「・・・ん?」
僕は我が目を疑った。
持ってきたビデオ・コレクション、ケースのラベルにはマジックで「味の招待席」と書かれており、しかも1,2,3・・・とナンバリングまでされている。
この「味の招待席」とは、月曜から金曜までの毎日、9時の番組と10時の番組の間に放送されていた、実質3分くらいの料理番組で、関西の料理屋とそこの人気メニューの作り方を、タキシード姿の桂米朝師匠がナレーションで紹介するというものだ。
確かにその語り口と料理の映像は、小腹の減った夜の10時前には食欲をそそるものだが、
なぜそれを今、ダビングしてまで見なければならないのか。
「味の招待席」はかなり以前から、Tが弟と一緒に毎日、几帳面に録り溜めているのだそうだ。
「えっ?・・・これ、繰り返し見てるの?」
「たまに、な」
Tはすました顔で答えるが、僕は心の中で、この悲しい兄弟の姿を思い浮かべて目頭が熱くなった。
「おいジュン、録画のセットは済ませたか?」
「ちゃんとセットしたよ、お兄ちゅゎん」
「ビデオテープが一杯になったら、一緒に見ような」
「うん。一緒に見ようね、お兄ちゅゎん。ひとりで見ちゃダメだよ」
「はははは。こいつぅ!」
そしてある日、ビデオを再生する。
「お兄ちゅゎん、あの急須の中の茶色い食べ物は何?」
「あれは松茸っていうんだよ」
「ふーん、あれが松茸か・・・美味しいんだろうな」
「お兄ちゅゎんも食べたことはないけど、米朝師匠がいうんだから、きっと美味しいんだよ」
「松茸食べたいよぅ、松茸食べたいよぅ」
「ガマンするんだ、ジュン。いつかお兄ちゃんが働いて、きっとお前に腹いっぱい松茸を食べさせてやるからな」
「約束だよ、お兄ちゅゎん。きっとだよ、絶対だよ!」
「ああ、約束だ。きっと守る。それまではこの永谷園のお吸い物でガマンするんだ!!」
嗚呼、想像するだけで涙が止まらない。
自宅のビデオデッキの配線を全部取り外して、自転車カゴに精密機械をのせて、我が家まできてくれたことは深く感謝するが、「味の招待席」のダビングでビデオデッキ・デビューすることは、高校生の僕には渋すぎるので、丁重にお断りした。
しかし「味の招待席」をコレクションしていた彼の弟ジュンは、その後もビデオなどの映像機器やテレビ番組に興味を持ち続け、現在はプロとして某テレビ局の番組制作に携わっている。
僕は我が目を疑った。
持ってきたビデオ・コレクション、ケースのラベルにはマジックで「味の招待席」と書かれており、しかも1,2,3・・・とナンバリングまでされている。
この「味の招待席」とは、月曜から金曜までの毎日、9時の番組と10時の番組の間に放送されていた、実質3分くらいの料理番組で、関西の料理屋とそこの人気メニューの作り方を、タキシード姿の桂米朝師匠がナレーションで紹介するというものだ。
確かにその語り口と料理の映像は、小腹の減った夜の10時前には食欲をそそるものだが、
なぜそれを今、ダビングしてまで見なければならないのか。
「味の招待席」はかなり以前から、Tが弟と一緒に毎日、几帳面に録り溜めているのだそうだ。
「えっ?・・・これ、繰り返し見てるの?」
「たまに、な」
Tはすました顔で答えるが、僕は心の中で、この悲しい兄弟の姿を思い浮かべて目頭が熱くなった。
「おいジュン、録画のセットは済ませたか?」
「ちゃんとセットしたよ、お兄ちゅゎん」
「ビデオテープが一杯になったら、一緒に見ような」
「うん。一緒に見ようね、お兄ちゅゎん。ひとりで見ちゃダメだよ」
「はははは。こいつぅ!」
そしてある日、ビデオを再生する。
「お兄ちゅゎん、あの急須の中の茶色い食べ物は何?」
「あれは松茸っていうんだよ」
「ふーん、あれが松茸か・・・美味しいんだろうな」
「お兄ちゅゎんも食べたことはないけど、米朝師匠がいうんだから、きっと美味しいんだよ」
「松茸食べたいよぅ、松茸食べたいよぅ」
「ガマンするんだ、ジュン。いつかお兄ちゃんが働いて、きっとお前に腹いっぱい松茸を食べさせてやるからな」
「約束だよ、お兄ちゅゎん。きっとだよ、絶対だよ!」
「ああ、約束だ。きっと守る。それまではこの永谷園のお吸い物でガマンするんだ!!」
嗚呼、想像するだけで涙が止まらない。
自宅のビデオデッキの配線を全部取り外して、自転車カゴに精密機械をのせて、我が家まできてくれたことは深く感謝するが、「味の招待席」のダビングでビデオデッキ・デビューすることは、高校生の僕には渋すぎるので、丁重にお断りした。
しかし「味の招待席」をコレクションしていた彼の弟ジュンは、その後もビデオなどの映像機器やテレビ番組に興味を持ち続け、現在はプロとして某テレビ局の番組制作に携わっている。