『My First HERO』71 | 木村春翔のブログ小説『My First HERO』

木村春翔のブログ小説『My First HERO』

「My First HERO」は自叙伝小説

その人は私の人生の良き先輩で、
私にとっては一番身近なヒーローだ。

My First HERO-71-

新年度、4月、今月から梅子は休学になった。
「いい加減、両親に甘えたらどう?自分の治療費自分で稼ぐ患者なんてあんまりいないよ。」
「…。」
小野田先生の研究室。言われていることごもっともなれど梅子が親に甘える姿は梅子自身まるで想像がつかない。
人に甘えるということがどういうことかわからない。
梅子は頭の中で「甘える」=「わがまま」と考え、相手に迷惑をかけると思うと罪悪感でいっぱいになる。
親に反抗することもまたできなかった。
こちらは罪悪感よりも「あきらめ」のほうが大きかった。
「自分の意見は言ったってどうせ通らない。」そう梅子は決めつけていた。
「自分の親なのになんで言いたいことが言えないのかねぇ…。」
さすがにこれだけ頑なに梅子が拒むのでは小野田先生も参る。
梅子は昔から今までを振り返る。
自分の親には話したくない、話せない心の引き出しがいっぱいあった。
それを梅子が勇気を出して話すということが、梅子にとってどれだけ高い壁でまた両親が受けるダメージがどれほど深いものなのか、梅子は想像したくもなかった。

しかし現状は厳しい。
梅子のひと月の仕送りは4万円が限界だと言われた。だがこれは家賃、光熱費、水道代でほぼ吹っ飛ぶ。梅子はコンタクトレンズのお金や美容院のお金でさえ親にまともに請求するのが申し訳なく、一人少ない貯金を崩して行くこともあった。

それだけ梅子のお金に対する「罪悪感」は大きかった。
結局梅子は暇さえあればケータイで求人を探していた。
自分でもできそうな仕事はないかと。

「ただいま~。」
帰ってきたのは森山くん。
彼は大学院二年生に進級、学校の「支援員」という形で働き始めた。
半社会人という形だ。
働くのを理由に一人暮らしもできるようになった。
お金に余裕があるわけではないが、生活できないわけでもない。
梅子にとってはうらやましい。

「疲れた~。」
帰ってくると森山くんは梅子にベッタリだった。
…元々ベッタリなことも多かったが。
それでも梅子の体調に合わせて仕事の後もどこかドライブに連れて行ってくれることもたくさんあった。

自然結婚話も出た。
彼の落ち着き先が決まれば梅子は結婚したかった。

それは後に結局叶わない話となる。