秋の虫はきりぎりすか鈴虫か | 菊と斧

菊と斧

 斧

先週のお茶では初炭手前をさせていただいた。

 

ーお香合は?

ーきりぎりすでございます。

 

と、先生が、鈴虫でしょ!

 

鳴き声なら知っていても姿を見て鈴虫ときりぎりすの区別はつかなかった。

 

古典では鈴虫よりもきりぎりすの方がよく登場すると思い、お茶道具でも使われるならきりぎりすに違いない、と思ったのであった。

 

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかもねむ

 

藤原良経の歌で、百人一首に登場する虫はこのきりぎりすだけ、だったと思う。

 

一方、源氏物語の巻名では空蝉、胡蝶、蛍、鈴虫、蜻蛉、の五つの虫が見られる。

こちらの鈴虫は庭に秋の虫を放ってその鳴き声で女三宮をなぐさめようとしたものだった。やはり鳴き声では鈴虫が最も好まれたのか。

 

ところが、今いう鈴虫は昔は松虫で、松虫が鈴虫だった、という説がある。松虫もいい声で鳴くので両者の間に混乱があったとしても不思議はないというべきか。

 

鈴虫と松虫に比べるときりぎりすの鳴き声は劣ると言わざるを得ない。が、しかし、きりぎりすも昔は今のこおろぎだったという説が有力で、こおろぎなら鈴虫や松虫と比べても遜色はない。

 

灰汁桶の雫やみけりきりぎりす

 

この凡兆の句のきりぎりすもこおろぎだったと思う。

 

鳴き声のよさを比べても客観的な基準はないから、一番は?ということにはあまり意味はない。それぞれの好みでいい。

だが、古典を見ている限りではきりぎりす(今のこおろぎ)が一番好まれたようで、それには鳴き声のよさもおおいに寄与しているだろう。

 

ちなみに、我が家の庭ではこおろぎと鈴虫の声は聞こえてくるが、松虫はいないようだ。