パソコンのキーを叩いていると携帯電話が鳴った。
“ジャイアンのテーマ”
子父からの電話を知らせる着信音だ。
久しぶりに聞いた着信音に、少しの間、反応することができなかった。
--何だっけ…これ…。
--あっ、子父からだ…。
子父からの電話だと気付いた瞬間、胸がドキドキした。
それは喜びからではなく、不安によるドキドキだ。
この期に及んで優しい言葉を掛けてくるような子父じゃない。
恐る恐る携帯を手に取り、電話に出る。
不安な様子を悟られないように、元気な声で、
「もしもし! 久しぶり~! どうしたの?」
「親父に会って欲しいんだ」
「はっ?」
「黙っていられる問題じゃないと思って、おかんに話したら、親父にも伝わったらしくて、心配だから東京に出てくるって言い出して…。話しをしているうちにお前に会いたいと言い出して…。会ってくれないか?」
子父の両親は、子父が5~6歳頃に離婚していて、それぞれ違う土地に離れて暮らしてはいたが、交流はあり、息子のことを話し合うこともあると聞いていた。
離婚の原因は、父親の事業の失敗、酒癖の悪さ、浮気、暴力だったそう。
そんな父親も年を取り、子供と離れて暮らす寂しさから、いつも息子のために何かしてやりたいと考えているようだった。
そんな父親が私に会いたいと言い出すとは?
「会ってどうするの? 何の意味があるの?」
「分からない…ただ、お前に会いたいと言ってるんだ。会ってくれ」
「私に会うために東京まで出てくるの?」
「そうだ」
「そんなの電話でいいじゃない」
「直接会いたいらしいんだ」
私に会いたい…その真意は?
子父の父親は、若い頃から散々女遊びをしていたようで、最近も貯めたお金を女に使い果たしたようだという話しも聞いていた。
そんな人が何のために?
「いやよ。会いたくないわ」
「頼む! そんなこと言わないでくれ」
拒否しているとはいえ、いつも子父から聞かされていた子父の父。
私の好奇心の虫は騒いでいた。
--どんな人かしら?
一度会ってみたい…ずっとそう思っていたが、まさかこのような機会にそんなチャンスが巡ってくるとは…素直に会いたいとも言えない状況だ。
「しばらく考えさせて…」
「すぐに答えが欲しい。親父はすぐにでも新幹線に乗るつもりでいるんだ」
「そんな勝手なことを言わないで。あなたたちの都合で私を振り回さないでよ」
「今日は金曜日よ。週末はゆっくりさせて。バタバタしても身体にも悪いし。月曜には返事をするから。都合のいい時に連絡して」
「分かった」
そういって電話を切った。
素直に会うのは、子父の言いなりのようで気分が悪い。
断れば、子父の父に会う機会は永遠にないだろう。
何とか、私のメンツを保ちながら子父の父に会う口実はないものか考えた。
どう考えても、ここで子父の父に素直に会えば、私はプライドを保てなくなる。
やっぱり断ろう…でも、せっかくだからじらして、じらして、子父の顔をつぶした方が効果的だろう。
電話を切って、結論を出すまでに10分と掛からなかった。
