十四段目 《失望と希望》 | 《階段の途中》 マジすか小説&AKB小説

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マジすか学園の小説です。
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一つの戦いが終わりを迎え、新たな戦いが始まったマジ女のグラウンド。
篠田は自分に向かって駆けてくる板野を見て拳を握った。拳を構え、呟く。
「遅い・・・」
――蹴り抜ける。
篠田はそう判断すると、体重を左足に乗せ、右足を僅かに浮かせた。
――後一歩。
蹴りが届く距離。その領域に、板野が踏み込んだ。
大鎌の如き右足が、唸りをあげて板野を狙う。
瞬間、板野が屈んだ。
蹴りが空を切る。
「――ッ!!」
空中の右足。体重を支える左足。
両足の自由を失い、篠田に大きな隙が生まれた。
板野はその隙を逃さない。屈み込んだ姿勢から伸び上る反動を利用し、アッパー気味の拳を放つ。篠田の頬を捉えた感覚が拳を伝う。
「・・・で、終わりか?」
篠田の白けた声。
刹那――腹部を貫く衝撃に板野が吹き飛んだ。地面に倒れた板野は、驚きと痛みに顔を歪めながら篠田を見る。
完璧なカウンターだったはず。
アイツは防御すら出来ていなかった。
なのに――
なのに何故、アイツは平気な顔して立っていやがる。
隙を突いたはずの板野が地面に伏せ、隙を突かれたはずの篠田が板野を見下ろす。
「悪いなシブヤ。少しお前を舐めてた。ほら、立てよ。まさか私を一発殴れたから終わり、なんて言わねぇよな?」
篠田の言葉に、板野は立ち上がって答える。
「言うわけねぇだろ。てめぇが泣いて謝るまで百発でも殴り続けてやるよ」
板野が駆けた。さっきよりも強く地面を蹴り、最短距離で間合いを詰める。
しかし、それよりも早く篠田の左足が動いた。
――右だ。
板野は右側に腕を構えて、篠田の蹴りに備える。
「逆だ」
その言葉の意味を板野が理解するより先に、左側の肋を衝撃が貫いた。再び吹き飛び、地面に倒れる板野。
頬に触れる砂の感覚も、今の板野には感じられなかった。
呼吸をすることさえ辛かった。不安定な姿勢からの先程の蹴りとは比べ物にならない威力。
格が違った。
リーチ。技術。経験。
板野に、篠田に勝るものは何も無かった。
だが、それでも何かが決定的に違う。
何かが違う。
私と篠田は、何かが大きく違う。
体力でも、技術でもない。
――精神。
板野が導き出した答えは、平嶋に教えられた強くなる為の方法。
弱さを、仲間を捨てる。
篠田はそれが出来てる・・・
それだけじゃない。
柏木は持っている弱さの数が少なかった。
でも、篠田は弱さが少ないだけじゃない。弱さを支配している。
アイツにとって、アイツの後ろにいるのは仲間じゃない。
戦いに勝つ為だけの駒。
マジで――
「クソ野郎だな」
「は?何か言ったか?」
板野が立ち上がる。柏木と戦った時と同様に、何故か痛みは感じない。
「やめた。そんなクソみたいな強さ、私はいらねぇ」
「強さはいらない?」
篠田は笑う。
「それは弱いやつの言い訳だ。強さを得られない負け犬の、惨めな遠吠えだ」
「知るかッ」
板野が駆ける。次の攻防、板野には結果は見えていた。強さを持つ篠田と、強さを諦めた自分。走りながら、握り締めた拳を篠田に向かって精一杯伸ばす。
しかしその拳が篠田を捉える前に板野の瞳から輝きが消えた。地面にうつ伏せに崩れる板野の体。
篠田は、板野の腹部にめり込んだ脚をゆっくりと地面に下ろした。
「終わりだ。行くぞ」
今日、グラウンドで繰り広げられた二つの戦い。
その二つの戦いの中心にいた篠田は、一歩も動くことは無かった。
全ての戦いを終えた篠田は、反逆同盟の兵隊を連れ、何も言わずにグラウンドを出た。
残されたのは、地面に伏せるギャルサーと板野だけ。
春にしては冷たい風がグラウンドを吹き抜けた。

板野と篠田の戦いを少し離れたベンチに寝転がって見ていた麻衣は、寒さに肩を震わせて立ち上がった。
「負けちゃったか」
言いながら麻衣が倒れている板野に歩み寄る。
「保健室に運んでやるか。ん、でも保健室は可哀想かな」
キケンの気味悪い笑顔を思い出して麻衣が顔をしかめていると、麻衣より先に板野を優しく担ぐ生徒逹がいた。それらの生徒逹は皆、体中に青あざや擦り傷を作っている。
その様子を呆気にとられて見ていた麻衣だが、何かに気付くと笑顔を浮かべて踵を返した。板野逹に背を向けて歩きながら携帯を取り出す。
「駒谷仁美、駒谷仁美っと・・・。あ、あった」
目的の人物を電話帳の中から見つけ、電話を掛ける。
「あ、私、私」
『あ!部長だ』
「元気にしてるか?たまには部室に来いよ」
『え~、その話?やだよ~、面倒だもん』
「ダメ。駒谷は自分の立場を考えろよ。他の生徒に示しがつかないだろ」
『まぁ、気が向いたら行くよ。話はそれだけ?なら切るよ』
「ちょっと待て。今回はお前に頼みがあるんだ」
『頼み?面倒なのはやだよ』
不意に麻衣が立ち止まった。赤、翠、そして桜色に彩られた黒髪が揺れる。
「面倒見てもらいたい生徒がいるんだよ」
『やだ。じゃあね』
「そっか、残念だ。せっかくお礼に可愛いストラップをあげようと思ったのに――」
『やります!やらせていただきます!』
先程までの間延びした声からは想像出来ない大きな声に、麻衣は思わず携帯を耳から離した。
「・・・まぁ、詳しい事は明日部室で話すから」
『で、どんな子なの?その面倒見て欲しいって子は』
「面白いやつだよ。部員候補だ」
『ふーん。なるほどね。わかった、明日は部室に行くよ』
通話を終え、携帯をポケットにしまう麻衣。部室に向かって歩き出した。
「またいつか、駒谷も中西もみんなで集まりたいな」
冷たい風で冷えてしまった手を暖めようと、両手をポケットに突っ込む。
「あ~、寒い!」