【あらすじ】(以下12巻まで、館内のチラシに基づいています。状況によっては書きなおす可能性があります)

源氏の御曹司(おんぞうし)牛若丸は十五歳の春、ひそかに鞍馬寺を出て、奥州の藤原秀衡を頼み、東国へ下るが、源氏の再興を願う身は、人目をはばかり、金売吉次(かねうりきちじ)兄弟の供人に姿を変えての旅である。吉次の刀持ちをしたり、馬追い冠者(かじゃ)と呼ばれたり、牛若丸はきびしい旅を続ける。吉次一行が三河国矢矧宿(みかわのくにやはぎのしゅく)に泊った夜、宿をでた牛若丸は宿場で名高い長者の唐御所からもれる管弦にひかれて、門前でしばし耳をかたむける。管弦に笛がないので、牛若丸は肌身放さぬ「せみおれ」と名付ける名笛を出して唐御所の管弦に合す。


【驚きと感動】
牛若丸が、長者の唐御所からもれる管弦にひかれて、管弦に合わせて笛を吹きだす場面。

牛若丸が唐御所の門前で管弦に耳を傾ける部分と、笛を吹きだす部分、それぞれについて絵が描かれている。

こんなほんのよく似た場面に二つも絵を費やすまでに、又兵衛の絵巻は絵の連続なのである。

耳を傾ける部分では、門前に鶴が何羽も飛び交う。これは牛若丸の管弦への憧れの気持ちを表しているのではないだろうか?

耳を傾ける部分では長者の娘である浄瑠璃姫の顔が鮮明に描かれている。ところが、笛を吹きだす部分では、浄瑠璃姫の顔が御簾に隠れる。浄瑠璃姫は、牛若丸の笛の音を聴いて、心が動いたはずだ。その表情を敢えて隠すところに、姫の心の動きに妖しいリズムが生まれている。


この二つの部分では、女房たちの並び方も微妙に異なっている。僕は、すばらしい音楽とは、伴奏部のやり方が一辺倒ではなく、いかに微妙な変化をつけることができるかにかかっていると思っている。又兵衛の絵巻では、女房の動きや、屋敷の周囲の装飾、動物たちが、音楽でいう伴奏部の動きに相当している。このバラエティに富む伴奏が、又兵衛の絵巻では一貫して表れている。だからこそ、僕は、又兵衛を驚くべき天才絵師だと感ずるのである。