時代の先駆者は、それ自体がお手本となるがゆえに、陳腐化し、忘れ去られていく。

Bob Mosesは、まさに「忘れられた先駆者」の1人である。

 

 

彼はクロスオーバー、現在フュージョンと呼ばれるジャンルの第一人者である。

Buddy Rich楽団に所属する前のSteve Marcusや、Pat Methenyと共演し、

まさにジャズとロックを行き来するようなプレイを披露していた。

 

ジャズの文法でロックを演奏するのは、ドラマーにとってチャレンジングなことだ。

フロントマンのアドリブの嵐に耐えつつビートを刻むだけでなく、

他のミュージシャンと、音楽的な対話をし続ける必要もある。

 

Bob Mosesは、そんなチャレンジングな行為にいち早く挑戦してきた。

彼は、ジャズの奔放さとロックの荒っぽさとが同居するような、

まさにクロスオーバーのお手本となるプレイを残している。

 

 

明るくもシズルの効いたシンバルワークの美しさ、

そして、楽曲の質感をキープし続ける演奏技術の確かさなど、

もっともっと知られていてもいいミュージシャンだと、僕は思っている。

 

惜しむらくは、Steve Marcusが先駆的なアルバム3枚を残したのち、

Buddy Rich楽団のリーダーとしての活動に集中したことと、

Pat Methenyとの共演者が、Jaco Pastoriusというビッグネームだったことだ。

 

楽曲の構築に徹し、派手なことを避けるドラマーが注目されないのは、

そのようなドラマーの宿命なのかもしれない。

しかし、新たな音楽に命を吹き込むのは、いつだってドラマーである。

彼がいなければ生まれなかったであろう音楽の数々を聴くたびに、

彼が世の中に残した功績を思わずにはいられない。