毎年、蚊取り線香の匂いを嗅ぐと、
親友Tの横顔が目に浮かぶ。
  
あれは高校2年生の夏、月曜日のことだ。
いつものように部活に出て、道着に着替えながら、
ふとTに目をやると、
かなり日焼けしているのに気が付いた。
  
「あれ?昨日どこか行ったん?」
 
柔道部員が真っ黒に日焼けすることはないのだが、
昨日の日曜日は部活も休み。
 
きっと弟とプールにでも行ったのかもしれない。
  
「・・・ん?」
 
振り返ったTの顔をみて僕は驚いた。
Tの顔はマジンガーZのアシュラ男爵のように、半分だけ色が違う。
左半分だけ、赤みを帯びた日焼けをしているのだ。
 
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いったい昨日、彼の身に何が起きたのだろうか。
 
  
  
日曜日、彼はテレビをつけっぱなしにして、
ゴロンと昼寝をしていた。
 
ブラウン管の向こうでは、
「たけし軍団」が粉まみれになっているが、
そんなこと、Tの知ったことではない。
 
家族もみんな出かけて留守なので、
ひとりきりで心置きなくダラダラと
怠惰な眠りを貪ることができる。
  
開けっ放しの窓からは、
山間からの風が入ってきて、
心地よくカーテンを揺らす。
風鈴の涼やかな音を子守唄代わりに、Tはまどろんでいたそうだ。
  
しかし、彼の至福の時間は、
部屋に入ってきた1匹の「蚊」によって、
あっけなく奪われてしまった。
 
顔や腕、足、各所を吸われて痒くてたまらない。
仕方なく彼はもっそりと起き上がって、
噛まれた個所に爪で×印をつけながら、
「蚊取り線香」をさがした。
  
蚊取り線香はすぐに見つかった。
 
しかし喫煙の習慣のないマジメな高校生が家じゅう見渡しても、
肝心のライターが見当たらない。
マッチはあったけど、
少し湿り気味の蚊取り線香に火がつくより先に、
彼の指先が焦げてしまう。アチチ・・・。