒼は熱っぽく潤紫郎を見上げてから、何処かしら心配気な様子の櫻井に視線を移した。

「翔さん、そんな顔しなくても大丈夫さ。でも、おいらちょっと荒っぽいから綺麗には殺れないかも知れないよ」「そう言や和と雅のを横取りしたさとの裏仕事は、野犬に襲われたって片付けられてたよな。あん時の月番は北町だったか?南町じゃそんな噂聞いてねぇか?」

潤紫郎の言葉に櫻井は「ああ、あの辻斬りやらかした刀剣収集家の商人か♭研ぎに出す途中の山中で野犬に襲われたとか言う…♭あれはさとの仕事だったのか♭」と、苦笑いを浮かべた。

「なら派手にやってくれ。黒帯組の連中が無慈悲に斬った無辜(むこ)の人達の無念が晴れる位にな。後の塵掃除(ごみそうじ)はお上がやってくれる」櫻井は強く頷くと智蒼の背中をポンと叩き、残っている十両の山を袂に仕舞った。「大目付の村垣主膳は任せろ。潤紫郎、さとを頼んだぞ」

そう言い残して本堂から出て行った櫻井を見送り、潤紫郎は智蒼の頬を手の平で優しく包んで「さぁ、行こうかさと…」と目を細めた。「うん…」小さく返した智蒼が唇を尖らせて蝋燭の火をフッと吹き消した。

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その夜。市ヶ谷牛込長兵衛長屋の『雅緑屋』ではいつもより遅くまで灯りが灯されていた。象牙の軸に昇龍の彫刻が施された鑿(のみ)は刃の部分が細く長く研がれており、大層良く手入れされていたが、明らかに指物仕事で使用する道具とは意匠が異なっている。

指先で掬った水を砥石に掛けながら、その鑿の刃先を更に丹念に研ぎ、やがて薄く鋭く尖ったのを確認した雅は、畳に転がる木片を上に放り投げ、落ちて来る絶妙な間を見計らって、握った鑿を素早く水平に払った。カツーン!甲高い音が響き、鑿の刃先が木片の中央に深々と突き刺さる。

黒の肌着に短袖の黒い着物。黒いたっつき袴は膝の下まで深灰色の脚絆を巻いて、着物の左胸と袴の右腿辺りには深緑色で昇龍の刺繍が縫い付けられていた。その額と両手首には武器から防御する為か、薄い鉄板を巻き込んだ深緑色の鉢巻と腕巻きを装着しており、鉢巻の中央には陰陽の印が染められている。

「良し…」低く呟いた雅は、立ち上がり様に行灯の火を吹き消すと、まるでつむじ風の様な早さで夜の闇に紛れて行った。

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そしてここは『雅緑屋』の隣町。市ヶ谷磯川牛込の小石川である。享保の時代、将軍徳川吉宗が貧しい人々を救済する為に設立したとされる無料の医療施設、小石川養生所。この有名な養生所の二軒隣に『長寿堂』なる薬師問屋があった。

この薬師問屋の主(あるじ)伝兵衛は以前、たちの悪いヤクザ者に無理やりイカサマ賭博に巻き込まれ、危うく御棚を奪われそうになったのを和が助けた事がある。それを大層恩義に感じた伝兵衛は、何も詮索せずに殆ど只みたいな賃料で、離れの空き部屋を和の住まいとして貸してくれているのだ。

薬師問屋は朝が早い。なので和が夜間に活動する刻限には家人はすっかり寝付いてしまっているから和は離れの裏木戸から自由に行き来が出来るのである。夜も更け、周囲が眠りの沈黙に包まれた時、離れの和は雅同様に砥石を取り出し、小さな鉄板の側面を刃物の如く研いでいた。

切れ味が良くなる様になるだけ薄く、鉄板の一辺を剃刀の様に均一に研いだ和は、その鉄板を二枚に割いた一枚の花札の中に忍ばせて、内側を糊でぴったりと貼り付けた。猪鹿蝶(いのしかちょう)花札の勝ち札であるこの三つの札から和が今宵選んだのは猪の札だ。

金の匂いを嗅ぎ付け、欲にまみれた菅井善次郎を、地中を掘って食べ物を漁る貪欲な猪になぞらえた和なりの皮肉だった。和特製の猪札は他の札と比べると一回り程大きく作られており、片側から薄く研がれた刃先が覗いている至極物騒な代物である。

菅井善次郎の行動範囲は既に把握済みだ。今夜は『季の屋』で一杯引っかけ、馴染みの女の所へとほろ酔い気分で通っている事だろう。和は猫の様な忍び足で裏木戸をくぐり、塀からはみ出している椿の小枝に向かって左手を一閃した。

鋭利な切り口を見せてパサリと落ちてきた椿の一枝を指先で弄びつつ、和は軽快な足取りで宵闇の道を歩いて行く。鬱金色の中着と鼻緒以外は全て闇に溶け込む様な漆黒の着流しと羽織。唯一羽織の背中に染められた黄金色の曼陀羅だけが、まるで涅槃へと導く様に月明かりに浮かんでいた。

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いやはや、必殺好きの性(さが)とでも申しましょうか、描写が細かくてホンに申し訳ありませぬ~(´▽`;)ゞ裏仕事の場面に関しては始末屋さん達一人一人をカッコ良く表現したいので、服装とか、雰囲気とか、どうしても細かく書いてしまいますてへぺろ

先ずは雅さん和さん💚💛次は潤智&翔君💜💙❤️と言う感じで描いてから、ラストの見せ場でもある必殺シーンに移りたいと思っておりますので、もう暫くのお付き合いをどうぞ宜しくお願い致しますお願いアセアセ