先日、5年振りの運転免許証更新に行って参りました。

 大人になると誕生日が近付くのが憂鬱な人が多いとよく言われておりますが、肩書としての年齢の数値が上がる事よりも、運転免許証やその他クレジットカード等の更新月に当たり、煩雑な手続きに時間と労力を割かなければならない事が一番の原因だと私は認識しております。

 

 ふた昔ほど前でしょうか、誕生日の1ヶ月前からの僅か1ヶ月間が更新手続き可能な期間として定められており、周りの大人達が大変な思いをして更新手続きを行っていたのを見て育った私は、今の「誕生日の前後合わせて2ヶ月間」の期間に改正された制度にいたく感謝しております。

 更新手続き可能な期間が1ヶ月間のみの時代、勤務医が休日に緊急で呼び出される日が続き、とうとう運転免許証失効してしまい自動車学校入校からやり直しをしたと云う笑えない実話を聞き、運転免許証更新に関しては毎回手に汗握る程の覚悟で挑んでおりました。

 前回の更新時は念には念を入れて9月中旬に免許センターへと足を運んだのですが、今回は諸事情で運転免許取得以来初めて誕生日の後に更新手続きを行いました。先日足を運べなかった場合、日程的な事情で運転免許失効となるところで、壮絶なプレッシャーを抱えながら日々を過ごしていた訳ですが、何とか更新出来、安堵しております。

 

 …とは云っても、私の運転免許証はグッスリと眠っており、幸か不幸か今までそんな怠惰な眠り姫を起こす王子様のキス等のハプニングにも遭遇せず、自動車学校の卒業検定以来一度も自動車の運転をした事が無い為、今更運転出来る自信は全く有りません。もっと正確に言ってしまえば、最初から自動車学校の卒業検定コース及び自動車学校内の車庫入れ以外は操作出来ませんでした。更に突っ込んで言えば、卒業検定コースの操作以外憶える気は有りませんでした。「覚える」では無く「憶える」と云う表現を用いた通り、五感を用いずに記憶のみで作業をして卒業検定を乗り切ったのです。

 卒業検定時、私の番号が電光掲示板に照らされた時は、「これでもう運転しなくても済む」と、心底安堵感を覚えた事を今でも鮮明に思い出します。私は一般入試で大学に合格したのですが、大学受験や中学受験に合格した事よりも格段に嬉しかったですし、試験の中でこんなに難しいものが存在するとは未だに信じがたい程です。卒業検定の前日は緊張で眠れず、国立大の二次試験の前日とは比べ物にならない程に動揺しておりました。150分の理系数学の二次試験など運転免許取得の為の卒業検定を考えれば何度受けても構いません、と云うか数学ならばまた受けたいです。

 

 当時、私の住民票の属する都道府県の自動車教習所は、仮免取得や卒業検定に於いて物凄く厳しかったのか、周りの人達の中でストレート卒業出来た人が居なかったどころか、仮免で7~8回落ちるのが当然、卒業検定は最低3回、酷い場合は10回以上もの受検を経てやっと卒業出来たと云う話ばかり耳にしていたので、私は縁もゆかりも無い都道府県の合宿免許に申し込みました。「10」とは、二進数ではなく十進数です。

 結果、事前に入念な下調べを行った事が奏功し、14日間の最短でストレート卒業検定合格する事が出来ました。

 合宿先の自動車学校でも、同期入校した9名のうち、仮免一発合格は私とあと1人だけで、結局は本質は都道府県や自動車学校の問題では無い事に二段階時に気付きつつありました。

 

 後程判明した事実ですが、私の周りが異常に技能で落ち続けていただけで、平均的には仮免と卒業検定を合わせても落ちた回数は2~3回だけと云う人が多かったです。私の所属していた大学・学部のクラスメイト達は、某国家試験に合格するよりも遥かに運転免許を取得する方が苦労していた気がします。勿論私も例外ではありません。大学生活の中で成し遂げた一番の偉業である、運転免許取得、この苦労をもう二度と味わいたくないので、運転免許証失効だけは絶対に避けたいのです。

