僕とTは長年、義兄弟の契りを交わしたような篤い友情で結ばれているが、温厚なTを1度だけ怒らせてしまったことがある。

20代後半のある日、酔っ払って「次は女の子のいる店に行こう」ということになったのだが、根っからのいちびりな僕は、2軒目の店に「おかまバー」を選んだ。
もちろん、Tには内緒である。

今にして思えば、なんと残酷なことをしてしまったのだろうと、心が痛む。

キレイ系の子がぴったりとカラダを密着させて隣に座り、「ワタシのタイプ」なんて熱い眼差しで迫ってきたら、奥手のTがクラクラくるのは当然のこと。
何しろ血気盛んな20代のことだから、ちょっとしたスイッチで 「ホレたぜ!乾杯!」になってしまうのは必定。

けれど幸福は、そう長くは続かない。
この店の「ショータイム」によって、現実と直面したTのテンションは、深い奈落の底まで堕ちていった。

あんなに嬉しそうたったT。
最初は照れて無愛想だったのが、万年雪がじわじわと溶けるように心を開いていったTの笑顔は、陽炎のようにはかなく消えてしまった。
いい顔してたのに・・・。

Tはプンスカ怒って帰ってしまった。 
僕にしたら、ちょっとした「ドッキリ」のつもりだった。
ゴメンよ。

かつてのビデオのときのように、「いまどきは、こんなんが流行ってるのか」と、メガネのくもりを拭きながら涼しげに言ってくれると思っていたんだ。

その日から電話にも出てくれなかった。
僕は深い反省の日々を過ごしていた。
長い長い真冬の到来だ。
翌年の元旦、Tから年賀状が届いた。
「今年もよろしく」と書かれた文字をみて、「ああ、Tは許してくれたんだな」と胸を撫で下ろしたが、よく見ると年賀ハガキの一番下に、

「もうオカマはゴメンだぜ!」
と書いてあった。

「だぜ!」、だぜ。

スギちゃんがテレビで「だぜ」というたび、僕はドキリとする。
あの夜のワイルドなTの姿を思い出して、今もときどき肝が冷えるぜ。