今年の1月某日、YouTubeにて道重さゆみさんのモーニング娘。卒業公演の或る一部分が抜粋された動画を視聴していた時、私の中で何か新たな意識の萌芽を明確に感じました。
該当動画の中で歌唱されていた楽曲は、メロン記念日の「赤いフリージア」で、或る程度ハロプロに馴染みの有る方々なら皆様ご存じの通り、道重さゆみさんがモーニング娘。第6期メンバーとなるべくして挑んだモーニング娘。LOVEオーディション2002に於ける最終審査の歌課題曲です。オーディション時に課された楽曲を、卒業公演で再び歌唱する…この意味をハロプロに精通している方々なら即座に理解したでしょう。
彼女は、オーディション時はお世辞にも歌が上手いとは云えず、歌だけを聴くと何故モーニング娘。に加入出来たのか不思議な程、一人だけ浮く程に歌唱力に問題を抱えているのが素人の私にも判りました。モーニング娘。プラチナ期の途中まではシングル曲の中にもほぼソロパートは存在せず、台詞や合いの手で目立つパフォーマンスが割り当てられていた程です。
しかし、卒業公演の動画の中での彼女の歌唱力は「人前で丸々1曲歌ってもモーニング娘。のメンバーとして違和感を覚えないレベル」に成長しておりました。
道重さゆみさんのモーニング娘。在籍期間は約11年10ヶ月間。
10年以上練習を続けた結果、信じ難い程の成長を遂げた事をまざまざと見せ付けられた動画でした。
その時、同時に5期メンバーである新垣里沙さんの2012年の卒業時の事がふと脳裏を過りました。
彼女の在籍期間は約10年8ヶ月間に及び、卒業間際には、常に加入時と比較すると歌もダンスも飛躍的な成長したパフォーマンスをモニター越しに披露しておりました。
某SNS上では、「人間、芸事も10年続ければ上達するんだな」、「10年も続けた事自体が凄いわ、しかも上手くなってるし」etc.彼女の継続力と結果を出した事について賞賛したコメントが相次いでいるのが目に付いたのを憶えています。
同期の高橋愛さんのパフォーマンスのスキルが卓越したものであり、同時に在籍していた田中れいなさんと掛け合いのように1番のサビの部分を歌唱するよう歌割が作成されていた為、あまり焦点が当てられることが有りませんでしたが、新垣里沙さんも10年間以上の期間、地道な努力を重ねた結果をパフォーマンスとして見せて下さいました。
そこで、私も10年何かを続ければ、上達する分野が有るのではないかと云う思考に至った訳です。
勿論、元モーニング娘。のメンバーの方々は、その分野については仕事として真摯に取り組んでいらっしゃいましたし、プロの指導者についておりましたので、状況として根本的に異なるものが有る事を弁えておかなければなりません。また、成長期に着手し始めた彼女達とはあらゆる成長曲線が異なるであろう事にも認識しておかねばなりません。更に現実を直視した残酷な事として、彼女達は多数の応募者達の中から選び抜かれ、素質についてはプロのお墨付きである特別な方々である事を念頭に置いておかねばなりません。
芸事と云う言葉ですぐに思い浮かんだ分野が二つ存在し、そのうちの一つがピアノでした。
ピアノに関しては、未練が有り、どうしても完全に諦めの境地に達する事が難しかったのです。
10代の頃憧憬の念を抱いて聴き惚れていたショパンのバラード第1番や第4番、スケルツォ第1番や第2番etc.10代後半から20代前半の時期にかけ、一度は楽譜をさらってみたはいいものの、当時の実力ではとても楽曲として完成するどころか楽譜通りの音を出す次元にすら至らなかった所謂大曲について、もう一度手順を踏まえた上で練習してみたら、当時よりは上手く出来るのではないか、当時は根気が足りなかっただけではないか、etc.様々な可能性を夢想しながら、様々な事を思い出してみました。
小学校にあがって間もない頃から、世界トップレベルのピアニストであるポリーニが美しくも果敢に奏でるショパンエチュードと英雄ポロネーズ、スケルツォ、バラードが収載されたCDを頻繁に聴いており、当時は全てが雲の上の難曲に聴こえ、私には一生弾ける事は無いだろうと云うより、そもそもこのような楽曲の楽譜を開く事すら許されない事だと直感的に感じ取っていました。