 何しろ、私のクラスには、大学の学部3年次になって、入校時MT取得申し込みをしたけれど仮免を受検する権利を得る為の見極めに全く受かる見込みが無いと云う理由から、AT限定に変更する人も数多存在した程ですから。

 

 自動車学校の合宿に参加する前、両親が「教習に付いていけなくならないように練習しておいた方が良い」としきりに言っていたのですが、運転免許を取得していない段階で運転を練習とは如何に…と予てより思っておりました。

 結局私は曖昧模糊とした「練習」とやらをせずに合宿に臨んだのですが、なんと…私が合宿に行っている間、両親が学問の神様で知られる神社を参拝し、合格祈願の絵馬まで書き、その写真を撮って絵葉書にして自動車学校の宿泊所まで送付してきたのです。大学受験の時も中学受験の時も国家試験の時も大学院入試の時もこんな壮大な儀式を行わなかったので、自動車運転免許証取得とはかくも難関である事を痛感しました。我が家や私の周りでは、普通自動車第一種運転免許とは、旧司法試験と同等の難易度として扱われていると言っても過言ではありません。

 

 その合宿についてですが、私が申し込みの意思を伝えた当初、父は猛反対しておりました。なんとその理由が「合宿先にヤクザが来ていて危険な目に遭うかもしれないから」だったのですが、冷静に考えれば、ヤクザならば平気で無免許運転するのではないかと思うのです。

 

 …運転免許取得について、思い出話があまりにも多すぎて、「Lilyの運転免許取得までの軌跡」と云うブログタイトルに変更して詳細を綴っていく方向性がほんの少し脳裏を過りましたが、当時を思い出すのが辛いので控えておきます。

 自動車教習所の実技は運動神経と相関が有るとよく言われますが、私の経験則として、全く当てにならない言い伝えだと断言出来ます。私はスポーツ競技の出来はさておき運動神経は良い方で、特に短距離走や敏捷性はかなり優れた方でしたが、運転技術については教官からも運転は向いていないと断言される程に低い能力しか持ち合わせていなかったようです。適性の無い分野は潔く諦めてその場凌ぎで試験だけ乗り切る方針の私は、教習所の合宿中に既にペーパードライバーになる事を決意していました。

 

 そんな私が何故卒業検定を一発で合格出来たのか種明かしをすると、非常に幸運な事に、検定中緊急自動車が対向車線から走行し、教官が全て横で操作の詳細を指示してきたのでその通りに行っただけで、検定終了後も理論的に何故そうするのか全く理解出来ていなかったのです。マリオネットの私は緊急自動車のお陰で合格出来たようなものですから、大学在学中の運をここで使い果たしてしまった訳ですが、残りの分野は努力で何とか出来る難易度のものだったので丁度良いタイミングで幸運の女神が舞い降りたと言えます。

 運も実力のうち、なのですかね…誕生日も非常に良い時期で、子どもの頃から一年で一番理想的な日に産まれてきたと信じてやまなかった私は、楽観的なのかポジティブなのか単なるナルシストなのか判別が付きませんが、誕生日が気に入った時期であるのは良い事だと思います。

 

 ゴールド免許所持者は試験場ではなく免許センターで更新可能なので本当に良いですね。

 講習では、環状交差点の運転の仕方の規則や飲酒運転の危険性について教わりました。

 とりあえず、身分証明書として信頼性の高いものを更新出来て何よりです。

 そして、いい加減に卒業検定や仮免の一発合格を自慢するのを止めようと思います。このような事が自慢になる環境自体が問題だとそろそろ気付かなければなりません。

 

 

 帰りに美術館で作品鑑賞しながら「何故私が撮影を続けるのか」と云う問いかけの答えをやっと導き出せた気がしました。

 眠り姫がまだ恵まれた環境の中で眠れるうちに、実質無免許生活を堪能しようと思います。