その人は私の人生の良き先輩で、
私にとっては一番身近なヒーローだ。
My First HERO-53-
「今年の教員採用試験あきらめたら?」
小野田先生の研究室。
梅子は相変わらず卒論以外の勉強に手がつかなかった。90分の大学講義さえつらいこともあった。
「治療の時間稼ぎと思って大学院に進んでもいいと思うよ。」
しかしそれも問題だ。
梅子も梅子の家族もそんなつもりはなかったうえ、経済的にも余裕がない。
「非常勤とか…。」
「それは今やってるアルバイトが続けばね。」
梅子は四年からまた実家生に戻り、地元でアパレルのバイトを始めた。洋服が好きで始めた仕事。しかしそれも週末1日8時間労働はかなりきつかった。
働けない…。
しかし、小さい頃から「お金がない」と耳にタコが出来るほど両親から聞いてきた梅子にとって大学院進学を両親に頼むことは罪悪感の固まりとして重くのしかかるのは間違いなかった。
自分の病気が心底憎かった。
実家に帰った梅子は重苦しく大学院の話を切り出した。
両親は「お金どうする?」などと言いつつ、梅子が働けない状態なのは十分承知していたため、あっさり承諾してくれた。
「自分が病気じゃなかったら…」そればかり考えていた。