NHKの向かい側にある
ライブハウス渋谷GUILTY。
ここで行われたアコースティックライブイベント。
『Present「詩のチカラ」~Winter 1 week Series 2010~』


第二夜にあたるこの日。
この日、誕生日を迎えた
あるアーティストの歌を
聞くためにやってきた。


藤重政孝。


森翼、タニザワトモフミ、
ケイタクと、楽しいライブが
続いた後。
4組目、最後となる出番。



着席スタイルでのライブ
とはいえ、
それまでの出演者による
見事な演奏、話術により、すっかり場はあったまっていた。


この流れをどう、持ってくんだろう。
そんな思いを抱きつつ、
セッティング風景を眺める。


器材を抱えたスタッフが
忙しく行き交うステージ。
中央には椅子が二つ用意され、
藤重は愛用のギターを手に現れた。


刺繍入りの白いシャツに、ブルージーンズと、
ショートブーツ。

そして帽子に、
彼自身のブログでも登場していた、
巨大なサングラスという出で立ち。
(途中、ライトに
反射していたから、
片耳にピアスもしていたように思う)
すぐにサングラスははずされて
観客に渡された。


この日の雰囲気は、
いつもとはまた違う、
小物にも力を入れた
粋なスタイルだった。


姿を見て、客席から声が上がる。


その後から、最近のライブでは
おなじみになりつつある、よき相方、ギタリスト梶氏も
続いて登場。
申し合わせたかのような、帽子スタイルだ。


和やかな雰囲気の中、
ギターを抱えたまま、
今日が誕生日と
藤重本人が告げる。

お祝いの言葉が次々と
上がる中、
暗い話題でゴメンね、と
謝りながらも
長年飼っていた愛犬が死んだとのMCになる。


10年以上の付き合いは、
肉親に近いかもしれない。
飼い犬との別れも辛いだろうが、
生と死が常に近くにあることを、
ふと改めて感じた。



そんな別れと出会いを
意識したのかどうかは
わからないが、
一曲目は<東京>からスタート。
ツインギター、梶氏との
サビのハモりで、
さらに音にも深みが増す。
非常に相性がいい。


真っ暗な中、
ピンスポットに照らされる。
星が一つひとつ
瞬いているかのような、
イントロ。
息を潜めて眺めるほどの
夜空を思わせる始まりの
<郷愁>。

最後、歌詞を間をあけて、
紡いだ言葉のひとつに
強く想いをこめるように、
ささやく。


それは故郷か、
大切な人なのか。


今回は、曲が終わるごとにMCを挟む。
会場とのやり取りを楽しむ姿も印象的だった。



ピーンと、
和やかなMCの雰囲気を
切り替えるかのようなギターの
一音が響く。
次第に輪が広がるように
辺りを包み、
走りだすようにテンポアップへ。

ギターを掻き鳴らすように
始まったのは<SET ME FREE>
会場の温度が高いのか、
この頃には、藤重は
滴り落ちるほどの汗をかいていた。
歌の激しさに比例するかのように。

愛した女に裏切られても、心のどこかで信じたい、という男の切ない想いが歌われている、気持ちの高ぶりを表すような激しいナンバー。
少しずつ高揚する歌声に、自然に手拍子が起こる。



ギターのボディを叩いてリズムを取る。
それに煽られる形で観客からは
大きな手拍子が返される。
ワンマンライブさながらの
一体感があった<波>に続く

勢いだけじゃなく、
力強い歌声に、圧倒される。
やはり力強い曲だな、と
歌詞の意味を噛み締める。




詩のチカラとは、
優しく胸に沁みるだけでなく、
胸を激しく揺さぶるもの
もあるのだと改めて思った。




すっかり高揚した場内に、
少ししてから、本日最後の曲と、
紹介されたのは
ライブでおなじみの<空>


以前、死ぬまで歌う曲、と
彼自身が言っていた特別な一曲。


これまでの出来事、
人生に想いを馳せるかのような、
放浪の旅の空の下、
一人歩いていく姿を連想する。


出始めに、歌詞を忘れてやり直す、
なんてアクシデントもあったが、
それもライブの醍醐味。


観客と笑いながら続けるかれは
歌いきった後の、清々しい笑顔で
立ち去る。


姿が見えなくなると、
興奮さめやらぬ観客から、
アンコールを望む声と
拍手が聞こえだした。




"トリ"とはいえ、
イベントライブで、
アンコールはあるのだろうか?



期待しすぎないように、と
気持ちをセーブしつつ、
流れを見守る。


少ししてから、
ステージ端から、再び藤重と、
梶氏が登場。



呼んでくれてありがとう。と、
いいつつも、アンコールは
予定してなかったようで、
椅子に座りながら、何を演奏するか、
二人で相談していた。



愛してる!



ふいに客席から聞こえた声に驚いた。
が、実はこれは見兼ねた観客から、
曲の提案、リクエストだった。


だが、これに対して、
愛してないよ。
と、藤重は迷わず返答。
そのやり取りにさらに驚いた。


歌のタイトルのことだから、と
周囲からすぐ訂正が入る。


これも忘れられないライブの
伝説になるんだろうな、と
思わず苦笑いしてしまった。


そんな中、リクエストに応えて
アンコールは<愛してる>に。


一転して、静まり返る場内。
ただ歌う、藤重の声とギターの
音色だけが存在する。
ざわめきも、なにもない。

一曲ごとの世界に、音に身を
浸すような心地よさを感じていた。


演奏後、藤重は再びステージを
後にした。


ほどなくして、
二度目のアンコールを熱望する観客。

今度は鳴りやまない拍手に
藤重自身が終わりを告げるためにやってきた。

残念がる観客の反応に、嬉しさも
交えた笑いを浮かべて丁寧に
感謝を述べて、去っていった。


心地好い余韻に浸って出た渋谷の街。
その夜は、この時期にしては暖かい陽気な風が吹いていた。



*セットリスト*
<東京>
<郷愁>
<SET ME FREE>
<波>
<空>
*アンコール*
<愛してる>


ライブイベント全部の様子はこちらもあわせて読んでみてください

詩のチカラライブメモ①