当時はYouTube等の動画が存在せず、自宅に於いては、CDを聴く事でしか曲に関する情報を得る事が出来ず、一生手が届く事が無いであろう旋律に密かに憧れながら80年代に録音されたポリーニの演奏を鑑賞する日々。
これらの曲に取り組む事は、東大理Ⅲに合格する事よりも遥かに難しい事で、宇宙飛行士になれる確率より低いのだと本気で思い込んでおりました。
このような崇高な音楽に憧れる事自体お門違いで、英雄ポロネーズに関しては、CDの1曲目に収載されており、ショパンエチュードと比較して演奏時間も長く、迫力と華に溢れる曲として認識していた為、この曲を弾けるようになる事は「希望」では無く、「夢」の次元の話でした。
この認識を克明に想起し、道重さゆみさんの成長の件を考慮し、「計画を立てて地道な努力を重ねれば、英雄ポロネーズも無謀では無いかもしれない」と、心に希望が灯ったのです。
私は、ピアノ自体、全くの未経験者では有りませんが、音大受験を経験した訳でも無く、「一般の子どもの習い事を経験していた中ではよく続けた部類」と云う位置付けで、更にブランクが存在します。
それは即ち「その時点で弾ける曲などほとんど無い」と云う事で、再開したての頃は、幻想即興曲と革命のやり直しどころか、指がほとんど動かなかった為、ハノンのスケール等で指練習をしてモーツァルトのトルコ行進曲やショパンの子犬のワルツをやり直すところからのスタートでした。幻想即興曲はもう一度片手ずつからのやり直し…と、10代後半頃からの続きから取り組むつもりが、小学校低学年の頃の自分のレベルからやり直しで、地道な基礎練習を続けた結果、革命をインテンポでノーミスで弾き切る事が出来たのが今年の5月。
仕事の都合も有り、この時点では週3日しか練習時間が確保出来ませんでした。
そして、まだまだこの時点では中学時代の自分にも及びませんでした。しかし、週3回であれ、基礎練習や昔学習した曲の練習をやり直していれば、必ず再開したての頃より上達していましたし、楽譜を見る事自体初めての新曲にも数曲取り組む事が出来ました。
今月に入り、スケジュール調整を行い、毎日練習時間を確保するようになり、遂に、子どもの頃は「夢」と呼ぶにもおこがましい存在であった「英雄ポロネーズ」の練習を開始しました。
練習を進めていくにつれ、英雄ポロネーズは決して「夢」では無く、高嶺の花を手に入れるよう無謀な冒険に出掛けるような感覚でも無く、昔播いた種の花の蕾をどうにかして巧く開花させようとしているような感覚に襲われ、「目標への実現」が遠くにではありますが見えてきました。
実は、10代後半の頃、英雄ポロネーズの譜読みは全て終えていたので、意外にスムーズに進んでいるような錯覚に陥っているだけかもしれませんが…。
この記事を投稿しようとしている今も、この状態が信じられず、夢の中に居るようで、夢から醒めたら実は革命も幻想即興曲も覚束ない再開したての頃なのではないかと現実味が有りません。
「子供の頃に母が 読んでくれた話は いつかそのうちきっと 夢が叶う…」
(High-King/シンデレラ・コンプレックス)
ハロプロのシャッフルユニット「High-King」の「シンデレラ・コンプレックス」の歌詞の一部。
「夢が叶う…」の部分は高橋愛さんのソロパートです。
この曲を初めて聴いた時、子どもの頃に抱いた「夢」が実現する事などほとんどの場合不可能だと思っていたのですが、道重さゆみさんの卒業公演の動画を視聴したあの日から認識が変わりました。
あの時、道重さゆみさんの動画を視聴しなければ、「英雄ポロネーズ」は生涯夢のままで終わっていたかもしれませんし、このように希望を持って練習に取り組む事も無かったでしょう。
道重さゆみさん、英雄ポロネーズを作曲したショパン、ピアニストのポリーニ、そして今毎日ピアノを練習出来る環境下に置かれている事、これらの全てにいたく感謝致します。
そして、私の子どもの頃の夢の一つを叶えるべく、日々練習に励みたいと思います。