帰ってきたキースさん
 
 
僕が高校生の頃、某楽器店の掲示板で募集した、
ローリング・ストーンズのコピーバンド。
集まってきたのはみんな僕より年上の社会人
だけど、今から思えばどうしようもない人たちだった。
 
 
現在、43歳の僕からみれば、
20代後半なんてまだまだ「ヤング」なんだけど、
当時の20代後半はけっこう老けている人が多かった。
 
しかし、たとえば僕が生まれ育った「あびこ道商店街」も、
当時は「世界」そのもののように感じていたんだけど、
大人になって戻ってみたら、
現実にはとてもこじんまりしているのと一緒で、
バンドメンバーのキースさんやワイマンさん、チャーリーさんも、
きっとケツの青い若造だったに違いない。
 
 
バンドをはじめて数か月、
キースさんが「就職の面接」に出かけた。
 
背広を着て、髪を整えて、
欠けた前歯に差し歯を入れたキースさんと、
河内長野駅のホームでばったり。
親戚の知り合いの会社で、臨時採用の面接を受ける。
面接は形式だけだから、ほぼ採用だとキースさんは言った。
 
 
「だけどよ、こんな恰好するようになったら、オレも終わりや
マルボロの煙を燻らせながら、キースさんは言う。
僕は無性にさびしくなって、
「何をいうんですか、
ワイマンさんなんて普段着がビジネススーツですよ!」って慰めたり、
背広って実はもっとも機能的な服装で、
探検家のユニフォームみたいなものだとか、
いろいろマメ知識をまくしたてた。
 
 
キースさんは「フッ」と笑って
「これからはオマエみたいな若者がロックし続けてくれ
なんて言いながら、
ガシャコン!と自動販売機で缶コーヒー、
しかもホットを買ってくれた。
 
高校生の僕にとって「缶コーヒーのチョイス」が「大人」だった。
まあ、ホットなんていうけど、当時の自販機なんて、
「あたたか~い」と「つめた~い」のジャンル分けで、
気取るほどのものではないんだけど。
 
 
バンド、続けますよね
恐るおそる、僕はキースさんに確認した。
「まあ、当面は今のまま続けるけどな・・・」
「はあ」
「そのうちオレが出世して、お偉方と付き合うようになったら、バンドも終わりやな」
という返答をきいて、僕は安心した。
まず「ない」と確信していたからだ。
 
 
やがて電車がやってきた。
キースさんは僕の方を一度も振り返らず、電車にのった。
後姿でこちらに親指をたてて
(やめてくれ、恥ずかしい)
 
扉が閉まる。
 
ゆっくりと電車は動き出す。
僕もその場を立ち去ろうとして、
ベンチに置き忘れたキースさんの大判封筒に気づいた。
感電でもしながら書いたような個性的な字で、
りれき証ざい中」と記されていた。
  
  
履歴書は忘れたけれど、仕事は採用になった。
1週間ほど通って、キースさんは元のキースさんに戻った。
「歓迎会」のカラオケスナックで、
酔っぱらった上司がやたらとからんできて、、
「よく動く口だなあ」と、黙って眺めていたけど、
だんだん飽きてきたところで、
上司の額でタバコをもみ消して店を出たそうだ。
 
It's Only Rock'n Roll!
  
 若い頃は「カッコええなぁ」って感動したんだけど、
大人になって冷静に考えたら、
やはりどうしようもないヤツですね、キースさん。